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異世界からの帰り方   作者: たかなしことり
四日目
10/26

飛ばされる

四日目。


 朝はいつもよりゆっくりだった。

 何しろサラが起きてからの出立だったのだ。もう朝日は昇っているし、アティスが鳥を二羽仕留めて、血抜きもすっかり終わった頃に、やっと馬車は動き出した。

 起きたと言っても、サラはやっぱりまだちょっとボーっとしている。

 あー、これが男なんてもったいない。そりゃ、男だと思って見たら、確かに男だ。道理で胸もぺったんこなはずだよ。何か悲しい。


 そんな俺の思いも知ってか知らずか、皆黙々と歩く。

 マーシェが何か言ったので、サラはマントのフードを被った。

 そういや昨日もこの辺りでフードを被ってたな。日焼け気にしてるってことでもないだろうが。


 やがて、昨日引き返した所までやって来た。見回したが、誰もいない。昨日は鼻唄まじりだったアティスも無言。すげぇ空気。エルフを警戒しているんだろう。

 うーん。そんなに敵対的?エルフのお姉さんのいる飲み屋で、「お兄さんいらっしゃーい!」なんて有り得ない感じ?ていうか、昨日のあれが一般的なエルフってもんなら、今まで持ってたエルフのイメージと全然違う。めっちゃ怖い。


 馬車はそのままスピードを落とさずに、街道を進む。用心しながら、昼近くまでは何事もなく歩けた。

 が、急にアティスがマーシェを振り向いた。その目が、びっくりするほど薄い青色に変わっていたので、思わず「え?」と声が出た。

 すごい早口で喋る。

 マーシェが一つ頷くと、俺に手振りで馬車に乗れと示した。急いで動いている馬車によじ登る。リズベルが半身をひねって、俺に毛布をかぶらせ、自分はアティスの弓を手にした。


 甲高い、鳥の声が聞こえた。いや、昨日のエルフの声かも。ファラが何か叫び返したところを見ると、やっぱりエルフだったんだろう。

 しばらくやり取りがあって、しかし馬車の速さは変わらない。

 エルフ、怒ってんのかな。声はほとんど抑揚がない。そして少しも遠去からない。ちょっとしたホラーだ。

 ただ言い返すファラの言葉も、あんまり抑揚がない。

 アティスが途中でそのやり取りに口を挟んだ。急にエルフの声が止んだ。しばらく無言が続く。サラが何か言って、馬車はますます速くなった。怖い、怖い、怖い。何が起こっているのか、全然分からないところが怖い。

 荷台でめっちゃ揺すられる。気持ち悪くなるほどに揺れる。舗装されていてこそ、乗り物は快適なんだと思い知らされる。ゴムタイヤが懐かしい。舌噛みそう。江戸時代の早駕籠も舌噛まないように、手ぬぐい噛んでたらしい、とか思い出す。


 しばらくして、馬車が止まったので、そっと毛布から顔を出して辺りを見回す。


 びっくりした。誰もいない。


 ていうか、ここどこ。


 いつの間にか俺は、毛布をかぶったまま道の端にうずくまっていた。

 何が起こったか全然分からない。


 とりあえず立つ。

 だけどファラもマーシェもサラもリズベルも誰もいない。

 最初の森の場所さえ分からない。うそだろ。


 しばらく茫然。どうすりゃいいの。


 毛布は借り物だから、一応たたんでボディバッグのベルトに挟む。


 え?また俺一人?


 もっとも一昨々日、森の中に放り出されたのに比べれば、まだましとは言える。

 道だし。人がいた。

 二人連れの男が、何か話をしながら向こうへ歩いていく。

 あの二人が歩く方を見ると、おお、遠くに町がある。


 よし、とりあえずついていこう。

 今さら「ようこそいらっしゃいました、勇者様」的なイベントが発生するとは思えないけど、ずっと道端にいるわけにもいかない。

 なんかそれぐらいの割り切りは出来るようになってきた。


 よくよく見ると、この辺りは何か動物の放牧がされているらしい。丈の短い草原がだらだらと続いていて、道に沿って柵がある。

 ファラたちはどうなったんだろう。無事だといいけど。

 お金、持っててよかった。

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