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当然ながらの結果だと思ったがそうは問屋がおろさなかった 1

「ほう、なかなかの賑わい。 流石は合格発表の日だけはある」


 ────T都某高等学校。

 電車とバスを乗り継ぎ二時間ほどで到着したその学校は、2000人は居るかと思うほど人でごった返していた。

 我がただ一つだけ受験したこの高校は日本有数の進学校だ。

 だとすると、この人数でも少ないかもしれん。


「合格してるかなぁ。 今からドキドキだよー!」


「だよねー! 落ちてたらどうしよう!」


「落ちるとか言わないでよ、今からナイーブなんだから……」


 …………ふむ、にしても人間が邪魔である。

 特に受験の張り紙が貼り付けてある掲示板の前は特に。

 ここは仕方あるまい、我が威厳で道を開けてやろう。


「ごほん、そこの愚民ども道を開けたまえ。 我の邪魔するな」


「え…………?」


「な、なにこいつ……」


 うむ、突然の我の登場にみな感動したのかもしれんな。

 誰しもが我のご尊顔に振り向くなり固まってしまった。

 しかしこのままでは目的に辿り着けんのでもう一度。


「こほん! どきたまえ、邪魔だ。 我に逢えて嬉しいのは理解してやれるがな」


 咳払いをし、言葉を溢すとようやく我に返った愚民数人が声を出した。


「なんだあいつ…………って! あいつは確か、鬼崎竜児! 変人天才野郎、鬼崎竜児じゃねえか!」


「えっ!? 鬼崎竜児って言うとあの変人奇人の代名詞と言われる!?」


「ひいっ! あのイカれた狂人が来たぞ!」


「うわー!」


 …………うむ、なにやら不遜な言葉が聞こえたが恐らくは我を畏れての事だろう。

 凡人には我の放つ光は眩しすぎる故仕方ないか。

 許してやる他あるまい。 

 それはそれとして道が開けたようだ。

 まるで騎士が王を迎え入れるように。


「ご苦労、皆の者。 では通らせてもらうぞ」


 やはり我は王の器だったらしい。

 先程の言動も我を畏れ敬ってのものだったのだろうな。

 仕方あるまい、なにせ我だし。

 と、気を良くしていると掲示板の前まで辿り着いていた。


「では探そうか。 まあどうせ我の事だ、間違いなく…………ふっ。 やはり来ていたか……」


 一応受験票をポケットから取り出しておいたが無駄になったらしい。

 その理由はこれである。


逆谷琉依(さかしたるい)。 いや、我が忠実なる下僕アナスタシアよ! 流石だな、この我の為とはいえ、皆が見る張り紙にアンダーラインを引くとは!」


「はっ、お褒めいただきありがたき幸せ! このルイ! いえ、このアナスタシア! わたくしめの主、竜児様からそのようなお言葉を掛けていただき恐悦至極でございます!」


「なんあれ…………。 変な人達が居るんだけど…………」


「あれっぽい、王様と従者の騎士。 …………違うかも。 ……宝塚?」


 多くの臣民が見守るなか、膝をついて頭を垂れるこの女の名は逆谷ルイ。

 一年前ちょっとした問題を解決してやったら、自ら我が家臣へと下った忠実なる乙女である。

 その容姿はとても端麗で、地毛の金色に輝くショートヘアーが美しい。

 ただどうも男勝りな部分があり、ブレザータイプの制服に違和感がある。

 見慣れはしたが。

 誰かが宝塚と言っていたがあながち間違いではないだろう。

 にしても、だ。


「何故ルークと呼ばんのだ、誰も……。 我が真名だというのに……」


「も、申し訳ありません。 で、ですがわたくしとしましては竜児様とお呼びしたいもので。 やはりお慕いしているのは竜児様ですから」


 ぐぬう、そう言われては拒めんではないか。

 仕方あるまい、アナスタシアだけは竜児と呼ぶのを許してやろう。

 自分の名前、あんまりかっこ良くなくて好きじゃないからルークと呼んで欲しいんだがな。

 竜訝とかが良かった。

 それはそれとして。


「ふん、ならば好きにするがよいわ。 してアナスタシア…………アナよ。 我が合格するのは当然であるが、貴様はどうなのだ」


「り、竜児様がわたくしのご心配を……! あ、ありがたすぎて涙が……」


 まったく、可愛いやつだ。


「ふっ、ゆっくりと噛み締めるがよい。 待ってやろう」


「そ、それには及びません! 竜児様をお待たせるなどもっての他! 直ぐに確認致します!」


 まだ確認しとらんのか、貴様。


 「……アナ。 我のために働きたいのは理解している。 感謝もな。 しかしだな、まずは自分の事から始めよ。 我はその次で構わん」


「り、竜児さまぁぁぁ! なんと…………なんとお優しい! 一生ついていきますぅぅぅ!」


 また泣き出してしまった。

 まるで神を崇めるかの如く。

 一体何が彼女の琴線に触れたのだろうか。

 激しく疑問だ。

 と、落ち着くまで泣き崩れたアナを待っていた最中のこと。


「ま、まだあの人達居る…………。 早くどっか行かないかな……」


「私はちょっと面白くなってきたかも。 だってほら、演劇みたいじゃん」


「確かに…………っていうかさ、逆谷さんもだけど鬼崎も見た目は悪くないよね。 私の好みではないけど」


 我ら二人のやり取りを見ていた女子学生達が、こちらをチラチラ見ながら言った言葉がアナは許せなかったらしい。


「…………おのれ、先程から竜児様を悪く言いおってからに! こうなったらわたくし自ら奴らに天誅を……!」


「やめろ」


「で、ですが竜児様! あの者達は竜児様を腫れ物の様に…………!」


 今にも殴りかかりそうであった為止めると、アナは心底悔しそうにしている。

 確かにあれが凡人に対する言葉であれば憤って仕方がないことだ。

 しかしあ奴らが噂した相手は我である。

 だとしたら我の眉目秀麗な見た目を羨んでの事であろうから、目くじらを立てる必要などないのだ。

 むしろ微笑ましくすらあるではないか。





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