勇者っぽい人は救世主?
「ナイフをしまえ。そうしたら、こっちも引く。」
に、日本語。
思わずカクカク頷くと、急いでナイフを鞘に納めた。
俺の首をつかんでいたヤクザっぽい男は、いつの間にかいなくなっていた。
「あ、あの、日本人なんですか?」
「は?」
フードの人物は左右を見て、何人もの人がこちらを見ているのを確かめると、俺の腕を引っ張ってその場を離れた。
歩きながら
「日本人とはなんだ。」
「いや、俺の国の人かと。」
日本人ではなかった。
よく見たら、リズベルが魔法を使う時と同じ、発声と口の動きがあっていない。
「違う。」
でしょうね。でも日本語嬉しい。すごく嬉しい。
「あのおじさん達、死んだんですか?」
「死んだだろう。」
思わず絶句。
「あの、なんで殺したんですか?」
「気に入らなかったから。」
ええええ。
そんなんで殺していいわけ?
裏道を何本か通って、完全に遠ざかったころ、その人物はフードを落とした。
「それで?君は何者だ。なぜあの連中と一緒だった?」
えええええ。
ど、ど、どういう、それってどういう質問?
俺って何者?
フードの下は、まだ若い感じの男だった。といっても俺よりは年上に見える。
髪は栗色。目は青い。ファラよりは細くて、背が高い。そしてイケメン。
どうやって日本語しゃべってるんだろう。
てか、気をつけろ俺。相手は人殺しだ。
「町の外を歩いていたら、声をかけられて、一緒に歩いていただけで。」
「なるほど。」
イケメンは、ちらりと俺の服を見た。
「さっき言った、日本というのは君の故郷か?どのあたりにある国だ?」
「ええと。あのー。説明難しいんですが、たぶんずっと東の方にある国かな、と。」
「東の方というと、赤の大陸の東の方ということか?それとも青の大陸のことか?」
「し、し、島国なんです。」
ごまかしたほうが良いのか、本当のことを言ったほうが良いのか。
どっちだ。
バッドエンド回避には、どっちの選択肢が正解なんだ。
とりあえず、嘘は言ってない。
「で、その日本の人の君が、なぜこの町に?」
「ええと、と、飛ばされて。」
イケメンの追及は止まない。なんで?
どうやって、どこから、と詰められて、結局俺は、山の中で他の旅行者の一団と歩いていたら、エルフらしき人物に追われて、急に自分だけここに飛ばされた、と白状した。
そのイケメンは、眉根にきゅっとしわを寄せた。
「なるほどね。」
イケメンは納得したらしい。腕組みしてしばらく考えていたが、
「で、君は日本の国から何しに天山山脈を歩いていたんだ。」
追及すげぇ。
「なんか、成り行きです。」
「隠すと為にならない。」
イケメンは無表情で、剣の束をカチンと言わせた。あ、やっぱ俺、殺されるのかも。
「き、気に入らないと、殺すんですか。」
思わず聞いた。
イケメンは一瞬だけ、意表を突かれた、という表情になった。
「別に誰でも殺すというわけではない。殺したいわけでもない。」
それから間をおいて
「さっきのは、賞金稼ぎの連中だったから、気に入らなかっただけだ。」
あ、そうなんだ。賞金稼ぎ。
すこしホッとする。いや、ホッとしちゃだめだろうけど。
「あの。信じてもらえないかもしれないけど、俺、異世界から来たんです。」
恐る恐る言ってみた。