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第8話《3》

「ドームの中に取り込まれた時だ。

 白服の装備にあったモニターシステムが勝手に記録してたよ」

 センリの答えに、ユウキが呆然と考える。

 どれだけの間、何をしてきたらあんな目をするようになるのか。自分は何かを捨てたのだろうか、あるいは何かを奪われたのだろうか……

 ユウキが無意識に自分の胸に触れた。

「――ファイルの中のボク、胸に何か付けてたよね」

「ああ……

 あれはもしかしたら《シドの遺産》なのかも知れない。

 事情はさっぱりだが」

「記憶がまったくないもんね。

 でもあの目つきからすると、よっぽどの何かがあったのかも。

 それで復讐のために……とか」

「うーん……ユウキとイメージが合わないんだけどな。

 あとネイトって単語も気になる」

「それよりもあの台詞だよ!

 あの通りなら、伯父さんの転生にはボクが関わったことになる。

 でも転生は死ななければできない筈。

 なら、ここにいるボクは一体何なの……」

「お前はオレの甥の七瀬結城だ。

 あの傍若無人でガサツな姉貴から生まれた、上出来のな。

 ユウキ、オレは何だ?」

「ボクの母さんの弟……伯父さん」

「オレたちがそう思っている間はそれが真実だ。

 だが、どうしてこうなったかは知りたい。

 ユウキ、探るぞ……二人でこの都市を、徹底的にな!」

 しばらく考え込んでいたユウキがやがて小さく頷く。

 センリと合わせた目に迷いはない。

「ユウキ、スワンリッターを出せるか?

 管理局のねーちゃんたちはまだあそこで何かやってるようだし、オレたちも行こう。

 どうせ誰も事件解決を諦めてないだろう。

 特にテッセって娘!」

「分かった、ちょっと待ってて……」

 ユウキがスワンリッターの状況を見る。

 手早くコンソールを操作すると、ダッシュボードに各種ステータスが表示されてゆく。

「あれ……バッテリーが充電中になってる。

 あと伯父さん、ここ直してくれた?」

「いいや、何もしてないぞ」

 センリも覗き込んだ。

 傷だらけでべこぼこになっていた筈のフェアネスが新品同様になっている。

 その他の箇所もだ。

 さすがに水素燃料はないが、消耗しまくってる筈のタイヤすら元に戻ってる。

「直したのは《都市》だな。

 バッテリーも減らないようだから、このエリアにいる間は能力も使い放題だ。

 ――おそらく敵もな」

 センリが頭を下げたため、ブルーグリーンがふわりと流れる。

 首筋から背中までが露になったため、ユウキが無言でセンリの髪をまとめ始めた。

 ユウキは髪をまとめるのが上手い。

 収容所暮らしの頃、どん底だったユウキの気晴らしとしてセンリがはじめさせたことだが、すぐに楽しく感じるようになった。

 内面がオッサンだとしても、外面は可愛いセンリを更に可愛く飾っていると気が良くなる。

「あれ……伯父さん、肩の大砲に弾が一発残ってない?」

「分かるのか。

 ――いや、オレも分かる! 何かそんな感触がある」

「僕は見える。

 構造とかはさっぱりだけど、ここがこうなって……」

 ユウキの瞳に微細なサーキットパターンが浮かぶ。

「ユウキ、説明できるか?」

「えーと……」

 しばらくユウキの説明を聞いていたセンリの肌にパークジェットが踊る。

 やがて大砲のセーフティが外れた。

「やった!

 ――でも伯父さん、これは捨てて行こう。

 テッセたちに逮捕されちゃう」

「脱いでも逮捕されるぞ、ユウキ。

 素っ裸で手足に装甲なんて変な格好、お前にだって襲われる自信ある」

「ごめん伯父さん、もしかしたら冗談にならないかも……

 変な目で見たらごめんなさい」

「んー、んん?

