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04

 特別管理区域に住む人々の朝は早い。夜になれば電気が使えなくなるので、必然的に夜更かしすることができなくなるからだ。日の出とともに目が覚めてしまうのも、まさに道理というものであろう。

 技術水準こそは年々確実に上昇しているものの、生活リズムこそは大昔にまでさかのぼってしまった。そう、電球という画期的な発明品が、幕末の文明開化とともに国内に輸入されてくる前にまで。

 もっとも、その方がよっぽど健康的な生活を送ることができているというのも、皮肉なものだろう。道行く人々の中にも、寝不足気味と見受けられるような者はいない。

 しかしながら、この世の中には必ず例外というモノが存在する。そう、この場合であってもその法則は当てはまる。


 伸ばし放題の黒髪に無精髭、半分とじられた瞼に隠れた金色の瞳は、心底眠たそうにどんよりとした光を宿している。黒いロングコートをその身にまとい、猫背気味に背中を丸めて歩く姿は、周りの人々とは明らかに異質な存在である。その雰囲気は、たとえ意図せずともぽっかりと独特の空間を形成していた。

 一言でいってしまえば、要は『堅気の人間ではない』と、そういうことである。触れれば切れてしまうような、日本刀に似た鋭さを本能的に感じさせてしまうのである。

 そしてさらに、彼の後ろについて歩く女性も、ある意味で独特の雰囲気を持っていた。

 遺伝子操作のたまものであろうか、天然ではありえない淡い緑色の髪の毛。腰までとどかんばかりのロングヘアは、太陽の光の下でつややかに輝く。ぱっちりとした目、整った鼻梁、みずみずしい唇。

その顔に浮かぶ満面の笑みこそが、彼女をより魅力的に飾り付けていた。笑顔は女性の一番の化粧だとは、本当にうまく言ったものだ。

 無表情で歩く人々であふれかえる中で、彼女のはつらつとした表情は、生き生きと輝いていた。


 二人は超高層のオフィスビルの建ち並ぶメインストリートを外れ、小ぢんまりとした雑居ビル街へと歩を進めていった。しばらくの間はにぎやかな通りが長々と続いていたが、奥へ進むにつれて人の気も次第に少なくなり、何やらいわくありげな看板が、やたらに目につくようになってくる。

 この地域はちょうど、特別管理区域の端のあたりに位置している。そのため、政府が裏の仕事として管理している機関などを設置しやすいのである。直接管轄できる範囲内で、さらにいざという時であっても、秘密裏に事を処理しやすい、そんな立地条件を満たす土地といえば、ここ以外にはほとんど見つからないだろう。

 例えば、コウキの目的地である賞金稼ぎの管理・登録を行うオフィス群、そういったものもここに集まっているのだ。

 歩調を変えることなく長々と歩いていたコウキであったが、とあるビルの前でようやく足を止めた。そのビルは、周りと比べても極めつきの汚さで、元々はきれいだったのであろうコンクリートの壁も、今ではどす黒く染まってしまっていた。あちらこちらにひびが入り、いつ倒壊してもおかしくないような状態である。

 コウキはコートのポケットからアイディーカードを取り出し、ビルの入口に設置されたカードキーリーダーにそれを通した。電子音が鳴り、ロックが解除されたことを伝える。ガラス張りのドアを押し開き、二人はビルの内部へと踏み込んでいった。

 曲がりなりにも政府の管轄下にある以上、おんぼろビルといえども最低限のセキュリティーは必要なわけで。あらかじめ賞金稼ぎとして個人登録していないと、ビルに足を踏み入れることすらできない仕組みになっているのだ。

 入口から入ってすぐ、エレベーターホールの手前に、小窓が設置されてある。コウキ達は、まずそちらの方に向かった。

 小窓の向こう側は、少しばかりのスペースがあって、かなりがっしりした体格の男が、扉を開けて入ってきた二人の姿を、じっと観察していた。

 コウキは胸の高さにある小窓を覗き込み、先ほど通したアイディーカードを顔の横に掲げて、名を名乗った。

「コウキ・クロサワ。アイディーナンバーはJ09388B。通行許可を頼む」

 気難しそうな守衛は、まずコウキの顔を見、そしてコニカに視線を移した。

「そっちの身分は?」

「型式W-52CA、登録ナンバーJ97847B。分類は、戦闘型特殊ガイノイドです」

 そう言ってコニカは、左頭部を小窓に近付けた。そこには本来あるべき外耳の代わりに、細長い台形型のアンテナが、側頭部に沿って斜め上に突き出ていた。ちょうどそこに、型式番号が記載されているのだ。

 コニカの番号を確認し、守衛はエレベーターホールの方向に向かって、軽く顎を突き出した。通行許可の合図だ。ずいぶんと簡単な審査である。

 なぜ武装解除をしないのか、という疑問もあるだろうが、最近では行わないオフィスが増えてきている。その理由として、やってもほとんど意味をなさないという事が第一にあげられる。

 だいたい、賞金稼ぎという身分で食っていくには、必然的にある程度の技量が必要になるわけだ。仮にそのレベルの者が本気になって武器を持ち込もうとした場合、たとえ厳密な審査を行ったとしてもそれを防げるのかは、はなはだ疑問である。それならばいっそのこと、全員が一律に武器を持ち込むようにさせて、お互いに牽制しあうように仕向ける方が、よっぽどマシな対策である。

 とにもかくにも、二人は薄暗い電灯のともったエレベーターに乗り込み、四階のボタンを押した。

 がたんと一度大きく揺れ、騒がしい音を立てながら上昇するおんぼろエレベーターは、まさにこのビルにふさわしいものに思える。もし、なにも話を聞かされていない状況であれば、いったい何処の誰が、このビルが政府の管轄下にある建物であると判断できるであろうか?

 いつ落下し始めてもおかしくない状態ではあったが、それでも一度も止まることなく、二人のエレベーターは目的のフロアに到着した。一呼吸置いて、思い出したかのように扉が両側に開く。


 ――そこには別世界が広がっていた。


 まるで、違う建物の中に迷い込んでしまったかのような印象を与えるくらい、きれいに整った空間が、そこにはあったのだ。

 くすみ一つない真っ白な壁紙。床にはじゅうたんが敷き詰められ、部屋の隅にはしゃれた観葉植物が、部屋の中に緑という彩りを与えている。

 正面には大きなガラス張りの窓が設計され、照明器具を必要としないくらいの光を、外部から取り込むことができる。

 そして、その窓の前に鎮座された巨大な木製のデスクに、一人の女性が腰かけて、いましがたやって来たばかりの二人の姿を、にんまりと笑いながら見つめていた。

「おっす、やぁっと来たねぇ、コウちゃん。あんまり遅いんで、待ちくたびれちゃったよ」

 右手を挙げて陽気にあいさつをするこの女性。顔を傾けるのにつられて、頭のてっぺんでまとめられたポニーテールが、ゆらりと揺れる。

 そんな彼女こそ、このオフィスの一切を取り仕切っている所長、ルミナ・クロサワなる人物であった。

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