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5才(2)

10月に入り、木々が色づき始める中。

彩人はというと公園の芝生の上で大の字に倒れていた。

声も出ないほど息を弾ませている。

近くのベンチには美月と彩花の姿がある。

上着とストールで防寒対策はバッチリの格好だ。

毎回公園についてきてもらうことに彩人は申し訳なく思うが、美月は絶対に譲らなかった。

そもそも美月は寛容な方だ。

普通、男児は家で大切に育てるもので、怪我の危険性があることはさせないし、ただでさえ彩人は原因不明の病(実態は違うが)で入院している。

それでも美月は彩人の意思を尊重してくれる。

それは彩人を深く愛しているからだろう。


今も美月は眠る彩花を抱きながら彩人のことを優しく見守っている。

対する彩人はそれに気づかないほど疲労困憊だった。


(あー、空が青い。つーか、何でこんなことしてるんだか。俺は野球をやりたいんだ。そのためのトレーニングをしたいんだ。なのに――)


ここにはもう一人いた。

その小柄な影が彩人に近づいてくる。

栗色の髪をサイドに一つ結びした彩人と同年代の少女だ。

名前を会坂雛里と言う。


「はい、アート」


「ああ、サンキュー……」


彩人を「アート」と呼ぶ雛里は手に持っていたタオルと水筒を手渡す。

緩慢な動きの彩人をまじまじ見つめる。

そして屈託のない純真な笑顔で一言、言う。


「アート、やっぱり、ダンスへたっぴだね☆」


「ぐはっ!」


(仕方ないでしょ!ダンスなんて専門外なの、こっちは!盆踊りとフォークダンスしか知らないど素人なの!フォークダンスは女子と合法的に触れ合える素敵イベントでした!ありがとうございます!……我ながらキモいな〜、こんな風だからモテなかったんだろうな〜、はあ……)


彩人はテンション低く寝転がったまま雛里の方を見る。

雛里はすでにダンスの練習を再開していた。

タブレットに映るアイドルグループのダンス動画のコピーをしている。

5才であることを念頭におけば、上手い部類だろう。


彩人が雛里と出会ったのは昨日だ。

日課のランニング、そしておもちゃのバットで素振りをした帰り、偶々いつもとは反対の出口へ行くと雛里を見かけたのだ。

雛里は自分に興味を持ってくれたのが嬉しかったらしく、彩人たちにダンスを披露した。

その後の美月の「彩人の格好いいダンスが見たいわ〜」という無茶振りで彩人は雛里と共にダンスをした。

一緒に踊った雛里、それから観客の美月と彩花は大満足。

彩人だけが女子用の可愛い振り付けにダメージを受けることになった。


この時点では彩人はもう絶対に踊らないと心に決めていた。

では、なぜ今日もまたダンスをしているのか。

それは昨夜のトレーニング結果が全てだ。


+++


!今日のトレーニング!終了!

成果

△ 筋トレ(腕立て)

○ 筋トレ(腹筋)

△ ランニング

△ 素振り

✖︎ ダンス?

評価:普通(1pt)


特殊イベント

・会坂雛里とダンス練習(1pt)


獲得ポイント:2pt


+++


彩人が五才になって以降、トレーニングの評価で「普通」以上を取ったことがない。

だが、雛里とダンスするだけで獲得ポイントが2倍になるのだ。

彩人の心情的には釈然としないが、これを利用しない手はなかった。


(そろそろ帰るか。母さんも仕事しないとだし。編集さん、今回の締め切りが延びているのは俺が公園に付き合わせているせいです。マジスマン)


彩人たちは帰り支度をする。雛里はまだ残るようだ。


「アート、明日も来るー?」


「来るよ」


「やった!アート、ダンスへたっぴだから練習しないとアイドルになれないもんね!へたっぴだから!」


「何度もへたっぴ言うな!それにボク、アイドルにはならない!」


「バイバーイ☆」


(ぐぎぎぎ、分からせたい!あの幼女の笑顔を!ステータスも色々変わって能力向上もできるようになったから獲得ポイントは貯金しようと思っていたけど、でも!これはプライドの問題だ!)


彩人は衝動的に一つのスキルを取得することに決めた。

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