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第6話《4》

 ヘッドパーツの前で途方に暮れていたユウキがぴくんと反応する。

 ワンテンポ置いて、背中に黒服の巨体を抱えたブラキベルマが表れた。どうやら糸で壁沿いを走ってきたらしい。

 ブラキベルマもボロボロで、背負われた黒服は気絶している。

 目が合ってしまったのでユウキが何となく手を差し出した。ブラキベルマが案外素直に手に掴まる。テッセもジアペルタで手伝った。

 そのついでにテッセが少女と黒服に小さなデバイスを押しつける。

「テッセ、それは?」

「セキュリティNMを打ち込ませて頂きました。

 法に従ったため、宣言が事後になりましたことお詫びいたします」

 テッセが定型っぽい内容をスラスラ答える。

 黒衣の少女は無表情のまま、テッセとユウキを交互に見る。

「テッセ……それ、逮捕したってこと?」

「法的には逮捕よりもう一段上になります。

 彼らはここ風に言うなら核兵器を持ったテロリストですから」

「か、核兵器って……

 テッセもそれをここで使う気なんだよね」

「いま判断待ちです、ユウキ。

 オフィサー二名とグレード5以上のクロスアイによる審査承認が必要です。

 撃てるかどうか半々でしょうか」

 だが撃てないとは微塵も考えてなさそうだ。

 こんなのを使われたら伯父さんも……と、そこまで考えてユウキが我に返る。

「あ、伯父さんは?」

「そうでした、メイタも!」

 下では薙ぎ払われた都市が真っ平らになっていた。

 特に爆心地付近はほぼ何も残っていないが、消滅の起点には二つ影があった。

 鈍い白と、砕けかけたクリスタル――

 ベロボーグは首がなく、両足も千切れたまま、ズタボロになってクレーターの縁に半ばめり込んでいる。それでも砲塔回りはほぼ無傷だ。

 反対側にめり込んだウオズミは左半身が丸く消滅していた。全身にはクラックが縦横し、クリスタルが濁りきっている。三面キマイラはウオズミの手に若干残るだけだ。どうやら盾にされたらしい。

