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串焼きを食べ終え、わたしたちは再び街を歩きだす。
食事処が並ぶ通りを過ぎれば、島の端っこに着いたのか、海沿いの道に出た。近くには港のようなものも見える。
エンティパイアがある方の海は強い魔物が生息しているが、反対側はそこまででもないのか、船が出ているようだ。まあ、そもそも乗る人間がその魔物に太刀打ちできる人間ばかりなので、わざわざ高額な報酬金を用意しないといけないエンティパイアの事情とは少し違うのかもしれない。
冒険者ギルドは港にやや近いとはいえ、ほとんど島の中心部にある。あれこれ寄り道をしたとはいえ、体感的にはそう歩いていないように感じる。ランスベルヒはそう大きくない島のようだ。
それなのに、こんなにも見たことのない景色があるなんて、わたしは本当にギルドとその周辺ばかりでしか活動してこなかったのだろう。
ほとんど陽が沈み、辺りは暗くなり出していたが、海面は、オレンジ色――洛陽色に光っていた。
この色は、トゥーリカの瞳の色だ。
「……わたしがいなくなってから、トゥーリカは、どうでした?」
わたしは海を見つめたまま、ウィルエールに問うた。
最後の最後には、「お姉さまに温情を」と涙目で訴えていた彼女に、咲奈の記憶が戻り混乱していたわたしは、謝罪らしい謝罪もできないまま、海へと放り出されていた。
わたしを慮る彼女は演技でもなんでもなくて。彼女は何も悪くなくて、わたしがただ彼女に嫉妬しているだけで、その事実が、フィオディーナの神経を逆なでした。
トゥーリカが真の悪女だったら、正々堂々嫌いだと言えたのに。
まあ、わたしの怒りに気づいていながら、ちゃんと向き合おうとしてこないあたり性格がいいとも言い切れない、と思ってしまうのは、わたしが彼女を嫌いだからか。
「カルとの婚約が決まっても、そこまで嬉しそうじゃなかったねえ。多分、カルのことは好きでも、大帝王の妃としてやっていく自信と覚悟がなかったんじゃないかい?」
――貴女と違って。
ウィルエールは、そう言わなかったけれど、言葉の端に、そんな声が隠れているような気がした。
「ま、なる様になるでしょ。貴女を追い出してまでくっついたんだから」
それは、なんとななる、ではなく、なんとかさせられるのでは、と思ったが、言葉を飲み込んだ。飲み込まざるを得なかった。
ウィルエールに手を握られ、言おうとした言葉が引っ込んでしまったのである。
すりすりと優しく手の甲を撫でられると、振りほどくのをためらわれる。
恋かと聞かれれば分からないが、振りほどいて明確に拒絶しなければならないほど、彼を嫌いにはなれない。
「ぼくとしては、女神を口説けるようになって万々歳さ。女神には悪いけど」
「貴方、そればっかりね」
「ぼくとしたことが! 口説き文句の種類を増やさないといけないね」
「そういうことではないのだけれど……」
最近は丸くなった自覚はあるものの、こんな怒りっぽい女が好きなんて、彼も変わっているものだ。




