俺の救世主は
ドラゴンのスピードは落ちない。
どころか、邪魔な木がなくなったせいか、さらに速度が上がった気がする。
瞬く間に草原を越えて、岩場を越えて、ミノムシみたいにコモドドラゴンの背中でぐるぐる振り回されながら、小一時間。一度ゆっくりになったな?と思った後、もう一回森の中に突っ込んで、その後ぴたっとドラゴンが止まった。
「着いたぞ。」
え。着いた。着いたってどこにですか。
朦朧としているので、リクスの言葉が理解できない。
「金具を外して、降りてこい。」
金具。金具。あ、このフックか。外してずるずると滑り降りる。
「あれがファーツェだ。ここを下れば街道に合流する。そのまま道なりに行けば着く。」
「ふぇ。」
見れば確かに、山の間に挟まるように大きな町がある。
結構遠く見えるんですが。ここから相当下らないと、あそこに行けなさそう。
「さて、ではここまでだ。その毛布を持ち主に必ず返せ。異世界がどこかは知らないが、故郷に帰れるように祈っている。」
リクスはささっと俺のハーネスを回収すると、もう一度コモドドラゴンに乗って、Uターンした。
え。ええええ。
俺、ここでまた一人っすか。
いや。あの。
茫然としている間に、コモドドラゴンは落ち葉を巻き上げて遠ざかっていく。
あああああ。
俺の救世主だったんじゃないんですか。俺をおいていくんですか。
でもよく考えたら、全然関係ないのに、ここまで送ってくれたんだった。
「ありがとうございました!」
叫んだが、聞こえたかは分からない。
どうしよう。泣きそう。
いろんな意味で。
とにかく、言われた通りに歩き出す。
人の通れそうな林道でよかった。あぜ道に毛が生えた程度の道でも、無いよりは全然ましだ。
日が傾いてきた。
急げ急げ。閉門に間に合わなくても、外が見えるうちに城壁のそばまで行っておきたい。
寝ている間にゴブリンに襲われるとか、絶対なしにしてもらいたい。
割とすぐに、街道らしき道に出た。でも方角が分からない。
上から見たときは直進という感じだったけど、道がない。感覚としては右折だと思う。でも結構ぐっと曲がったから左折かも?
リクスさん~。そこは教えといてくれないと。
えいや、で右に曲がる。
しばらく行くと、あれ、これ上ってねぇ?
下らないといけないのに、どうも少し上っている感じがする。
くそー。やっぱりさっきの道、左だったのかな。
さっきのところまで戻る。
うん、下っているように感じる。こっちだろう。
歩き出す。
やがて遠くから、馬車の音らしきにぎやかなガタガタという音が近づいてきた。
木の車輪だから、石を踏んだ時の音がすごい。ゴムタイヤの存在を教えてやりたい。
そうだ、近付いてきたら、この道がファーツェに行くかどうか聞こう。
などと考えていると。
ぴゅっと口笛を吹かれた。
なんだ、と思って顔を上げると、
「ヒロキ!」
名前を呼ばれた。
びっくりした。
こんなところで名前を呼ばれることがあるなんて。
と思って息をのんだ。
薄闇迫る中でよくよく顔を見ると、見覚えがある。
「ファラ!マーシェ!」
「ヨ!ケズィジョッタウィ!オゾエキ!」
・・・。
そうでした。
リクスと話ができるから、なんかすっかりイケる気がしていたけど、実は全然言葉が通じてなかったんだっけ。
言葉を教えてもらおうと思ったけど、それほどの暇もなかった。
ファラはわははと笑いながら近寄ってきて、俺の肩をばんばん叩いた。
なんか喜んでくれているらしい。
そうだ、そういえば毛布を返せと言われたんだった。
荷物袋に押し込んである毛布を取り出して、ファラに渡す。
「これ、ありがとうございました。」
ファラは、うんうんとうなずいて、それを馬車に抛った。そして俺の後ろを指さす。
「ファーツェ#%&$」
あ、あっちがファーツェなんですか。
回れ右して、一緒に歩き出す。
改めて馬車を見る。
手綱を取るアティス。その横のリズベル。馬車の後ろを歩いているサラ。そして仏頂面のマーシェ。
別れた時のままだ。俺だけ飛ばされたんだろうか。
アティスがにこにこと手を振ってくれた。
山際を一つ回ったら、目の前に城壁が現れた。
ああ、やっと目指す街に着いた。