奇跡を願う夜
(舞踏会の様子は――)
別室と広間は、中庭を通じて繋がっている。
中庭に出たわたしは、光と音楽に誘われて、広間の様子を見ようと歩き出した。
勝手に移動してしまったわたしを、ラウルさんが探していたらいけないと思って。
でも。
わたしの足は、すぐに動かなくなってしまった。
(ラウルさんは今頃……)
ラウルさんは大人だから、きっと知ってはいけないことがある。
ご令嬢たちと親しげに踊る姿を、わたしは忘れることができなかった。
中庭には、密やかかつ大胆に、愛を囁き合う恋人たち。
わたしは、舞踏会と彼らに背を向けた。
* * *
月の下で、所々に灯りが浮かんでいた。
美しいであろう花々は、今は暗闇のレースに覆われている。
舞踏会のざわめきが遠くなった。
誰もいなくなったところで、わたしは胸元からベルを取り出し、手のひらに乗せて月に翳す。
ベルは眩まんばかりの黄金色に輝いていた。
(こんなに、綺麗だった……?)
自分を見失ってしまいそうな夜にこそ、魔法でしか、叶えられないような奇跡がほしくなる。
ドキドキドキ……。
高鳴る胸を抱きしめて、震える指でベルを夜空に瞬かせた。




