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 地上にまで到達した三人は、近くの倉庫に隠されてあった自動車に乗り込み、全速力でその場から移動を始めた。追っ手に見つからないよう、出来るだけ遠く離れた場所まで、逃げておかなければならない。

 だが、猛スピードで走行する車内は、異様な雰囲気に包まれていた。全員の頭の中に、最後に見たルミナの姿がこびりついているのだ。

 心の奥まで見透かされてしまうような、あの澄んだ眼差し。自分の死が間近に迫っているにも関わらず、その瞳は微塵も揺らぐことはなかった。

 銃声の後に感じた、あの爆発による衝撃。おそらくルミナは、息絶える直前に自爆して果てたのだろう。重症を負っていなくとも、あの状況で生存しているとは、とてもではないが考えられない。

 しかしそれでも、コウキはルミナの死を完全に受け入れられずにいた。

「──くそっ!」

 握ったハンドルに、右拳を打ちつける。裏の世界で生きてきた以上、人の死も、腐るほど見続けてきたはずだ。それなのに、身近な人物が一人死んだくらいでたやすくも動揺してしまう自分が、たまらなく情けなかった。それと同時に、ルミナがそれほどまでに自分の中で大きな存在であったことに、今更ながら気づくのであった。

「マスター」

 後部座席でナミを抱きしめるように座るコニカが、そっとコウキに語りかけた。

「どうした、何かあったのか?」

「追っ手です、もう見つかってしまったようです」

 すっと上を指差すコニカにつられて、コウキはフロントガラスから上空を見上げた。

「ちくしょう、馬鹿に早いな。どうして見つかった?」

 どうして今まで気付かなかったのだろう、自動車のすぐ真上につけるようにして、黒い大型ヘリが悠々と上空を旋回していた。攻撃してこないところを見ると、やはりナミを傷つける事を避けているのだろう。振り切りたいが、相手がヘリだと隠れるのは不可能だし、あの距離になると、拳銃ではもはや撃ち落とすこともできない。

 しかも良く見てみると、ヘリのボディーの横側に、政府機関であることを示すロゴマークが貼り付けられていた。成り行きは分からないが、どうも厄介なものを敵に回してしまったらしい。ただのごろつき集団相手の方が、どれほど楽だったことか。コウキは鋭く舌打ちをした。

「マスター、もしかすると……!」

 コニカが何かに気づいたように突然、声を上げた。そして、ナミの体を頭のてっぺんからつま先まで、舐めるように見回した。その視線は丁度、少女の胸のあたりで止まった。

「コニカ、何かわかったのか?」

 コウキの言葉に、一瞬だがためらいのようなモノを見せた後、おもむろにコニカは口を開いた。

「発信器です。ナミちゃんの体の中に、小型の発信器のようなものが埋め込まれています」

「は?」

 コウキは思わず、わが耳を疑った。確かに今、彼らが陥っている現状を考えると、そのような結論に達するのは別段不思議なことではない。だが、ナミの体内に人工物がない事は、ルミナがすでに確認済みである。にもかかわらず、コニカは発信器が埋め込まれていると言う。ならば、一体どちらが正しいのか。

「発信器といっても、有機物を利用したX線完全透過性の装置です。微弱な電波を感知することで存在を確認しましたが、それ以外の方法で発見することは、おそらく不可能ではないかと……」

「そうか。ならその装置、摘出することはできないのか?」

 どうもコニカの言う方が正しいようだ。ならば、その発信器を使いものにするほかに、逃げ切るすべはない。どこへ隠れようとも、きっと見つかってしまうからだ。現に、電波の届かない地下に潜っても、時間がかかったとはいえど、結局は発見されてしまったではないか。

 しかし、コニカは力なく首を横に振った。

「それも検討してみましたが、危険です。発信器は、ほぼ心臓に隣り合う位置に埋め込まれています。設備の整った場所ならともかく、高速で移動する車内で摘出を実行するなど、正気の沙汰とは思えません。せめて振動でもなければ、話は別だと思うのですが……」

 心底悔しそうに顔をゆがめる。コニカがそう言うからには、おそらくそれが事実なのだろう。だが、何とかしなければ逃げ切れない。できないのならば、何か他の手立てを考えないと……。

「コニカ、逆探知で発信場所を特定できないか?」

「やってみます」

 そう答え、コニカは両目をつぶって意識を集中させた。


「ごめんなさい」


 重苦しい空気の漂う中、ナミがぽつりと一言呟いた。

「私がいるから、ルミナさんは死んじゃったし、コニカお姉ちゃんたちにも迷惑かけちゃってるし……」

 肩を震わせながら、ナミが謝る。心の底から、絞り出すような声で。車内の時間が、止まってしまったかのように感じる。小さなしずくが、彼女の膝の上にぽつりと落ちた。

「こんな思いをするくらいなら……」


 ――いっそのこと、生まれてこなければ良かったのに。


「それは違うな」

 涙を浮かべた目で見つめてくるナミを、ルームミラー越しに見返しながら、コウキはそう言い放った。

「どんな人間であれ、生まれてこなくても良かったなんて存在は、ありはしない」

「でも、私なんかが生きていたから……」

「生きることは、罪じゃない」

 なおも言い募るナミの声にかぶせるようにして、コウキはぴしゃりと言い切る。

「人間は生まれた時から罪を背負っているだとか、そんな馬鹿馬鹿しい考えなんて止めっちまえ。人は何のために生まれてきた? 生きるためだろうが、生きて、生きて、何かを見つけるためだろうが。それでも生きることが罪だっていうんなら、俺は止めない。でもな、ナミ」

 一つ息を吸って、

「お前は一体、何を見つけた?」

 そう続けたのであった。

「…………」

 ナミはじっと動かないまま前を見つめていたが、そのまま声もなく崩れ落ちた。押し殺した嗚咽とともに、肩が小刻みに震える。今まで抑えていた感情が、一気に噴き出たのだろう。

 そして、

「……生きたい」

 と、そう呟いたのだった。

「よし、分かった!」

 唇の端を釣り上げるようにして、にやりと笑みを浮かべる。

「マスター、場所の特定ができました。特別管理区域の中心部、政府直轄の研究施設のあたりです」

 逆探知が終わったのか、両目を再び開いたコニカが、場所の報告をする。

「やはり政府がらみか……」

 乾いた唇をぺろりと舐めて、呟く。そうして今までの重い空気を振り払うかのように、コウキは高らかに宣言する。

「よし、今からそこをぶっ飛ばしに行こう。ただ尻尾巻いて逃げるのは性に合わないんだよ、昔っからさ。さっさと始末して、それから堂々と逃げようじゃないか!」

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