突っ込みが止まらない
翌日。
町の門が開くと、リクスと一緒にさっそくまだ開店準備中の店を見て回る。いくらか食料を買い足した後、リクスは俺に金は持っているかと聞いた。
「ええと、金貨を1枚と、銀貨を40枚ぐらい。」
そう言うと、リクスは少し考える風だった。
「君は、もし異世界とやらに帰れなければ、どうするつもりなんだ?」
う。
痛いところを。
歩き出しながら、俺は答える。
「なんか、仕事を探そうとは思います。」
「ここの言葉を話せないのに?」
「それは・・・たぶん暮らしていれば、覚えられるかと。」
「のんきだな。覚える前に、今持っている金はなくなる。」
リクスの突っ込みが止まらない。
俺は必死で、今まで読んだことのあるファンタジー小説とかを思い出す。
「えーと、ほら森の害獣を倒して、肉とか毛皮とかを売ったりして。」
「その小さい短剣で?」
「冒険者ギルドに登録して、なんかパーティ組んだり。」
「意味が分からない。危険を冒す組合?自警団か?彼らはよそ者は仲間に入れない。」
「ええと、依頼を受けて、危険な仕事を引き受けて、お金をもらう、て感じで。」
「賞金稼ぎの事か?」
リクスは嫌そうな表情を浮かべた。
「彼らがやる仕事は基本的には殺人だが、君はその仲間に入りたいのか?」
殺人。
俺はぶるぶる首を振った。
金物屋があったので、そこでリクスが持っていたのと同じような、ランタンと大きめのカップと火打石を買う。別の店で袋物を買って、背負った。
「薬草を取ってきたり、みたいな簡単な仕事はないんですか。」
「薬草は、薬草屋が栽培している。勝手に取ったら犯罪だ。」
「誰も取れないところにある、希少な薬草とかは?」
「・・誰も取れないところにある希少な薬草があったとして、その薬効を、誰がどう確認しているんだ?誰もそれを栽培しようとは思わないのか?」
突っ込み鋭くて、反論できない。
俺のファンタジー小説の知識は、あっという間に底をついた。
だって、たいていのヤツはもう転生したら勇者とか、聖女とか、大魔法使いとか、なにかしらポジションがある話ばっかりなんだ。一般人は?一般人はどうしたらいいんだ。
歩いていると、店のおじさんに声をかけられる。
「エイエデーウ」
やっぱり全然分からない。
「あのー、あれって何て言ってるんですか?」
「『いらっしゃいませ』」
きりっとしたイケメンからそんな言葉が出てくると、ちょっと笑える。
しかし、希望が出てきた。こんな風に言葉を教えてもらえれば、意思疎通を図れる。
「武器は短剣だけか。」
「慣れない大物はやめておけと言われたので。」
「なるほど。」
リクスは食料を買い足すと、「行くぞ」と俺を促した。
「長剣を扱ったことはないのか?」
「はあ。まあ。」
中学校の体育の授業で、剣道を少しやったことなんて、経験のうちには入らないだろう。
「短剣だけで相手に勝つには、相当素早くなくてはならない。普通に正面から立ち合っても勝てない。」
「はい・・」
「習練して長剣を持て。」
えええ。