午後 ちょっと休憩
すぐに町が見えて、中に入る。最初に見つけた飯屋に入った。
中はどこかの商人の一団が、あらかたを占めていた。隅の方にテーブルを見つけて座る。
マーシェが適当に料理を頼む。やっと落ち着いてきた。
店の中はやっぱりおっさんばかりだった。店員もおっさんだ。さっきちらっとおばちゃんが見えたけど、それ以外ほんとに男ばかりだ。
残念だよ。盾の人にしろ、ありふれた職業の人にしろ、みんなハーレムみたいなパーティ組んでるじゃん。俺にもせめてちょっとした出会いがあってもよかったのに、とか思う。へそ出した女剣士とか。うさ耳の獣人美少女とか。
出会えたのはリズベルだけだけど。見たところ12、3歳だから、俺の守備範囲外だ。
「女の子は表に出てこないんならさ、リズベルはなんで、このパーティにいるんだ?」
つい聞いてみる。
「それは、私が超~優秀な魔法使いだからよ。」
リズベルは即答した。
「たとえば?」
聞くと、それには返事がない。ファラがごほんと咳払いして、説明した。
「つまり、優秀な魔法使いは、自分や他人の能力を増強したり、減衰したりすることができる。」
「おおー。」
沈黙。
え、それで説明終わり?
料理が運ばれてきたので、みんななんとなくそちらに意識が向いたときに、ファラがそっと耳打ちした。
「男が勃たなくなる魔法が使えるってことだ。」
あ、えっ、なんっ、あ、あーなるほど。そゆこと。
やっぱ現実って厳しい。元の世界でだって、うっかりするとそんな犯罪に巻き込まれる可能性がある。治安がいいと言われている日本でだって、満員電車の痴漢は日常茶飯事だろう。ましてこんな中世みたいな世界じゃ、女の子がミニスカートで冒険者やってまーすなんて、どう考えたってありえない。
「女剣士のいる町もあるけどな。内側を守るのにいて、男みたいな格好してる。ぱっと見分かんねぇよ。」
温かいシチューを食べながら、龍神様を見る。
「龍神様は、世界の治安とかを図ったりしてくれないわけ?」
口にしたら、マーシェにガンッと足を蹴られた。
「いっっ」
思わず身を折る。痛いよ。ひどい。
リオンはフォークに刺した肉を頬張りながら、うんうんとうなずいた。
「世界の治安ね~。そう言えば、十年ぐらい前に、やっぱりどこかからやってきた奴が、『どうしてもこの世界をヒトの手に取り戻したい!みんなが幸せに暮らせる世界にしたい!』て熱弁するもんだから、まあ、そこまで言うんならと思って、僕が使ってた剣を遣ったら、そこら辺の亜人を殺しまくってさ~。大変だった。あっちこっちの恨みを買うしさ。手に負えなくなったんで、ケニフに頼んで殺してもらった。」
どっかで聞いた話だ。
「黒大陸で。」
「黒大陸だったかなぁ。」
「異世界人だったんですか?」
「かもねぇ。何しろ魔王がどうした、勇者がどうしたって訳わかんなかった。」
神様の気まぐれひどい。
それってありなの?
「うちの兄貴をそんなことに使うの、やめてもらいたい。」
マーシェがぼそっと言う。
「あーごめんごめん。」
リオンはあっけらかんとしている。
「面白いと思ったんだけどなー。」
なんかすごく疲れてきた。
食事を終えたサラが、立ち上がる。
「次はどのあたり?」
ああ。そうだ。本来の目的を忘れるところだった。
席を立つ前に、俺はスマホを取り出した。
「写真、撮ってもいいかな?」
「肖像画?ここで?」
皆驚いて、顔を見合わせる。
神様翻訳アプリは、若干難ありだな。
さっと写真を撮ったら、みんなキョトンとしている。
画面を見せたら、小さなどよめきが起こった。
「やっぱ、すげぇな。この板どうやって作るのか、本当にお前、分かんねぇの?」
「ごめん。」
「役に立たないよなー。今度来るときは、こっちで作れそうな設計図でも持って来いよ。」
ファラの言うことは無茶苦茶だ。思わず笑う。
「二度目は勘弁して。」
電源を落とさずにスマホをバッグにしまう。
勘定を払っていたマーシェが、俺の分のお釣りを返しながら言った。
「お前の世界はここより進んでいると思うが、お前自身の体力は低めだ。限界だと思ったら俺に言えよ。」
「分かった。」
ずっと仏頂面なのに、実は一番面倒見がいいかも。口うるさい母親みたいだ。




