これが神様。
先に魔法学校へ行って、デリク先生に断りを入れることになった。
先生は俺の事をすごく惜しんでくれた。惜しまれると申し訳ないけど、明らかに研究対象っていうのが見えるから、気分は微妙。
マーシェとアティスは、いつものように汚れメイクだ。髪も汚いし、元の顔がよく分からない。
マーシェは仏頂面を通り越して、無表情になっている。
うーん。こうなってみると、まだ仏頂面の方がましだったかも。
あと、魔法学校の庭で、ここへきて初めて同年代の女の子たちを見た。
そういえば本当に不思議だった。どの町もおっさんばっかりで、女はたまに店番しているおばちゃんしかいない。子供とか若い女の子とか、全然見かけないと思ったら、こんなところにいた。
デリク先生を待っている間に、「なんで?」と聞いたら、ファラが説明してくれた。
「他種族から攻撃されたとき、一番にやられるのは女子供だろう。特にヒトの婦女子は弱い。だからたいていの町は二重構造になっていて、女たちはこの内側で生活している。」
「ええ!じゃあ、出会いとかないじゃないですか。」
「子供のうちは男も女も同じ学校だし、その間に相手を決める。二階から品定めしてる時もあるし、他の町から見合いの話とかもある。問題ない。不逞の輩からも女を守れる。」
「ガールズバーとかクラブとかないんすか・・・」
「女がお酌をしてくれる酒場?お前は一人で、酒も注げないのか。」
がっかりだよ。
なんか思ってた異世界と違う。部屋の隅でもたれて半分寝ているサラに気を遣いつつ、一応聞いてみる。
「エルフのお姉さんが、キャバクラやってたりとかは・・・」
ファラはあきれて、俺の顔を見た。こちらも小声で、
「お前の元の世界の常識はどうなってるんだ。相手は見た目お姉さんでも、200歳とか300歳とかだぞ。それに奴らにとっては、ヒトなんて犬と同じだ。お前は犬相手に酒を出せるか?」
そこでデリク先生が来たので、話は途切れたが、まあまあショックだった。
常識って、やっぱり世界によって違うんだなぁ。まあ、同じ世界でも日本と中国とかアフリカとかと常識違ってたりするもんな。俺が甘かった。
魔法学校を出て、龍神様との待ち合わせに向かう。
そこでまたびっくり。
見た目十歳ぐらいのガキだ。マジか。
ていうか、見たことあるかも。確かリクスに師匠と呼ばれていた、あの子かも。
「ロープは?」
あ、日本語しゃべってる。リクスの時と同じだ。
「これ。こんなのでいいのか?」
応じたマーシェの言葉も分かる。あれ?どうなってるんだ?ペンダントは?魔法陣は?
キョロキョロしていると、リズベルが
「何?」
「いや、言葉が分かるから。」
「リオンでしょ。」
あ。さすが龍神様。
「相変わらず仲いいねー。別に全員で来なくてもいいのに。」
龍神様はけらけら笑っている。
「仲良くなんかねぇよ。ロープで引っ張るっていうから、人手がいるだろうと思って呼んだんだろうよ。」
無表情のマーシェが言う。
ええ?いや、俺から見ても仲いいグループだと思うけど。
マーシェ以外の四人は、顔を見合わせてふふっと笑う。
「兄貴に頼まれてここに?」
「おもしろそうだったからだよ。」
あっさり言われて、マーシェの表情が無表情から仏頂面に変わる。
「おもしろそうだったら、何でもいいのかよ。」
「何でもいいんだよ。」
龍神様はけろりとしている。
「あと、ナイフある?元の世界に戻れたら、ロープ切らないと。」
「持ってるよな?」
ファラが俺に確認する。
「研いでおくか?そこに金物屋があったぞ。」
勧められて金物屋で研ぎをお願いする。
待っている間にふと思いついて、リズベルに聞いた。
「なんでマーシェって、あんな汚い変装してるんだろう。」
「いろいろ面倒だから。」
へー。男前の方が、色々おいしいと思うけどなぁ。そう思っていると、リオンがぴっとマーシェの頬をつついた。
「あらー。いい男じゃないの。よかったら他の物も研いであげるわよ。なんかないの?」
金物屋のおばさんに急にすり寄られて、マーシェはたじろぐ。
「いや、他には別に。」
「何だてめぇ、ガキのくせに人の女房に色目使ってんのか!」
研ぎ終わって奥から出てきた金物屋のおやじが、ナイフを片手に凄んだ。
うわ。やべぇ。
マーシェはうんざりしたように、おばさんを押し戻すようにした。
「どうでもいいから、そのナイフを渡してくれ。金は払った。」
「どうでもいいとは何だ!」
詰め寄るおやじに、再度リオンが手を伸ばしてマーシェの頬をつついた。
「だから。ナイフ受け取ったら出ていくから。」
すると、金物屋は夢からさめたような表情で、おう、とうなずいた。
「面倒くさいから、本当に、ああいうのはやめてくれ。」
ナイフを受け取った後、マーシェがぶつくさ言うと、リオンはにこにこしながら「ね?」と俺を見た。
「お前か!ヒロキ。」
「えっえっ俺?」
「その口、閉じてろ!」
「は、はい。」
マーシェは俺をじろりとにらんだ後、ナイフを鞘に戻して、俺に渡した。
「ちゃんと持ってろよ。」
そして
「それで?世界の穴はどこなんだよ。」
「歩いてはいけないから、ちょっとアレに乗って。」
リオンが指さしたのは、上空を旋回しながら飛ぶプテラノドンだった。
うぉー。すげぇ。
あれに乗るの?
さすが剣と魔法の世界だ。すげぇな。
感動していると、マーシェがぽつりとつぶやいた。
「もうちょっとマシなのに乗りたい。」




