森の中
森、だった。
どこだ、ここ。
手に持ったスマホを見る。5時からバイト。スケジュールアプリの通知が表示されている。
うん。間違いない。
さっきまでスマホ見ながら歩いていた。ふっと辺りが静かになったんで、顔を上げたら。
森だった。
おかしい。どう見ても、森だ。しかも結構深い。今も足の下に、なんか木の枝を踏んでいる。
えええ。うける。念のため自分の来た道を振り返る。
うん。森だし。
確か俺は、三限の講義の後、バイトに行こうとしていた。いつもの退屈な午後。いい天気だった。まだ前期の講座も始まったところだし、一応真面目に講義に出た。
これで彼女でもいたら最高なんだけど、去年のクリスマス前に「他に好きな人ができた」と振られて以来、彼女いない歴約半年。バイト仲間の美咲ちゃんといい感じになりそうな、ならなさそうな、そんな感じ。
で、キャンパス出た所で、時間を確認するのにスマホをケツポケットから取り出して、通知を見たところで、冒頭の状況になったというわけだ。
夢?とか?
でもこの手に当たる木とか、地面とか、すげえリアルだ。ありがちだがちょっと腕をつねってみたが、景色が元に戻るという事もない。
てか、ここどこ。
もう一回スマホを見る。5時からバイトの通知が表示されている。うん、でしょうね。
ホーム画面を開いて、気付いた。
ここ、圏外。
圏外。ええー、圏外。何度見ても圏外。ちょっと手を伸ばしてみても圏外。
しばらく途方に暮れる。
いや、うける。
これってあれか、今はやりの異世界転生?異世界召喚?超リアルMMORPG?ドラえもんのどこでもドア的な?
一回目を閉じて、深呼吸。目を開ける。でも変化なし。やっぱり森だ。
近くにドアとか出入口っぽい物があるかと思って、その辺をぐるぐる回ってみたが、それらしい物はない。
なんか、声出してみる?誰かいる?俺を呼んだ奴がいる?
「おーい・・・」
声は森の中に吸い込まれた。そして反応は何もない。ちょっと遠くで鳥の鳴き声がするだけだ。
「おーい!」
少し声を張ってみた。でも何も起こらない。
え?何にもないってなんだ。
こんな何もないところで、俺、放ったらかしかよ!