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異世界からの帰り方   作者: たかなしことり
四日目
14/26

勇者とか戦士とか冒険者とか


 俺に言葉を理解する力が備わったんだったらいいな、と期待したが、全然そんなことはなかった。

 リクスが、露店でいくらかの食料を調達するとき、聞こえてきた店の親爺の言葉は、やっぱり全然分からなかった。

「行くぞ。」

 リクスは歩き出す。

 身軽だなぁ。


 ていうか、あれをもう一回歩くのか。気が遠くなりそう。

 と思ったら、目の前に見える山を背に歩き出すので、びっくりする。


 「あっちじゃないんですか。」

「君は、あの山道をもう一回歩きたいのか?僕はごめんだ。」

えええ。

「それに君は姿勢が悪いな。それでは長距離を歩けまい。」

ええええ。今、そんなことを言われるとは。

「背筋を伸ばして、若干前に重心を置いて歩く。」

えー。

「返事は。」

「あ、はい。」


 もう夕方だ。今から町を出るのか?どうするんだろう。


しっかりフードをかぶったリクスは、大股でさっさと歩く。

ついていくのがやっとだ。


しっかし。よくよく考えると、リクスの二つ名ってどう考えても人殺しっぽい。

血塗られた熾天使?

それってめちゃめちゃ人を殺してるってことじゃね?

まあ、強そうではある。


えーと、なんで俺の事を送ってくれるんだっけ。

そこが分からない。


「あのー、リクスって勇者なんですか?」

「ユウシャ?意味が分からない。もうすこし定義をはっきりさせて話すように。」

て、定義。

えーと。俺の乏しい語彙力でなんとか説明しようとする。

「人を助けるヒトって感じです。」

「・・それは、通常ヒトは助け合わないという前提の言葉だが、合っているか?」

「そ、そうではないです。」

もう少し考える。

「ヒトが困っていて誰も手を出せない問題に、あえて危険を冒してでも解決してくれる人です。」

「無償で?」

「まあ、無償で。」

「そういうのは、物好きという。どのみち大した結果は得られない。」

えー。

「じゃあ、すごく有能な人は?」

「無償で動くわけがない。」

「お金を払いますっていうのは?」

「それは賞金稼ぎの仕事だな。」

「じゃあ、なんでリクスは俺を送ってくれるんですか?俺、金ないですよ。」

町の門が見えてきた。

あ、このまま町を出ちゃうのかな。

「それは俺の都合なので、君が気にすることはない。」


え、こわっ。

「どんな都合なんですか。」

「君に話す気はない。気に入らないなら、ここで別れる。」

いや、それは。

思わずプルプルかぶりを振る。ここで見捨てられたら泣く。


そのまま町を出て、あとは黙々と歩く。

日が暮れてきたけど、止まらない。

「あの、どこまで行くんですか?」

「ああ、もうすぐ次の町だ。」

やった!休める。


しかし町の門はすでに閉まっていた。そりゃそうだ。もう真っ暗だ。

「どうするんですか?」

「ここで野宿する。」

えええ。

町の壁に沿って、他にも何人か閉門に間に合わなかった人が野宿していた。

リクスは手際よくカンテラに火をつけて、小さいカップに湯を沸かす。

横に座ってみていると、

「君、自分のは?」

「えっ」

あ、そう・・なんだ。なんか俺の分もあると思っていた自分が恥ずかしい。

「なるほど。」

リクスは、塩と干し肉となんかの粉を注ぐと、カップを俺の方に差し出した。

「ん。」

「え、俺?いいんですか?」

「朝になれば、門が開く。町で何か買えるだろう。」

なんか申し訳ない。

しかしリクスは、別にパンを出して、ちぎって口に放り込んだ。


「異世界とかでは、野宿はしないのか?」

「する人もいます。俺はこっち来てから初めてしました。」

「なるほど。」


リクスが作ったスープで、お腹いっぱいになった。見た目よりお腹にたまる。

「ご馳走様。」

「ゴチソウサマとは?」

「えーと、食べ物に対する感謝です。リクスさんにも感謝です。」

リクスは小首をかしげる。

「悪い気はしないが、妙な習慣だ。なぜ馬に礼を言う?分からんな。」

馬。なぜ馬。

リクスはカップに少し水を入れて濯ぎ、ランタンの灯を消した。

「君も早く寝ろ。」

コートにくるまって、さっさと寝てしまう。


早い。なんか、全然つかめない人だ。

俺、ほんとにこの人について行って、大丈夫なんだろうか。


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