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異世界からの帰り方   作者: たかなしことり
二日目
6/26

初めて魔法を見る

 俺とマーシェが元の場所に戻ってくると、全員揃っていて、リズベルが手に持った紙を読み上げた。

おお。なんか噂に聞く魔法っぽい。ふわっと紙が燃え上がる。すげぇ。やべぇ。


「魔法よ。ま、ほ、う。分かる?」

突然、リズベルの言葉が意味を持って聞こえた。わぁ!びっくり!

「手短に聞くわよ。あなた、どこから来たの?」

「えっ、えーと、どこって。い、異世界?とか?」

「は?」

さすがにしばらくリズベルが絶句するが、すぐに気を取り直す。

「本気で言ってるの? じゃあその異世界からどうやって来たのよ?」

「分からない。俺はただ歩いてただけで。」

「一人で?」

「ああ。」

「いつ来たの?」

「昨日の・・昼過ぎかなぁ。」

「じゃあ、気がついたら森の中ってこと?」

思わずブンブンとうなずいた。リズベルの眉間のしわが深くなる。

「森の中に出入口があったってこと?」

「いや、それが、たぶんそうなんだろうけど、実際にはどこがそうなのか全然分からなくてさ。」

「えー!それってどういうこと? 出てきたところから戻れるでしょう、普通。」

「相当探したんだけど・・。」

「探し方が悪いんじゃ¥&@$%〒」

途中で聞き取れなくなった。

 え、もう効果切れ?


 リズベルはため息をついた後、話をまとめて皆に伝えたようだ。全員、うへぇという顔になった。

 だよなぁ。俺だって例えば街中で出会った相手が「異世界から来ました。」なんて言い出したら、まず中二病か正気を疑うかの二択だろう。

 全員顔を寄せてヒソヒソ話しあった後、茶髪野郎がぷんすか怒って、ファラがなだめて、サラが肩をすくめて、という一連の流れがあって、どうやらリズベルはもう一回さっきの魔法を手に入れに行ったらしい。他の者はぞろぞろと違う方向に動き出した。馬車はマーシェが手綱を引いている。

 俺もついて行っていいのかな?

 ためらっていると、アティスがにこにこと俺の服を引っぱってくれた。

なんか嬉しい。しかしよく見ると、この子の目、めっちゃ青いな。


 入っていったのは、ちょっと立ち食いソバ屋みたいな建物だった。横の路地に馬車を止めて、カウンターっぽいところに席を占める。ファラが何かしら注文して、届いたあたりにリズベルが合流した。

 目の前に、煮物っぽい物とパンが押しやられて来た。

 食。うん。味が極薄だけど食べられなくはない。とにかく半日以上ぶりのメシだ。有り難い。山盛り食べたい。

 リズベルを中心に、会議が始まる。どっちみち蚊帳の外なんだけど、話の中にヒロキ、ヒロキと連呼されるのが気になる。やがてリズベルが何かを指折り数える。何か相談がまとまったらしい。きっと俺のことだろう。


 食事が終わると、ファラがスーッと馬車の方に離れたので、俺もそちらへ行きかけるが、リズベルに引っ張られてさっきの広場に連れて来られた。そこでリズベルは立ち止まると、大きく息を吸って、何か呟き始めた。

 それがいわゆる魔法の詠唱だと気づいたのは、しばらくぼけっとその呟きを聞いた後だった。さっきの詠唱に似ているような気がする。

 詠唱が止んだ。


 「ええと。私たちは旅の途中だから、あなたを元の場所へは連れて行けない。一人で戻るか、私たちと行くか、選んで。それと後、私たちと来ても、次の次の街では解散になるから、後は自力でなんとかしてもらわないとなんだけど。」

 答えようとしたけど、声が出ない。あれ?口の中から、息の音しかしない。

「あ、一方通行みたいね。この町で、あなたを元の世界に戻してくれる人を探してもいいし、一緒に来て、魔法研究所で異世界を知っていそうな人を探してもいい。とにかく、いずれにしてもその服を売ってお金に換えてね。手持ちがいるでしょ。私たちの出発は明日だから、今日の夕方#&@☆」

魔法の場が消えてしまうと、リズベルは疲れたように息をついた。


 明日出発だから、夕方までにどうするか決めて支度しろという事だろう。

 決めるの時間なさすぎ。どうしよう。

 正直、あの森から離れるのは怖い。リズベルが言った通り、出口があれば入り口もあるってのが普通だからな。だからって、一人でなんとかしてあそこまで戻れるとは思えないし、あれだけ探してなかったのに、改めて入り口が見つかるとも思えない。何よりもう一度、一人にされるのツライ。どうしよう。俺、このままここで生きていくのか?

 ぐるぐる考える。

 こういう時、どうするのが正解なんだ?

 破滅フラグ回避ルートとか、そういうのないのかよ!


「一緒に連れてってください!」

相当考えた後、結局一人にされるた時の事を考えて、チキった俺である。

リズベルに頭を下げると、黒髪の少女はキョトンと俺を見て何か言った。分からないので繰り返す。

「一緒に行きたいっす!」

「タイス?アセジュ?」

 ウンウンと頷くと、リズベルは肩を竦めて、他の連中を見た。しばらく全員で相談し始める。茶髪メッシュ野郎がこちらをジロリと睨んだ。嫌な感じだなぁ。なんか、あいつだけ当たりが強いんだよな。それをアティスがなだめるように声をかけて、どうやら話はついたらしい。


 宿は、さっき昼めし食った店の裏手だった。

 着くと、ファラにまず着替えを渡された。そういや服を売れって言われたな。

 部屋に入って行くと、普通の八畳ぐらいの広さにベッドが右に三つ、左に三つ並んでいる。病院の六人部屋みたいだ。しかも多分、病院のよりずっと狭い。そして仕切りはない。カーテンもない。プライバシーも、ない。

 奥の角はリズベルが、横はアティスが陣取る。リズベルの向かいはサラ、隣がファラ。俺はその隣、一番入り口側だった。


 ファラが手まねで着替えろと言ってくるので、とりあえず着替える。そしてびっくり。シャツの肌触りがごわごわする。ボタンがデカくてすげぇ手作りっぽい。素材は木かな? ズボンも生地が分厚くて飾りっ気が何もない。ポケットすらない。


 売るって言ってたので、着ていた服を全部ひっくり返して、ポケットに何も残ってないのを確かめる。ボディバッグは勘弁してもらった。スマホと財布が入っている。帰った時、これがなかったらかなりキツイ。帰れるかどうかはともかく。


 ちなみにこちらではファスナーが存在しないらしい。俺のジーンズのチャックを開けたり閉めたり、相当不思議そうに一人一人試して、最後は茶髪メッシュ野郎が取り上げた。こっちのズボンには、社会の窓は存在しなかった。ベルトもなくて、なんと柔道の道着みたいに腰紐でぎゅっと締めるタイプだった。


 結局そこそこの値段になったらしい。後でマーシェが並べて見せてくれた所によると、金貨が三枚と銀貨が四十五枚、銅貨が五十枚。そこから今着ている服代と今日の宿代とで、金貨一枚を持って行かれた。

 ぼったくられてないかちょっと不安だが、ここは信用するしかない。


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