初恋と胸の痛み
そんなことを考えていたら、今度はもう一人の妹から「どうやったらおうじさまに、すきになってもらえるの?」という、とんでもない質問をされてしまった。
好きになった相手は、後にも先にも一人だけ。
恋愛経験の乏しいわたしが、そんな難しい質問の答えを、導き出せるはずもなくて。
「両想いになる以前に、平民が王子さまとお近づきになる機会なんて、そもそもないと思うんだけど……」
なんて。
気がつけば身も蓋もない現実を、大切な妹たちに披露していたわ。
「つまんない!」
「ゆめがない!」
案の定、妹たちは小さな唇を尖らせる。
「そ、そうよね……。二人とも、ごめんなさいね」
「だからアリスおねえちゃんには、カレシがちっともできないんだよ!」
「マリリンおねえちゃんには、いつもカレシがいたのにね!」
「そうよ。そのなかで、いちばんのおかねもちのおうじさまみたいなひとを、えらんでけっこんしたんでしょ!」
話に出てきたマリリンは、一歳年下の、わたしの孤児院の妹たちの一人だった。
その彼女はつい先日、遠い街までお嫁に行った。
わずかな期間、この田舎に逗留していた、都会の男に望まれて……。
何だか頭が痛いわ。
そういうことなら、マリリンに聞いてほしい。
マリリンは自由奔放な娘で、彼女の綱渡りのような恋愛には、いつもハラハラさせられたっけ。
モヤモヤしたことだってある。
でも……。
「そういう言い方はよくないわ。言われた方も聞いた方も、きっと誰も、良い気持ちにはならないでしょう?」
「「はーい」」
妹たちはおしゃまだけど、まだまだ素直なお年頃。わたしの説教染みた言葉にも、すぐに返事をしてくれた。
わたしは続ける。
「マリリンなら、相手がどこの誰でも、絶対幸せになれると思うわ。たまたま王子さまみたいな男の人が、あの娘を迎えにきてくれたのよ」
わたしも、妹たちも、もちろん孤児院の先生たちだって、マリリンのことを愛していたし、彼女の幸せを心から願っていた。
田舎の孤児院で、肩を寄せあって暮らしてきたわたしたちにとって、マリリンはかけがえのない家族の一員なんだもの。
血が繋がってなくても、そんなことは関係ない。
癖のある黒髪と、きゅっとつり上がった紫紺の瞳。とびきり可愛い猫みたいに魅力的な少女マリリン。
わたしにピアスをくれた幼なじみも、マリリンに恋をしていたみたいだし。
ちくり。
(あ……)
ふと兆したのは胸の痛み。
大丈夫。しばらくすれば収まるから。
わたしは、自由に振る舞えるマリリンが、きっと羨ましいだけなのよ。
それに、なぜかしら?
今となっては思い出せない。
マリリンは旅立ちの日、どんな顔をしていたの?