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3才

彩人は3才になった。

もう補助機なしで歩けるし、そこそこ流暢に喋ることができる。

そして一番の変化は彼の目の前の存在だ。


「にぃ!にぃ!」


「にいちゃん、って言えて、えらいえらい」


「にぃ!にぃ!」


「かわいい……まいえんじぇる彩花しか勝たん……」


彩人の心をノックアウトしたのは彼の妹、瀬尾彩花だ。

年は彩人と2才差の1才である。

最初は母親の突拍子もない行動に不安だった彩人も、いざ妹が生まれると手放しで喜び溺愛している。

彩花の方も彩人に一日中ひっつき、ついてまわる。

彼女が最初に喋った言葉も彩人を呼ぶ「にぃ」だった。

これに対して母親の美月は落ち込むどころか、「当然よね〜」と二人をいっぺんに抱きしめて幸せそうだった。

そんな美月はというと、泣く泣く仕事中である。


「にぃ!にぃ!」


「くっ、ごめんな、彩花。にいちゃん、今からやることがあるんだ。おしゃぶりでもくわえてような」


「ぶぅ〜」


今日この日、彩人には妹を物理的に黙らせてまでやりたいことがあった。

彩人の今世の夢は甲子園優勝、そしてプロ野球選手だ。

つまり、野球が上手くならなければならない。

それを実現させるため、神は彩人に道標となるものを授けていた。


(……ステータス、オープン)


彩人が心の中でそう念じると彼の目の前にウィンドウが現れる。

この立体投影のようなウィンドウは他者に見えないのは確認済みである。

ウィンドウには彼の野球選手としてのステータスが記されている。


+++


名前:瀬尾彩人

年齢:3才

所属:――

ポジション:――


野手評価

弾道:――

ミート:――

打力:――

走力:――

守備力:――


投手評価

球速:――

スタミナ:――

コントロール:――

変化球:――


取得スキル

【転生者】


+++


+++


【転生者】

・ステータスを閲覧できる。

・獲得ポイントを消費し能力が向上できる。

・獲得ポイントを消費しスキルを取得できる。

・能力は5才から向上可能。


+++


彩人はこのステータスを見つけた時、心が震えた。

ちなみに見つけた原因は「せや、転生者っぽいことやろう!転生者といやステータスやな!」という完全な偶然である。

とにかく、彩人はこのステータスに可能性を感じた。

本来なら、練習すればするほど上手くなるというのは有り得ないから。

努力だけでプロ野球選手になれないのは生前に身に染みて分かっている。

だが、ステータスならば、それが覆るかもしれなかった。


彩人は自分のステータスの項目を見ていく。

野手評価、投手評価のどちらも何の表示もない。

これはスキル【転生者】のテキスト文に書かれてある「能力は5才から向上可能」と関係があるだろう。

つまり、3才である彩人の野球能力は向上しない。

ただし、スキルは別だ。

スキルは獲得ポイントを消費することで取得できる。


彩人は別ウィンドウを開き、獲得ポイントを表示させた。


+++


獲得ポイント:500pt


+++


この獲得ポイントは初回特典と言える。

なぜなら、彩人がステータスを見つけて以来、意識して体を動かしてみたりしたが、ポイントが変動することはなかった。

つまり、どのようにして獲得ポイントを増やすのか分かっていない。

獲得ポイントの消費には慎重にならなければならない。

だが、彩人にはどうしても取得したいスキルがあった。


彩人はまた別ウィンドウを開く。

全スキルの一覧が表示される。

取得可能なスキルは白文字、取得不可能なスキルはグレーとなっている。

取得不可能なものは何らかの条件達成が必要のようだ。


スキルがずらりと並ぶ中、彩人は3つのスキルに注目していた。


+++


【鋼の肉体】

・怪我や病気に強い体が得られる。

必要獲得ポイント:200pt


【身長高い】

・180センチ以上の背丈が得られる。

必要獲得ポイント:200pt


【甘いマスク】

・魅力的な顔立ちとなる。

・異性の好感度が上がりやすくなる。

・ファンを獲得しやすくなる。

必要獲得ポイント:100pt


+++


【鋼の肉体】は体が資本のアスリートには必須と言っていい。

【身長高い】は必須とまでは言わないが、大半のスポーツ競技ではプロ選手は平均より体格が優れている。

【甘いマスク】については彩人の個人的な願望だ。今世も独身童貞おっさんは嫌なのだ。切実に。

母親を見る限りこのスキルがなくてもそう酷くはならないだろうが。


さて、なぜこれら三つのスキルの取得が今なのか。

彩人はふと思ったのだ。

彼が成人した後でスキルを取得したところで意味があるだろうか、と。

例えば、成長期終了後に【身長高い】で背丈が伸びるのか。

【鋼の肉体】や【甘いマスク】についても同様だ。

最悪な場合は、この先、スキルが取得不可能になってしまうこと。

今日、スキルが取得できても、明日、そのスキルがグレー表示になって取得不可能にならない保証はどこにもない。


よって、彩人は決断した。


+++


スキル【鋼の肉体】、【身長高い】、【甘いマスク】を取得しますか?

消費する獲得ポイントは「500pt」です。

Yes / No

※注意

・遺伝情報の書き換えに伴い、痛みが生じます。

・体組織の更新に伴い、痛みが生じます。


+++


ポップアップしたウィンドウの注意を見て彩人の決意は鈍った。


「痛み、ってどれくらいだよ。いやーな予感がハンパない。どうする……いや、やるしかないが。あー、怖いな……まいえんじぇる彩花、にいちゃんを応援してくれ」


「にぃ!」


「にいちゃんはやるぞ!やるぞ!やるぞ!」


「にぃ!」


「おっしゃ!ファイヤー!」


彩人は夢のため多少の痛みは覚悟していた。

想定外はその痛みが多少どころではなかっただけ。


「あ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」


「にぃ!にぃ!にぃ!」


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」


彩人は絶叫を上げて床を転がりまわる。

痛みで全身の穴という穴が開く。

汗も、尿も、糞も垂れ流し、絶叫を続ける。

そんな兄を見て彩花は彼の名前を呼びながら泣きわめく。

騒ぎは仕事部屋の美月の耳にも届いた。

美月は部屋を飛び出してきて尋常でない息子の様子を目の当たりにする。


「彩人!彩人!どうしたの!どこが痛いの!……っ!なんて熱……救急車!今すぐ救急車を呼ぶからね!」


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ……」


「彩人!しっかりしなさい!彩人!彩人!」


「にぃ!にぃ!」


彩人の絶叫はパタリと止まった。

あまりの痛みに耐えきれず意識を喪失してしまった。

以後、彩人は原因不明の高熱、全身の痛み、四肢の麻痺で一年半の間、大学病院に入院することになる。

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