「終わったのかな」

 ユウキの言葉でフラグが立ったのかもしれない。

 何かが崩れる音とともにユウキたちのいる建物へ衝撃が走った。天井から大量の埃が降り注ぐ。テッセが窓から下を覗き込んだ。

「一階へ降りましょう」

「テッセ、エレベーターか階段使おうよ。

 あと、えーと……」

 ユウキが無反応の少女に声を掛けあぐねていると、少女が急に覚醒した。

 滑らかに動きだし、チェルノボーグを軽々と持ち上げる。その状態でも背中のコルセットから展開したリガー先端のモノタイヤで意外と早く動く。

「――私はブラキベルマ、後ろの大男はチェルノボーグ。

 そちらの指揮下に入りますから、打ち込んだNMについて教えて下さい」

 ユウキが想像していたよりずっと可愛い声音だったが、何となくエフェクトがかかってるような感じもする。

 少女の問いにテッセがニコニコしならが答えた。

「大丈夫、打ち込んだのは位置や行動のモニター機能を行うNMです」

「なるほど、なら死刑代わりに現場の判断で射殺?」

 皮肉な返しに、珍しくテッセが言葉に詰まる。

 意味が分からなかったユウキがブラキベルマとテッセの間に流れた緊張に戸惑う。

 先に緊張を解いたのはブラキベルマだった。

「一緒に連れて行って下さい」

 テッセが頷いたので、ユウキも緊張を解いた。

「ボクは七瀬結城、よろしくね」

「テッセ・アンティリーズです。

 ――ブラキベルマさん、自発的なご協力を感謝します」

 三人は大階段を使って降りることにした。

 幽霊でも出そうな豪華な階段を、バイクが意外と安定して降りてゆく。スパイダータンクも糸とリガーで器用に着いてきた。

 外に出ると無事だったバギーがユウキたちを見つけて近寄ってきた。

 助手席のセンリがユウキを見つけると、安堵のあまりシートに沈み込む。

「よかった、ユウキたちは無事だ。

 横のもう一組は誰だ?」

「さっきの黒服と一緒にいた少女みたいですね」

 バギーに気づいたユウキも片手を大きく振る。

 タンデムしていたテッセが、ちょうど目の前にあったユウキの髪についた埃を軽く払う。遠目で見ていたセンリも自分が埃だらけだったことに気付き、パタパタと服を払った。

「妙に細かい砂だな、これ?」

「不活性化したNMですから。

 センリの髪、まだ汚れがありますね。払ってもよろしいですか?」

 同意を貰ったメイタが髪の埃を軽く払う。センリが微妙な顔をした。

「何か?」

「女の子になってから髪に触られる機会が多くなったなと思ってね」

「性別はともかく、今はこんなに長いですし。

 ちゃんとお手入れもされているようですから、汚れるていると気になります。

 髪のセットのような文化支援もリハビリに含まれていたのですか?」

「収容所から出るために自分で憶えただけだよ」

 気が狂ったガギと思われないためにな……と言う言葉は胸中に飲み込むが、口調で何となく察しは付いた。

 メイタが労るように眉根を寄せる。

「クロムドーム人である私が言えた義理ではありませんが、よくありません……」

 そんなウェットな会話をアラートが中断させた。

 半分オートで急発進したバギーのすぐ後ろにフラッキング弾が叩き込まれ、爆炎をあげる。

 光弾の起点には再起動したらしいウオズミがいた。

 半ば削り落ち、クラックだらけのボディに辛うじてくっついていた首がぐるりと巡る。とっさにメイタがバギーのノーズを巡らせてセンリを庇った。

 バギーに併走していたバイクでも、タンデムのテッセがユウキを庇う。

 ウオズミの目がテッセとメイタを凝視する。

 目線が行き来しながら、かすかに下がり――二人の豊かな胸を認識した瞬間、スカっとスルーされた。結晶化された舌打ちが聞こえたような気がした。

「せっ、セクハラです!」

 沸騰したテッセがリボンガンでジアペルタ越しに胸を隠す。バイクのバックシート上でくねっと腰を曲げるのがちょっと艶っぽい。

 バギー運転席のメイタも本気でムッとしている。

 その間もウオズミの視線は巡り、再びバイクに戻ってきた。テッセの背中へ視線をピタリと合わせたが、不穏な雰囲気を強く感じる。

『JAAADEEEE!』

 さっきよりずっと甲高いウオズミの声が響いた。

 ユウキが左を見て、右を見てから、もしかして……と、自分を指さす。テッセが自信無さそうに頷いた。ブラキベルマはぷいと横を向いている。

「ちょっと待てーっ!

 ボクはオトコ……じゃないけど!」

「ユウキが女性であることは明白です」

「見たの? それとも触ったの?」

 ブラキベルマの問いに、今度はテッセがぷいと横を向く。冷や汗一筋。

「こらーっ!」

 遠くからセンリの怒声が響く。

 ユウキの尻を追いかけまわし始めたウオズミへのものだろうが、勘違いしたテッセがびくっと肩を震わせる。ついでにユウキにも伝染る。

『JAAADEEEE!』

 再びウオズミが絶叫した。

 体内を巡るNMの濁流が鮮血のような紅からオレンジへ代わり、太陽表面のように脈動する赤色を経て、やがて静謐の黒へと変化した。

 その身体から闇がこぼれ落ちる。闇――NMの濁流だ。

「ねえ、あの黒いの何!?」

「おそらく……完全活性化したプライマルNMです。

 ナノの名の通り、NM単体は可視光の波長より小さいんです。

 構造次第で光をほぼ反射しなくなります。

 ですので、おそらく完全活性して自己組織化――成長を始めたモノかと」

「普通の状態なの?」

「いえ、そもそもNMが濁流になってる時点で……

 物質の分解・再構成が連鎖して止まらなくなるNM量をドレクスラー臨界量、それが起こってしまったNM集合体をグレイ・グーといいます。

 ジオレイジで一度量が減った筈ですが、また復活しているとしか」

「それ……確かジオレイジしか対処出来ないって言ってた」

「そうです!

 使われたのは推定で数世代前の旧型とはいえ、ジオレイジをブチ込まれてなおも再生する化け物。

 やはり私の予想は正しかった!」

 気合いを込めるテッセの後ろで、空間の虫食い穴が濁流となってウオズミのボディからあふれ出し、砕けた箇所を埋め尽くす。

 流れ出た黒が地面を徐々に侵食する様を呆然とみていたユウキがふと顔を上げると、再び異形のウオズミと目が合った。

 昔は一切受けることがなかった視線が熱く注がれている――ような、気がする。

 ユウキの背中にさっきより凶悪な悪寒が走り抜けた。

 多感な中学時代、こっそりネットで見た絵の中にこんなのに陵辱される女の子の絵があった。いまウオズミに捕まったらその絵と同じ目に遭う! 絶対に!!

「逃げる!」

「着いてく」

「メイタと合流願います、ユウキ」

 スワンリッターがターンするとウオズミも疾走を開始した。明らかにユウキを追ってくる。テッセやブラキベルマは眼中にない。

「テッセ、貞操の危機って感じたことある!?」

「これほど強烈なのには……」

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