勇者っぽい人に会う
天気もよくて、歩くには最適だった。よかった。
おじさんたちが歩くずっと後を、ついていくような形で歩きながらいろいろ考える。
また新しい世界に飛ばされたんだろうか。
それとも戻ってきた?
戻ってきたんなら万々歳だ。毛布を借りパクしてしまうことになるが、まあそれは申し訳ないけどどうしようもない。
問題なのは、また違う異世界だった場合。そこから元の世界戻る場合、さっきの異世界を経由しないと戻れないとか、そんなムリゲーないよな?
お金はある。マーシェが渡してくれた物の中に金貨っぽいのもまざっていたから、最悪食事ができるぐらいはあると思いたい。
言葉はどうだろう。多分駄目だろうな。
そもそも同じ世界の英語や韓国語だって無理なのに、異世界で言葉が通じるわけがない。
なんか異世界ものの幻想を打ち砕かれていくなぁ。
とにかく全く言葉が通じないのはきつい。どこか教えてくれるところはないのか。英語教室みたいに。
考え事をしながら歩いていたら、いつの間にかおじさん達にめっちゃ追い付いていた。
振り向いて、俺を待っていたみたいな感じだ。
「スエイコタメ?」
はい、やっぱり駄目でした。全然分からない。
反射的にうなずくと、おじさん達は笑いながら手招きした。
あ、いい人っぽい。
おじさんたちの服は、マーシェが着ているものに似ていた。
「あのー、あの町はなんという町ですか?」
おじさん達はきょとんとし、それから顔を見合わせて、わはははと笑った。
「セトズィウアイアンズ。」
いやもう、ほんとにわかんない。
他にも話しかけられたが、愛想笑いでやりすごす。
おじさん達と三人並んで町に入ると、おじさん達は町の大通りを進んでいく。旅館っぽいところを指さした。手振で「ここに泊まる」的な仕草をする。
なるほど。
そして俺が持っていた毛布を指さした。
なんだろう。売れっていうのかな。
それとも毛布があるから野宿も出来るって事なのかな。
いやいや俺も泊まります。お金もあります。
そう説明しようと、身振り手振りを開始したところで、おじさん達の後ろから、やくざっぽいごろつきっぽいめっちゃこわもてのおじさんが、ぬっと現れた。
え、なんですか。
ぎょっとしていると、襟首をつかまれた。ぐぇぇ。
だみ声で何か言われるが、全く分からない。まったく分からないが、なんかヤバい。
「いや、俺、俺、何の関係もないってか、金もないし、いや話聞いて!」
言葉が通じないなりに、なんとか説明しようとする。
最初のおじさん達を振り向く。おじさん達はへらへら笑っていたが、その顔がこわばるのを見た。
一瞬だった。
その視線の先を振り向くより早く、片方のおじさんの胸に剣が突き立つのを見た。
え?
もう一人のおじさんが、喚き始める。その首から血が吹き出すのを、まるでスローモーションのように見た。
ああ、スゲエ。血ってあんなに飛ぶんだ。
横向きに飛び散ったから、俺の方には飛んでこなかったが、その代わり地面から木の柵まで血まみれになる。
振り向くと、頭からフードをかぶった人物が、突き立てた剣を引き抜くところだった。
あ、殺される。
こんなところで。
一瞬頭が真っ白になった。
いやいや、やられてたまるか。相手から目を離さないようにして、ナイフを探る。
後退る。逃げられるか。
左に飛んだら逃げられそう。そう思った瞬間、そいつがぐっと距離を詰めた。
ヤバい。速い。
剣先が目の前にある。
頭の中にぶわーっと幼稚園の頃からついこの間の事までが、一瞬で流れ去る。あ、これ走馬灯だ。
やっぱダメなんだ。
これは死ぬ流れだ。
そう思って、涙目で剣先を見ていると
「落ち着け。」
え?
今なんか言いました?