 ユウキ、ちょっとこっちへ」

 恐る恐る近づいたユウキの頬へ、身を乗り出したセンリの唇が優しい感触を残す。

 それだけでユウキの胸中から困惑が消えた。

「どうだ、収まったか?」

「うん……

 伯父さん、こーゆーのどうやって覚えるの?」

「簡単だ、耳を澄ますんだよ。

 冥府の奥底から姉貴がショットガンに弾を込める音を聞けば、大抵の煩悩は一発で収まる」

「あー、うう……確かに母さんなら、そのくらいやりそう。

 父さんには全部受け流されてたけど」

「ああ、義兄さんは本当に凄い人だったな。

 おまえはそのどっちの血も受け継いでるよ」

「そうかな……うん。

 ならショットガンの使い方も覚えとくね」

 ユウキが笑いながらバイクに飛び乗った。センリも続く。

 いつもの調子で外階段から地上へ降りたバイクが、再びブローアウト荒れ狂う地帯へと突入した。


 テッセ、メイタの周辺で壁や天井が物凄い早さで生成されてゆく。

 どうやら《都市》は宇宙船の内部構造をデタラメに構築しているらしい。

「メイタ、これは……セラム114に墜落した《キャメロン号》では!?」

「た、確かにニューワールド級の特徴は出ています。

 じ、時間があれば、もうちょっと詳しく調べたいですが……!」

 津波のように断続するブローアウトでメチャクチャに再構築された《都市》を、テッセとメイタが必死に駆け続ける。

 その後ろからは――

「とにかく通信ができる場所を探してください、メイタのでもビーコンくらいは届く筈。

 私はここで時間を稼ぎます!」

 テッセがメイタを庇うように足を止めた。

 後ろからは骨と金属フレームだけになった《怪物》が迫ってくる。どうやらキャンサーで外見を再構成できないらしく、胸部には赤く脈動する遺産が剥き出しになっていた。

「テッセ!?」

「早く!」

 だがメイタの理性と感情とが衝突する。

 気配からメイタの葛藤を悟ったテッセが、彼女を庇うためにも全力で前方に跳躍した。

 目標は《怪物》、その胸部!

「早めに援軍を呼んで下さい!

 あるいはユウキとセンリを探してください、二人とも絶対に生きてます!」

 覚悟を決めたテッセの叫びを受け、メイタが踵を返す。

 視界の端で一瞬だけメイタの背を見送ったテッセが、怪物と交差した。

 ジアペルタによる蹴りの一撃!

 だが怪物は不完全な腕でテッセごと蹴りを弾く。

 広い通路を塞ぐように両者が対峙した。

『ARRRGH!』

 怪物の一部がネジくれ、歪み、スケルトンフレームの先端が鋭いかぎ爪へと変異する。

 構えるテッセ目がけて爪が一閃された。

「――ふっ!」

 一撃をジアペルタのジャンプジェットで躱し、ネジくれた悪夢の産物へ肉迫する。

 幾何学が暴走したようなホールの中央で両者が真っ正面から激突した。

「パイルトラスター!」

 テッセ必殺の蹴りがシドの怪物へ叩き込まれた――が、浅い!

 蹴りは腕で受け止められ、パイルボルトも骨とフレームで弾き返される。反動からバランスを崩したテッセのボディへ爆発のような一撃が炸裂した。

「かはっ!!」

 怪物の一撃を腹に食らったテッセが、くの字になったまま吹き飛ばされる。

 ジアペルタの分極時装甲自体は一撃にも耐えたが、殺しきれなかった衝撃がテッセの鍛え上げられた腹筋をブチ抜いて大幹の内部へエコーする。

 火花を上げながら地面に叩きつけられたテッセへ、シドの怪物が二撃目を放とうと追撃する。

「は――ふっ!」

 デタラメに咳き込もうとする呼吸を必死に整えると、テッセが怪物の追撃を片腕だけの倒立から螺旋の動きで躱す。ジャンプジェットも一閃。

 躱す動作の延長で天地リバースのまま肋骨へローリングソバット!

 からの――

「パイルッ、トラスタァーッ!!」

『OOOHH――ARRRGH!』

 流れるような連携が綺麗に入った。

 赤く脈動する遺産へパイルボルトを叩き込まれた怪物が不定に歪み、NMの結合に綻びが生まれる。

「行けます!」

 ダメージの入ったことを確認したテッセが体勢を立て直し、二撃目を放った。

 必殺の蹴りが再びシドの遺産を直撃する。

 ――寸前、肩のフレームを盾にされた。

 パイルボルトが命中した部分が粉砕され、焼却されたシティマテリアルの火花が飛び散る。

 だが致命傷には至らない。

 ダメージを負った怪物もまた連撃で応じた。怪物のフレームが不定に変形していく。

 キネシック場が荒れ狂い、ジアペルタの分極時装甲とぶつかり合う。両者の間でNM灼却時に特徴的な火花が上がった。

 目まぐるしく位置を変えながら二対が一閃となって奔る。

 爆発のような閃光が連続し、衝撃がホールを縦横した。硬いモノ同士がぶつかり合う澄んだ音が大音量で響き渡る。

 サイケデリックな火柱が立ち上がり、二対の一方が爆発したように弾き飛ばされた。

 吹き飛ばされたのは――ヒトガタだ。

 ヒトガタが物凄い早さで超構造体に激突し、メリ込んだ。

「あ……かはっ!」

 壁に半ばメリ込んだテッセが、口から血と唾が混じったモノを吐き出す。血だらけ、アザだらけで、ひゅーひゅーと荒い呼吸をついた。テッセを守り切ったジアペルタから分極時装甲の輝きが失われてゆく。

 青い装甲は、その全機能を停止させた。

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