刻まれた執着
わたしは、マダムと若いデザイナーさん、お着替えを手伝ってくれる年配の方の女性四人で、試着をするための部屋に移動した。
試着の途中。
わたしの肌を見た、マダムと年配の女性の動きが不意に止まる。
顔を見合わせ、頷き合って、それから試着するはずのドレスが、若いデザイナーさんの、露出の少ない別のデザインのものへと変えられた。
試着をして人前に出てみれば、誰もがこそばゆいくらい褒めてくれたけれど、マダムはその陰で、ラウルさんに少し怒っていた。
* * *
見学を終えて帰る時間。
アトリエの外には、馬車を一台待たせていた。
それは、わたしを孤児院まで迎えに来てくれたものとは違う、小さくてとても地味な馬車。
ウォード邸を出たときも裏門から。
御者のおじさんも前回とは違う人。
アトリエを去るとき、マダムはラウルさんにこう言った。
「社交界デビューまでは、くれぐれも自重なさってくださいね」と。
「何のことだかわからないな」
ラウルさんはちょっぴり苦笑い。
わたしもマダムの真意がわからずに、自分の未来に無責任を決め込んで、つい聞き流してしまったの。
マダムは「嘘が下手ですね」と嘆息した。
と、そのとき。
わたしの横に位置するT字路の、道路を挟んで向かい側。そこで犬が、けたたましく吠え出して。
わたしはそちらに気をとられた。




