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 なぜそんなにも悲しい顔をしているのかと、アシュリーはそのことが気になった。前世というあまり耳にすることのない言葉よりもずっと。


「前世のわたしは、ルーに酷いことをしたの?」

「えっ」


 ルーヴィスは目を丸くした。


「だって、すごく悲しそうな顔をするから。わたしが酷いことをしたの?」


 もう一度アシュリーが尋ねると、泣きそうな顔をして、ルーヴィスは口を引き結んだ。


「いいえ。酷いことをしたのは私です」

「そうなの?」

「……はい。あなたを守れませんでした。私が守らなくてはいけなかったのに」


 深い後悔が滲み出ていた。泣き出すのではないかと思ったアシュリーは、思わずルーヴィスの頬を撫でた。よくわからないが、アシュリーが慰めなくてはいけないような気がした。

 ルーヴィスは目を細めて、嫌がるでもなく、されるがままになっている。


「私はあなたの前世に──サディに恩がありました。だから何としてでも助けなくてはいけなかった。サディは……当時、他に類を見ないくらい、高い魔力を持っていました。でもそれがよくなかった。人間は人と異なるものに恐れを抱くのでしょう。サディは災いをもたらす魔女として人々から糾弾されたんです。当時、伝染病が流行っていたことも運が悪かった。サディは病から人々を救おうと奮闘していたにも関わらず、病をもたらした人間として非難されました」


「それって魔女狩りのこと? 二百年くらい前に、伝染病を魔力の高い人のせいにして、処刑したことがあるって習ったよ」


「ええ、そのことだと思います。今はもう魔法で病気を作ることなどできないと証明されましたが、魔力の高い人間が実際に災いを起こしたことは、人間の歴史の中で何度かあるのだと、サディは言っていました。だからこそサディは人の助けになることをしようと、自分が病気に侵されることも省みずに、病をどうにかできないかと奮闘していました。そんなサディを誰かが、病を呼び寄せた張本人なのだと言い出したのです。その噂が瞬く間に広がって、サディは捕らえられました。そして録な裁判もされずに極刑という判断が下されたんです」


 あまりに酷い内容に、アシュリーは眉根を寄せた。


「サディは病から人を救おうとしたんだって言ってくれる人はいなかったの?」

「いたかもしれません。しかしサディを糾弾する人のほうが圧倒的に多かった。魔力の高い人間は、それだけで恐れられ、そのせいで災いの原因だと決めつけられるような時代だったのです」

「そんなの酷いよ」


 サディという人物が他人だとしか思えないアシュリーは、魔力が高いという理由だけで、人の為になることをしようとした人が処刑されたということに、憤りを感じた。


「ええ、酷いです。そんな酷い人間からサディを守れたのは私だけのはずでした。でもまだ生まれてから間もなかった私は、力が及ばなかった。そのことをずっと後悔していました」

「……それ、ルーのせいじゃないでしょ」


 まともな理由もなく、サディのせいだと言い出した人たちのせいだ。


「いえ、私のせいです。あの時の私にもっと力があったなら、サディはあんな死に方をせずに済んだんです」


 心の底からそう思っているのであろうルーヴィスは、サディのことがとても大切だったのだろう。アシュリーは悲しくなった。


「……二百年も後悔していたの?」

「はい。だから同じ過ちは二度と繰り返さないと誓いました。アシュリー、今度こそ私はあなたを守ります」


 琥珀色の瞳でじっと見つめられて、アシュリーは戸惑った。


「どうしてわたしがサディの生まれ変わりなの?」

「魔力の質と核が全く同じだからです。偶然では起こり得ないことです。それに雰囲気も似ています」

「そう、なんだ。うーん、でもわたし、全然覚えてないよ?」


 真偽はともかく、たまに前世の記憶があるという人もいる。アシュリーには全くない。それなのに、ルーヴィスがサディの変わりにアシュリーを守ることに、意味があるのだろうか。


「そういうものです。私がそうしたいだけなのです。お願いですから、側にいさせてください」


 悲しげに言われた言葉に、アシュリーはぴくりと反応した。


「……今はもう、魔力が高いっていうだけで、いろんなことのせいにされる時代じゃないんだよね?」

「それは……そうです。でも何も起こらないとは限りません。私はあの時よりも、ずっと力が強くなりました。役に立つはずです」

「いや、守るとかそういうのはあんまり考えてくれなくてもいいよ。でもね、わたし七歳でおじいちゃんとおばあちゃんが亡くなってから、ずっと一人なんだ。だから一緒にいてくれるだけでいいんだけど、どうかな?」


 側にいさせてというルーヴィスの言葉は、アシュリーの心の柔らかい部分に突き刺さった。孤児院にいる子供は、仲間がいるのだとしても、誰もが孤独だ。

 たとえアシュリーではなくサディの為なのだとしても、ルーヴィスが神獣なのだとしても、アシュリーだけの側にいてくれる存在は、アシュリーにとって得難いものだった。


「……一緒にいるということは、守ることにもなると思いますが」

「そうなの? えっとね、あんまり守るぞって気負ってほしくないの。一緒にいてくれたら、それでいいの」


 ルーヴィスは困ったように瞬いた。


「アシュリーのことまで守れなかったら、私は今よりも深い後悔に苛まれることになります。アシュリーは守られることが嫌なのですか?」


「え? それは違う……かな。守るだけじゃなくて、一緒に遊んだり、ご飯食べたりしてほしいの。あれ? これってわたしが我が儘言ってるだけだね」


 それならどう妥協案を出すべきかとアシュリーが考えていると、フッと笑うような気配がした。


「一緒に遊んで、ご飯を食べて、そして守ります」

「いいの?」

「はい。だから守らせてください」


 ルーヴィスはアシュリーの手に顔を擦り付ける。

 アシュリーは遠慮しつつも、もう一方の手も伸ばしてみた。ルーヴィスが動いて、両手の間に収まる。アシュリーはそっと抱き締めた。


「今度こそ、必ず守ります」


 森の匂いがした。

 ルーヴィスはきっとサディのことが大好きだったのだろう。二百年間ずっと後悔し続けるほどに。

 その人がアシュリーの前世だということは、完全に納得できたわけではないが、神獣が言うのだから間違いはない。

 だからアシュリーは申し訳なく思った。

 前世のアシュリーがとても不幸な死に方をしたせいで、ルーヴィスはずっと辛い思いをしている。

 アシュリーは自分が不幸だと思ったことはない。孤独だとは思っていたが、それもルーヴィスが側にいてくれるなら解消される。これからはアシュリーに幸福が訪れるはずだ。

 だからきっと、ルーヴィスのことも幸せにできるはず。

 アシュリーは守ってもらう代わりに、この悲しい目をした神獣を幸せにしようと決意した。

 神獣にとって短いアシュリーの一生が終わる時、何の憂いもなくなるように。

 

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