引き裂かれた絆
この作品を読んでくれる方は、本当に本を読むのが好きな方だと思う。
この身に浴びてしまった絶望を、俺はどうやって洗い流せば良いのだろう。
アリスには会えなかった。
それどころか、彼女の身内の男ラウルによって、俺たちの絆は引き裂かれた。
貴族街の中心に向かって、重い足取りで歩いていく。ウォード邸が見えなくなった辺りで、人目のない適当な壁に背を預け、息をついて空を見上げた。
俺の気持ちにそぐわない、抜けるように青い空。
彼女の瞳は今頃、俺のいない未来を映している。
それなのに俺は、共に過ごした時間から、動けそうにないんだ。
「イヤな予感はしてたけどな」
アリスはあの男と、恋仲になってしまった。
自嘲気味に独りごちて、前髪を乱暴にかきあげる。そのまま掌で眉間を押し上げたのは、頭がどうにかなりそうだと思ったから。
『弱さを隠さずに甘えてくれるアリスが、かわいくて仕方ないんだ』
孤児院の先生にも、俺にも。
甘えることが苦手だった彼女が、心を許し、甘えられる相手。
(それが、あの男だったのか?)
アリスに会うこともできない今、俺が答えを確かめる術はない。
貴族令嬢になった娘が、孤児だった過去を捨てたいと願うのは、人の弱さをもってすれば、それほど責められるべきではないだろう。
だがアリスが自分の心を守るためだけに、幼なじみの俺に会いもせず、追い返すとは思えなかった。
俺はアリス以上に、優しい娘をまだ知らない。
(俺はどうすれば良い? このまま諦めて、俺は納得できるのか?)
自問自答した、その答えは――。
* * *
ここは、貴族街旧街区にある、クレアモント伯爵邸。俺はその邸宅に、客人として招かれていた。
「お帰りなさい、リゲル!」
玄関ホールで名前を呼ばれ、立ち止まる。
俺を見つけたエリザベス嬢――クレアモント伯爵家のご令嬢が、二階の吹き抜け廊下から階段へ、ドレスの裾をはためかせて駆け寄ってきた。
「戻りました」
エリザベス嬢はじゃじゃ馬だ。
前クレアモント伯爵の未亡人――例外的に爵位を継ぎ、今は女伯爵となったエリザベス嬢の祖母、大奥さまのウィンディ伯が、両親を亡くした孫娘を、ひどく甘やかして育てたせいらしい。
天真爛漫なエリザベス嬢は、まったく躊躇もせずに、俺の腕に自らの細腕を絡めてきた。
「男に気安く触るもんじゃないですよ」
思ったよりも、冷たい声が出た。
「貴方にだけよ」
エリザベス嬢はおそらく、世界は自分に優しくあるべきだと信じている。
ストレスフルな展開で終わらせるダメ作者(꒪꒳꒪;)




