55.6
告げられたその言葉に、コウンベールは驚きを隠せなかったが、彼の父であるニストロは平静そのものだ。少し前から、第二王子ではなく、第一王子が継ぐことが決まっていた。
決まったのは、王の許可なく婚約を破棄し、フィオディーナが大海原へと放り出された日。
今回の報告を受け、第一王子とコウンベールの二人に、時代のエンティパイアを任せることを発言したのだ。そして、二人に、国が隠していた真実を語る決断を、した。
「もう少しでアンブロが来る。その時に、全て話そう」
防音の術具を起動させる少し前、クブルフはアンブロを別の術具によって、呼び出していた。
「……王位を継がせない、ではなく、廃嫡なのですか」
普段なら、クブルフの前では、発言の許可なく口を開かないコウンベールが、驚きのあまり発言していた。
クブルフはそれをとがめない。彼の驚きが理解できるからである。
「そうだ。あの愚息には、今回の責任を取らせる」
常々、第一王子と第二王子、どちらが次期大帝王となるのか、貴族の中ではもっぱらの話題だった。なお、第三王子は自ら政治から一歩引いているので、あまり話題にはならない。
来年、第三王子が十五歳で成人する。よって、次期大帝王の候補である三人全員が成人ということになり、来年発表されるからだ。
確かに、発表より一年以上前から決まっていることは、おかしくもない。ただ、こうして発言してしまうことに、コウンベールは驚いていた。
いくら防音の術具を使っているとはいえ、漏れたら一大事である。
なにせ、決定の発表があるまで一年。暗殺の計画が乱立してもおかしくない。
「正直、フィオディーナ嬢の件は、ある意味で賭けだった。あの愚息が、トゥーリカ嬢の方に惹かれているのは知っていたからな」
男として愛する女を取るか、王子として国を取るか。常々、フィオディーナ嬢がお前の婚約者である、というのを言い聞かせていたのは、自分の立場を理解し、欲でなく最善を取れるかという、試練でもあった。
「無論、あいつがフィオディーナ嬢と婚約を破棄したいと、言い出してくることは想定の範囲内だった。婚約破棄を言った時点で、王位をアンブロに譲るつもりだったのだよ」
本当ならば、婚約破棄を許さず、王の全権を持って、結婚させるつもりだった。その準備も、していた。
エンティパイア帝国の未来のため、カルファはフィオディーナと結婚しなければならなかった。いや、より正確に言うのであれば、フィオディーナの伴侶は、彼女が惚れ込んだカルファでなければいけなかった。
しかし、現実はどうだ。
王がことを知る前に、それらしい罪状を並べ、婚約破棄が王の許可なく正式に行われ、フィオディーナは国土追放。
「――あの愚息に婚約破棄を手引きした奴がいるはずだ」
そして、王はその相手に心当たりがあった。それこそが、国の中でも極々一部しか知らない、トップシークレットである。
その相手とつながっているカルファを、王族として城に置いておくことは、断じてできなかった。
――部屋の扉が、ノックされる。
「父上――いえ、大帝王。アンブロです」
第一王子の到着だった。クブルフが入室を許可すると、扉が開かれる。彼は一礼し、部屋へと入る。これから話す内容が内容のため、扉を開けたアンブロの従者は、入室を許されない。
「――そろったか。……アンブロ、コウンベール。お前たちが次代のエンティパイアの担う二人となる。よって、全てを話そうと思う」
エンティパイアでは大帝王と宰相、そしてオヴントーラ公爵家当主のみが知る、隠し続けてきたかつての罪と、ありえる最悪の未来の話を。




