孤児院でみる夢は
「こうして。お姫さまは王子さまと結ばれ、永遠の幸せを手に入れました――」
パタンと本を閉じれば、孤児院の木の下で見る夢も、そこでおしまい。
十七歳のわたしは、現実の世界に引き戻される。
わたしの瞳と同じ色と、形容されたこともある晴れた空。
爽やかな春の風に、木漏れ日がキラキラと輝いている、そんな穏やかな昼下がりのことだった――。
「おうじさまって、ほんとうにいるの?」
左右に座っている、血の繋がらない妹たちのうちの一人が、わたしの顔を覗き込んで尋ねてくる。
孤児院という環境でも、屈託なく咲かせられるかわいい笑顔と、好奇心をたっぷり詰め込んで、詰め込み過ぎて溢れた瞳が、わたしにはとても眩しく見えて。
「ええ。この国にもいるわ」
「おうじさまはどこにいるの?」
「王都にある、立派なお城にいらっしゃるはずよ」
「おうと? そこってちかいの?」
「遠いわ。馬車で何日もかかるもの。わたしもまだ行ったことがないから、詳しくはわからないけど……」
質問に答えながら、わたしは胸の辺りまである、蜂蜜色の髪の一房を耳にかけた。
そのまま指先を流して、幼なじみからもらった橄欖石のピアスの感触を確かめる。
あれは二年前の誕生日。
こんな高価なものはもらえないと、一度は突き返していたこのピアス。
結局押し負ける形で受け取ったこのピアス。
いつしかわたしの宝物となっていた、このピアスを……。
(あんなに拒んでおきながら、不思議なものね)
幼なじみに言われた通り、肌身離さず身に付けていたら、触るのがクセになってしまうくらい、今やわたしの耳に馴染んでいた。
まるで身体の一部みたいに。
だから時々、その価値を忘れてしまいたい気分になるの。
お久しぶりです。
よろしくお願いいたします(๑òㅂó)و✧
投稿が久しぶりなのと、持ち前のポンコツぶりで、たぶん色々やらかしますが、優しく応援してください(切実)