ゴブリンを見る
朝。なんかめっちゃ臭いにおいで目が覚める。
「くさっ」
鼻先に動物のうんこでも落ちてるのかと思った。ニンニクたらふく食べた後のうんこの臭いというか。鼻がおかしくなりそう。
夜が白んでいる。
昨日も野宿だった。ナントカ山脈とかいうのを右手に見ながら、結構歩いた。道が見えなくなるぐらい暗くなるまで歩いて、そこからちょっと道を外れた草むらで、さくっとその前の晩と同じ手順で支度をして、さっさと食べて、さっさと横になる。素早い。
ファラたちと何が違うんだろうと考えると、彼らは一晩中火を焚くために薪を集め、かつ交代で火の番をしている。
リクスはそんなことしない。鼻をつままれても分からないぐらい、真っ暗な中でも、普通に焚火なしで寝る。
そのリクスは、近くの岩に腰かけて、剣を研いでいた。
「おはようございます。」
「ああ。」
「なんか臭くないですか?」
そう言うと、リクスはあごでちょっと先を示した。
「ゴブリンのせいだな。」
え!!ゴブリン!
見たい!
RPGではおなじみの!ファンタジー小説でもおなじみの!大体初心者にレベル上げに散々使われた挙句、話の後半ではまったく登場しなくなる、雑魚キャラ。
いや臭い。
上着の袖で鼻を覆いながら、岩の向こうを覗く。
灰色のデカめのサルが、死んでいた。しかも三匹。
うわっ。こわ。でかいよ。ニホンザルの倍はある。チンパンジーぐらいはある。
そんでめっちゃ臭い。
サルと違って毛が無くて、その代わりになんかいろいろ巻きつけてある。
「あいつら、防具の代わりに自分のウンコを体に塗りたくるからな。起きたならちょうどいい、さっさと出発しよう。臭くてかなわない。」
涼しい顔をしているけど、やっぱりリクスも臭いんだ。
急いで支度する。
「あれ、リクスさんが殺したんですか。」
「夜明け前に襲撃された。」
「すげぇ。」
この人、本当に強いんだ。
リクスは軽く眉を顰める。
「話すときはあいまいな表現は避けるように。君にどう聞こえているかは分からないが、この翻訳魔法は君の話の意図するところを翻訳している。意図がはっきりしないとまったく翻訳できない。スゲーとはなんだ?」
「ええと。リクスさんの強さに、感心しています。」
「なるほど。」
「そうなんです!マジリスペクトです。」
「・・・君の話す言葉は本当にデタラメだな。」
リクスはため息をついた。
「異世界から来たと言っていたが、君の世界ではみなそうなのか?それで正しく意思疎通が図れるのか?」
「意味は通じていると思います。」
「そんなふうにあいまいなままでは、争いが絶えないだろう。」
「ええと。なんとか仲良くやってますよ。ていうか、異世界の存在を信じてくれるんですか。」
「否定する根拠はない。」
嬉しいような。悲しいような。
この人にとっては、異世界もド田舎もそんなに変わりはないんだろう。
歩き始めて気が付く。
割と山の中に入っていく。
「こっち、近道なんですか?」
「乗り物を借りに行く。」
「え!乗り物があるんですか!」
「普通は乗るのにかなり練習が必要だが。」
飛行機?車?てことはないよな。魔法のじゅうたんとか。
いやいや。
やがて小さい山小屋が見えてきた。
リクスはドアをたたいて呼びかける。
「師匠。在宅ですか。」
「開いてるよ。」
中から声が聞こえた。
「ファーツェに行くのに、キノウを貸してください。」
「いいよ。」
中からひょいと顔をのぞかせたのは、小学生ぐらいの子供だった。
えええ?この子が師匠?