なんかオオカミに追われる
あんまり起伏はないけど、木の根がすごくて、歩きにくい。息が上がる。
本当にこっちで大丈夫かな。
歩きながら、でもぐるぐる考えが止まらない。
植生が、日本に似ている感じはする。もしかして、もしかしたら異世界じゃなくて、例えば日本のどこか、秋田の山の中とか、そんなんだったらまだ救いがある。
それだったら、まだ歩いてでも、電車でも家に帰れる。
ちょっと木立が切れたので、空を見上げる。
めっちゃ夕方だ。ヤバい。
空の端っこに、うっすら黒い雲が縦に浮かんでいる。
うっすら、黒い。
あ・・・、煙?
煙?! いや分かんないけど。煙と思って見たら、煙っぽい。
よし!誰かいるかも。当たりかも。
とにかくそっちに向かって、歩き出す。
だけどヤバい。そんなにいかないうちに、結構暗くなってきた。
落ち葉とか苔とかで滑りやすいから、スマホの明かりで時々照らしながら進んでいるが、どうにも心細い。
あの煙、気のせいだったのかも。もう木に隠れてほぼ空は見えない。今のうちに、登れる木を探しておいた方が良いのかな。
そう思った時だった。
不意に背後でグルグル、と犬の唸り声がした。
犬?
思わず振り向いて、ふぉおおうと声が出た。い、犬じゃねぇ。でかい。牛か。クマか。
少し距離があるからはっきりとは分からない。もう背後はかなり暗い。でも俺の肩ぐらいの高さできらっと目が光っている。こっち見てるよ。恐え〜!
どっか逃げるとこ!どこだ!
スマホの明かりでぐるぐる辺りを照らしたら、それが当たって一瞬その目が怯んだ。
よしゃ!今のうちだ!
まだ進行方向は、木のシルエットがうっすら見えている。足がもつれる。ヤベェ!木の根に引っかかる。何とか前に進むが、登れそうな木なんかどこにもない。
やばいやばいやばいやばい、泣きそう。
俺このまま喰われて死ぬのかも。後ろで落ち葉を踏む足音がする。時折ふわっと獣の気配がすぐそばに来る。スマホをめちゃくちゃに振り回して、しのぐ。
息が切れる。肺に空気が入ってこない。
何十度目かにつまずいて、もう心の中でも悪態が出なくなった頃。不意にちらりと白い点が見えた。
一瞬他の動物の目かと思ってギョッとするが、一つだけだ。動かない。
もしかして、灯りか?!
人の家かも!
助かった!助かるかも!くそっ!走れ!動け足!