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55.5

「報告は以上になります」


 エンティパイア帝国、大帝王の執務室で、恭しくコウンベールが頭を下げた。その姿からは、普段の穏やかさは一切感じられない。間抜けの仮面をはいだ彼は、じろり、とグリオットを見た。

 見られたグリオットは、一瞬ひるみながらも、大帝王のクブルフと宰相のニストロに報告をする。


「術具『走蝶灯そうちょうあかり』を使いましたが、特に変化は見られませんでした」


 走蝶灯。過去の記憶を夢として回想させる術具である。一度使うと壊れてしまうが、使い捨ての術具にしては貴重で高価なものだ。

 グリオットはこの術具を、どうして彼女に使わねばならなかったのか、知らない。けれど、王から直々に命令を下されてしまえば、断りようもない。

 分からぬまま行動するな、と教えを説いてきた父であるニストロが、今回に限っては「深入りするな」と言ってきたのである。あの父がそう言うのであれば、とグリオットは従うまでだった。


「オレからも報告でーす。彼女は特に好きな人はいないそうでーす。以上でーす」


 あまりにも適当なオルキヘイの報告に、グリオットが肘で彼をつつく。クブルフの前でなければ締め上げていたところだ。


「あー、でも、なんかそれっぽい冒険者の男はいました。オレはてっきりくっつくのかもとか思ってたけど、彼女は一向に『友達』を貫いてましたね。恋したくないのは本能的な防衛なんすかね? それとも第二王子の――」


「おい、オルキヘイ。無礼が過ぎるぞ」


 流石に見過ごせない、とグリオットが声を上げた。しかし、それで止まるほど賢い男ではない。まともであれば、最初からクブルフの前でこんな態度はとらない。


「やーでも、マジでランスベルヒにフィオディーナがいるとは思いませんでした。ふつー死んだと思うでしょ」


 エンティパイアの冒険者の層を厚くするための視察、という建前の実、フィオディーナの様子を見に来た三人であった。

 三人がそれぞれ観察した様子を、クブルフへと報告する。

 その報告を聞いて、クブルフは黙り込んだ。そして深いため息を吐き――一つの決断を下す。


「……三人ともご苦労だった。グリオットとオルキヘイは下がり、コウンベールのみ残れ」


 クブルフの言葉に従い、二人は執務室を後にする。残されたコウンベールは姿勢を崩さず、ピンと背筋を伸ばして立ったままだ。

 二人が出ていき、しばらくして。

 周囲に誰もいないことを確認し、念のため、防音の術具まで起動させて、ようやく、大帝王は再び口を開いた。


「――第二王子、カルファ・ミッティー・エンティパイアを廃嫡とする、次期大帝王は、第一王子のアンブロ・アノイル・エンティパイアだ」


 重々しいその宣言に、コウンベールの表情が驚愕に崩れた。

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