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エステローヒからランスベルヒのギルドに戻ると、なんだか妙な騒がしさがあった。
ランスベルヒの冒険者ギルドにはいつも人がいて、賑やかではあったのだが、そう言った騒がしさではない。不穏な空気も漂っている。
人だかりが出来ていて、何も見えない。気になるものの、野次馬に強引に混ざる勇気はなかった。
とはいえ、あまりの人に、修理店までの道が塞がってしまっている。騒ぎを無視して修理店へ向かおうにも、人が邪魔でうまく通ることが出来ない。
なるべく人に当たらないよう、人の層が薄そうなところを狙って歩く。
――と。
人と人の間から見えてしまった。
人だかりの中心に、マルシがいる。
殴られたのか、頬を赤くしたまま、しりもちをついていた。
「――え」
マルシの丸眼鏡が取れている。その横顔から見える瞳は、赤い。眼鏡越しに見えた目は、黒かったのに。
そして、その横顔に、ぎゅう、とわたしの胸は痛くなり、息が上がる。体から血が抜けていくような、感覚。
「はっ……はっ……」
小箱に入っていた、ブローチを見てしまった時と、同じ感覚。
修理店を始める少し前。武器で指先を切って、マルシに手当してもらったとき、彼の顔に、既視感を感じた。
ばち、ばち、と目の前が光るような感覚に襲われる。
頭の中で、ピースが埋まっていくような。
そうだ、あの紫がかった赤い瞳。どこかで見たことがあるって、ずっと思っていた。夢で見た、オッドアイの男。
彼に、似てるんだ。
何かを思い出せそうになったが、ふっと視界が広がって、一瞬、先ほどまで何を考えていたのか分からなくなる。
オッドアイの男。そう、誰だっけ。ここまで既視感があるというのなら、わたしはその男に、あったことがある、はず――。
「う、ウィル!?」
もう少しで完全に思い出せそうだったわたしの思考は、開けた視界に飛び込んできた情景へ釘付けになった。
マルシを殴った男を羽交い絞めにしているのは、まぎれもないウィルエールだった。
マルシを殴った男も、マルシ同様、赤紫の瞳を持っている。それに、顔立ちも似ていて。
ここまできて、彼らの正体が分からないほど、わたしは無知じゃない。
彼らはグルトン王家の人間だ。
エンティパイアで生まれ育ったわたしが、二人の瞳の色がさす事実を知らないわけがない。
ウィルエールに拘束されている男は、片腕がない。にも拘わらず、彼は暴れて、ウィルエールから逃れようとしている。
「――ウィル!」
がつん、と男の肘が、ウィルのこめかみに当たった。
わたしは思わず、人の波をかき分けて、ウィルの元へと走りだしていた。




