ヨーグルト売り
『あのこれ売れるんですかね?』
その一声で僕は我に帰った。夏の暑さでボーッとしていたが、瞬時に答えられた。
「いや、売れると思う?逆に」
「ですよね・・・」
返事をした後輩はそれからというものの携帯と睨めっこを始めた。思えばなぜ町内会で屋台の手伝いをしているのか。そうなる選択をした自分を恨みたくなる。高校の内申点稼ぎのボランティアがこんなにも過酷なものだとは誰が予想できただろうか? しかもよりによってインド屋台担当とは。テント内でインドカリーの熱がこもりスパイスの香りが立ち込めている。店主のアラダさんは汗を滴らせながら横でせっせとナンとカレーをよそっていて忙しそうにしている傍、僕はただただ売れるのを待つ。
アラダさんは日本語を話せない。最初は何か指示をくれていたアラダさんだったが、後輩と二人棒立ちしているのをみるや英語でsit downと言われる始末だ。つまり二人は今やることがないのだ。いや後輩には携帯をいじるという大切な仕事があるが、僕は学校の内申がかかるボランティアだからという理由で携帯を持ってこなかった。あの時変に真面目な思考をした自分をはたきたくなる。
そんなこんなで人生の中での自責の念を巡らせているとそれから3時間が立っていた、一向にヨーグルト目当ての客はこない。町内会の日本のお祭りの雰囲気とは一切調和しないこの店頭で僕の心は鎖国しそうになっていたが、とうとうその時がやってきた。
「ダヒープリーズ、ダヒープリーズ」
血色の良い髭を生やした男性はアラダさんの知り合いらしかった。ダヒー??最初何を言われたのか全くわからなかったが、そうやくそれと認識した。そうこの日僕は始めてヨーグルトを売った。




