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異世界からの帰り方   作者: たかなしコとり
八日目

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24/26

午後 世界は穴だらけ


ワイバーンの背中に乗れるなんて夢みたいなこと、体験できると思わなかった。

掴まれるように手綱と鐙をかけてある。

マーシェ達がややげんなりしたような表情なのが気になったが、それは飛び立ったらすぐ分かった。

たとえるなら、高速道路をぶっ飛ばすオープンカーに、帽子も風防もなしで乗るような。セスナの全力曲芸飛行のような。


ファーツェの城壁の外に出て、三頭の飛竜の背に分かれて乗ったけど、サラはどうやら魔法で空気の層を作って風を防いでいるらしいし、後ろに乗っているリズベルとファラはその恩恵を受けている。マーシェとアティスはゴーグルみたいなのを持っていて、口元はバンダナで覆っている。リオンは俺の後ろに陣取って、俺を風除けにしている。ひどい。まともに風を食らう。目も開けられない。

最初は「俺が前でいいんスか?」なんて喜んでいたりしたが、すぐ後悔した。

あのでかいコモドドラゴンもひどかったけど、こっちもひどい。二度とワイバーンの背中になんか乗らない。二度目があればだけど。


「どっちに飛んでるんっスか!」

風に巻かれながら何とか叫んだが、龍神様はげらげら笑いながら

「面白い顔ー!」

とか言っているだけ。

大丈夫なんか、こいつ。

ただ行先は飛竜が心得ているらしく、特に指示がなくても三頭そろって飛んでいく。

やがてどこかの山の上に到着した。空気が薄くて、岩だらけだ。


「ここだよ。早く早く。ヒロキをくくって。」

「ヒロキ、降りろ。早く。」

「うう。」

飛竜の背中のうろこが痛い。登るときはよかったが、うろこが引っかかって滑り降りられない。

マーシェが手を貸してくれた。

「早く。穴が移動する。」

植物でできているっぽいロープでがっちりくくられる。

リオンがにこにこしながらロープの締まり具合を見る。

「100数えたら、こっちからひっぱるからさ。元の世界だったらそれまでにロープ外してね。」

「違ってたら?」

「とにかく引っ張られるまで生き延びて。」

ひぃぃ。

全員でロープを握った後、右とか左とか微調整して、突然突き飛ばされた。


よろけて膝をついたら、砂だった。

顔を上げると、砂丘。砂漠?

帰ってきたんだろうか。


期待を込めて立ち上がると、見渡す限り砂だった。せめて知っている砂漠だったら嬉しい。鳥取砂丘ならなお嬉しい。

しかし少なくとも鳥取ではなかった。

ていうか月が出ていた。三つも。

だめだろ。

砂の上には誰もいなかった。

少なくともここではない。よかった、すぐわかるところで。

でもすごく蒸し暑い。こんなに百秒が長く感じられたことはない。こんなところに置いて行かれるぐらいなら、飛竜で股ずれしたってあっちのほうが良い。

自分でロープを手繰って戻れるんじゃないかと思ったけど、いまいち手ごたえがない。妙な感じに先が宙に消えているが、それを伝っても指先がはじかれる。

そこはやっぱり神様でないとどうにもならないみたいだ。

あー蒸し暑い。百秒ってどれぐらいだ。


いきなり引っ張られた。ぐぇぇ。

つんのめって転んだ。


「やあ、やっぱり違ってたね。」

リオンに顔を覗き込まれて、思わず言葉にならない安堵のため息。

もうなんか、この世界でいいのかも。

しかし神様は容赦ない。

「じゃあ、次行こう!」


またワイバーンに乗って、今度も結構飛んだ。

どこかの浜辺に降りる。寒い。

そしてまた、えいやと突き飛ばされた。

今度は森の中だった。

ええー。元の世界か分かりにくい。

日本の森には似ていない、気がする。じゃあ、アマゾンか?ロシアか?オーストラリアか?と言われても分からない。

とりあえずロープを切るためのナイフを用意しようとして、ボディバッグを探る。

そこでスマホを見て思いつく。

ここが日本なら、電波拾うんじゃね?

電源オン。立ち上がるのに時間かかる。早く早く。

あ、だめだ。百秒来る。


と、思ったら、いきなり目の前をすげぇデカい鳥が横切った。

で、か、い。

さっき乗ってたワイバーンぐらいある。

無理無理無理。

ここじゃない。違う。しかも俺、狙われてる?

ずざざっと木の間から影が降ってくる。よけ損ねて吹っ飛ばされる。

やべぇ!スマホを拾う。

その鳥のくちばしがバックリ開いて迫ってくるのを、あ、もうだめだ、と見ていると。


急にまた引っ張られた。

た・・・助かった~!


砂浜にごろっと転がされて、思わずうぎゃっと声が出た。

「生きてるー?元の世界だった?」

リオンに聞かれて、とても返事ができない。

「いや、あの、違った・・」

「そう。じゃあ、次に行こうか。」

「ちょ、ちょっと。俺、なんかもう心折れそう。」

正直な気持ちを思わず口走ったら、リオンは眉を寄せた。

「それって、もうやめたいって事?」

「休憩したいって事だろ。昼飯の時間だ。」

マーシェが割って入った。

「俺だって、腹減った。近くの町でメシにしようぜ。」

そうだそうだ、とファラが後ろで応援している。


「だから、リオンが話しかけてきたときに、愚痴とか冗談とか厳禁なんだって。言っただろうよ。」

歩きながらマーシェに説教された。

「ふぁい」

我ながら情けない返事しか出ない。

近くの町まですぐだというから、歩いて移動している。

ワイバーンも三頭いると、乗り降りに広めの場所が必要になるので、どこでもは降りられないらしい。

「手段は確かに、安全面でどうかと思うが、今唯一元の世界に戻れる方法なんだから、余計なことを言わない。分かったな!」

「ふぁい」

だけどほんとに死ぬかと思った。


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