見透かされる心
突然現れたラウルさんの目的は、わたしを家業の見学へと連れ出すこと。
家に籠りきりだったわたしにとって、久しぶりに吸う外の空気は、とびきりおいしい解放感の味がした。
目の前には、いつもの紳士なラウルさん。
(さっきのラウルさんは……)
わたしはラウルさんを仰ぎ見る。
すると彼は、お手本のような笑みを返してくれた。
それだけで安心してしまうわたしは弱い。
臆病な心は、信頼していた彼の別の顔なんて、絶対に知りたくなんてなかったの――。
* * *
「ここがアトリエ。アリスのドレスもここでデザインして作られた。隣にはお針子たちがいる工房と、商品や材料を保管する倉庫がある」
ラウルさんの説明を聞きながら、わたしは躍動する色鮮やかな世界に、すっかり夢中になっていた。
ウォード商会は、貴族街と平民街――但し富裕層向け――に路面店も持っているほか、アトリエや事務所、倉庫などを複数所有しているのですって。
アトリエには出入り業者の方が、布地やレースの見本をもって、デザイナーさんに熱心に売り込みをかけていた。
「アリスに着てほしいドレスがあるそうだよ」
少し離れたところから戻ってきたラウルさんが、従業員の方と話していたわたしに声を掛けた。
ラウルさんの隣には、まだ若いデザイナーさん。
それに、先日お会いしたマダムも。
「可愛らしいお嬢さまに、ぜひ一度私のドレスを着ていただきたいのです」
若いデザイナーさんがわたしに言う。
「彼女の更なる飛躍のためにも、私からもお願いします」
と、マダムまでもが口添えした。
夢を追う瞳に、覚悟と不安が垣間見えてしまったから……。
「わかりました。わたしでお役に立てるのなら」
わたしは素直な気持ちで、その申し出を引き受けた。




