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ヴァイセン三兄弟が帰って行ってから数日後。わたしは謎の女子会に巻き込まれていた。
「あーっ、コウンベール君帰っちゃったなあ!」
酒をあおりながら叫ぶのは、ギルドの受付嬢、ルディネーだ。同じくギルドの受付嬢、フェルイラは、ルディネーの様子を笑いながら酒を飲んでいる。
完全なる酔っ払い二人である。
この二人とはさして仲良しというわけではなかったけれど、呼ばれてたのに無下に断るほど他人というわけでもない。
酔っ払いもいると分かり切っている夜の時間帯に、有料の方の食堂を使おうとしたわたしが悪いのだ。どうしても食べたいメニューがあったので、それをサッと食べて宿へ変える予定だったのだが。
わたしはそのメニューである、ガロッサ鳥のオムレツを食べながら、間を持たせていた。
このオムレツはエンティパイアに入る頃からの大好物で、見かけるとどうしても食べたくなってしまう。公爵家にいた頃は、週に一度は必ず作ってもらっていた。
公爵家には劣るが、有料食堂だからか、なかなかにおいしい。
「コウンベール君、かっこよかったのになあ」
どうやらルディネーはコウンベールが気になっていたらしい。
嘆くルディネーに、やはりフェルイラは笑いながら応えた。
「お貴族様じゃ無理でしょ、あたしら一応平民じゃん」
「そうだけどさあ」
コウンベールの良さが分からない上に、こういうあけすけな恋愛話をしたことがなかったので、わたしはせっせとオムレツを口に運ぶしかできない。
コウンベールがパートナーとなったら夜会で苦労しそうだし、何かと優柔不断そうなのででわたしは遠慮したい。
恋愛話も、公爵令嬢であったころ、お茶会なんかで話題にも上がることがあったが、誰それが好き、という話ではなく、もっぱら、どこそこの令嬢とどこそこの子息がくっつく、という噂話をするものだった。政略結婚が当たり前の令嬢の中では、あんまり自分が主体の恋愛話はしない。
恋愛感情を相手に抱かない、というのも多いが、仮に親に決められた許嫁に惚れたとしてもお茶会に出席した令嬢がみんなそうとは限らないので、暗黙の了解として話さないのがマナーとなっている。
結婚相手が二十も上で不満を持っているご令嬢なんかもいるので、下手に話して嫌われれば、今後困ったときに助けてもらえなくなる、なんていうのは想像に難くない。
だからこそ、こういう場はよくわからなくて困るのだが……。
「いいよねえ、フィオディーナは! ほら、アルベルトもウィルエールさんもいるじゃん」
「えっ」
急に話を振られて、わたしは反応に困る。
しかし、相手は酔っ払い。自分が話したいように話すようで、わたしの返事など待たず、ぺらぺらと話を進めていく。
「アルベルトは上級冒険者で金には困らないしぃ、強いしぃ、ウィルエールさんは知らんけど、フィオディーナ追ってきたんでしょ? はー、ロマンチック、うらやましい」
「そ、そう……?」
こういう時はなんて返すのか正解なのだろうか。恋愛話をしたこともないこともそうだが、ここまで酔っ払った人間も見たことがない。




