キノウ!
師匠と呼ばれた少年は、俺の事を上から下まで眺めて、もう一回下から上まで眺めた。
「こいつファーツェに送ってくの?」
「はい。」
「ふ~~~~~~ん。」
態度でかいな。
しかしリクスがおとなしくしているので、俺もおとなしくしておく。
「ああ、その毛布か。へぇぇぇ。まあいいよ。好きに使って。」
「ありがとうございます。」
リクスは一礼して、少年はドアの中に引っ込んだ。
毛布?
毛布ってこれか。ファラ達に借りた、アラベスク柄みたいな毛布。普通に使ってたけど、何か秘密があるのかな。
リクスは指先でちょいちょいと俺を呼んだ。
「荷物を落とさないように、体にくくりつけておけ。」
「はい。」
そして、少し歩いた先にいたのは、思わずひぃ~と声が出るぐらいデカいコモドドラゴンだった。一瞬ちびりそうになる。やべ。
「デカイッスネ。」
声が裏返る。でかめのキャンピングカーぐらいある。四つ足を踏ん張っているのを見ると、はしご消防車が足を出して踏ん張っているのを思い出す。
リクスはそのコモドドラゴンに声をかけて、超長いベルトをその腹に巻く。そいつも慣れているらしく、おとなしくされるがままになっている。
リクスは俺にも、抱っこ紐みたいなベルトを放ってよこした、
え、まさかこれに直接乗る?引っ張ってもらうとかじゃなくて?
抱っこ紐は俺にはハードル高かった。
いやいや。バンジージャンプさえしたことのない俺に、このハーネスは難しすぎるって。
爬虫類もややハードル高い。
幼稚園の時遠足で行った動物園で、他の友達はみんな首にヘビとかかけてもらって喜んでいたが、俺はそんなに嬉しくなかった。まあ、我慢は出来るけど。
とりあえず、おそらくこうだろう、という感じにハーネスを身に着ける。
正解は分からない。
コモドドラゴンによいしょと上り、ハーネスについていたフックをそこに巻かれたベルトに引っ掛ける。
うう。やだなぁ、コモドドラゴンて肉食じゃなかったっけ。
こいつがひょいと振り向いて、背中の俺を見て「うまそー」とか思わない保証はない。
しかし、リクスは淡々と手綱っぽいのを取り付けて、首にまたがった。
「行くぞ。あ、目をやられるから、なるべくうつぶせになっておくように。」
その意味はすぐ分かった。
速い。
コモドドラゴンは、予想に反して動きが超なめらかだった。
言われた通りうつ伏せになっているから、虹色のうろこぐらいしか視界に入らないが、どこを走ってるんだか馬車に比べれば、全然揺れない。
ただ、たぶん森の中を全力ダッシュ中なんだろう、次から次へと木の枝が当たる。なるべくなんてもんじゃない。頭を両手で覆ってドラゴンの背中で小さくなっていないと、たぶん首がふっとばされる。
しばらくして、当たる木がぴたっと途切れた。
恐る恐る周りを見ると、山肌に草原が広がっている。
唐突に「森林限界」という昔習った言葉が、頭に浮かぶ。
ドラゴンのスピードは落ちない。