第6話《1》
キマイラが連続でフラッキング弾を放つ。だが、どれもユウキには追いつけない。
流れ弾によってデタラメな爆発が連続してゆく。
バギーにも瓦礫の雨が降り注ぐが、ステアリングを握るメイタは器用に障害物を避けながらバイクとキマイラを追う。
ずっと上を注視していた助手席のセンリがもどかしげに身を乗り出した。
「メイタさん、もうちょっと距離取れないか。
こっからじゃユウキを援護できな……ん?」
走るバイクの上でユウキの背がビクンと跳ねた。
一呼吸遅れ、バギーの仮想コンソールに並んだセンサーアプリが一斉にポップアップする。
「これはジーリライト反応!?
でもいったい何が……あっ!」
何かに気付いたメイタが、叫びながらアクセルを踏ん付ける。
バギーが弾かれたように加速し、路肩に停めたバンとリムジンの脇を高速で走り抜けた。
バンの脇に転がった血まみれ死体――にしか見えないウオズミから一気に遠ざかる。ウオズミは自分の胸を裂いていた。
「ひ、ひひ……
あれは僕のものだ、誰にもやら……ないっ!」
ごそりと心臓が引きずり出される。だが色はクロム。あまりにメタリックな機械がジーリライトの閃光を放った。
高く飛び散った鮮血が、金色に輝く。
血に染まった地面がぐにゃりと解け、ウオズミの身体から飛び出した何本もの赤黒い触手が地に穿たれる。
「ジェイドーッ!」
その瞬間、桁外れのキネシック場が大展開された。
「――う!?」
「うげぇ!」
「……」
「あんっ!?」
「にゃーっ!」
ベロボーグ、チェルノボーグ、ブラキベルマ、センリ、ユウキが身を震わせる。
余波を受けた五人の体内NMが強制的に活性化された。
白と黒の肉体は不定形変形して装甲体となり、ブラキベルマもスパイダータンク・フォームがより生々しくなる。
下のバギーではセンリが行き場のない内圧に悶絶していた。
同じくユウキもバイクに突っ伏す。
全身が過敏になっているようだが、それでもタンデムのテッセを危険にするような機動は一切取らない。
悶えながら必死にバイクを運転するユウキの背中を見て、テッセが真っ赤になる。
「――こほん。
ユウキ、大丈夫ですか?」
「…………………………だいじょぶ」
沈黙は長かった。
「テッセ、一体なにが……」
「これは恐らくマイクロ=グレイ・グー、極少範囲内でNM連鎖反応が連続する状態です。
プライマルNMの密度とエネルギー圧が高いと起こります。
本物には及びませんが、それでもNM量が爆発的に増えることになる」
「それ、汚染者が増えるってこと?」
「そこは羽島さんが上手くやっている筈です。
私たちが都市に打ち込んだ後付けの制御システムも正常に働いているようですし、仮に影響が出ても健康被害にはつながらないとは思いますが……」
「軽微な汚染者は増えるかも知れないなら同じだよ!
今だって風評や偏見が酷いんだから、あることないこと何を言われるか!!
テッセ、すぐ止める」
「そう、ですね……もちろんです、ユウキ!
必ず止めましょう」
視線の先にはウオズミがいた。起動した《シドの遺産》の機能なのか、全身は宝石のような結晶構造体へ変貌している。願望を反映でもしたのか、筋骨隆々だ。
『JAAADEEEE!』
クリスタルのボディが絶叫を上げる。
「テッセ、何あれ?」
「分かりませんが……あれの前に、後ろを何とかしませんと」
バイクのずっと後ろで深紅の三面キマイラもゆっくりと立ち上がった。
こちらも活性化している。
ボディを構成する死体と機械とが脈打ち、怨嗟の大合唱とともにユウキたち目指して再び疾走を開始した。
その下で、メイタの運転するバギーが瓦礫を蹴散らして飛び出した。
「センリ、後ろから宝石怪人が追ってきます!」
「くそっ、奴の狙いは何だ」
状況を把握しようと振り返ったセンリと、クリスタルウオズミの目が偶然ぶつかった。
込められた明確な意志――
『JAAADEEEE!』
何故かセンリの小さな背にぞわっとした悪寒が走る。
センリが左を見て、右を見てから、もしかして……と、自分を指さす。メイタが自信無さそうに頷いた。
「ちょっと待て、人違いだぞ!
ジェイドって誰だ!?」
『JAAADEEEE!』
センリの声はウオズミのクリスタル顔面で雲散霧消する。
メイタがバギーを悪路モードに切り替えた。タイヤがキャタピラへ変形する。
「センリ、しっかり捕まっていてください。
距離を離します!」
「あいよ……ん?」
バギーの両脇を白と黒のメタリックな影がすり抜け、ウオズミへ向かう。テッセが着ているようなSDV姿となったベロボーグとチェルノボーグだ。
装甲上に再現された口がパカリと開き、フェイスの奥で電子の目が爛々と光る。
「ウオズミィィ!」
「つれないぜ、オーミ!」
『GRAAAAA!』
二人の威嚇に答えるように、クリスタルウオズミが軋むように叫んだ。普通の人間なら卒倒しそうな叫びだったが、白も黒も意に返さない。
「このままバラして持ち返るぞ!」
「おう! 前みたいに愛し合おうぜ、オーミ!」
チェルノボーグが叫ぶと片腕が一瞬でデュアルブレードのチェーンソーへ変わる。
凶悪な面構えの黒い鋸刃が連装で甲高い駆動音を上げた。
「望めば何でも作り出せる、いい《都市》だぜ」
「オレも行くぜ……おおおおおおっ!」
横でベロボーグも右半身を巨大な砲塔へと変える。背中には発電用らしいミニジェットタービン郡が一斉に形成された。
砲と反対の手にはブレード内部に電光を内包した巨大サーベルが出現する。
白と黒とクリスタルが激突した。
斬撃と閃光が連続する――
激闘の少し上、ビルの屋上を疾走するユウキたちもまた、深紅のキマイラと激しいチェイスを繰り広げていた。リアカメラの映像をチラと見たユウキが背筋をぶるっと震わせる。活性化したキマイラは本気で気色悪い。
「ユウキ、反撃しましょう。
しばらく真っ直ぐ走って下さい」
「OK!」
バイクが安定したことを確認したテッセが空中で腕をクロスさせる。空間がシャープに瞬くと縦長に平べったいライフルが出現した。銃口は縦に四つ並んでいる。
ユウキたちの地球ではまだ試作段階であるリボンガンという電磁銃だが、ユウキに知識はない。
「いまどこから出したの?」
「グリッチです、ユウキ。
私のは移動よりアイテムボックスみたいな使い方をします」
テッセが四つの銃口をキマイラに向けると、無造作に電子トリガーを絞った。口径六ミリのテレスコープ弾四発が初速マッハ三という高速で放たれる。
だが音や反動はないに等しい。構えていたユウキが拍子抜けした。
「ここまで静かだと効いてるかどうか解り辛いね」
「ジアペルタに状況が表示されていますから大丈夫です、ユウキ」
バックシートで身体をネジったテッセが再びリボンガンを放つ。バレルに刻まれたバレットストームの名に恥じぬ弾丸の雨がキマイラに集中するが、キマイラの足は止まらない。
「ユウキ、少し距離を取れませんか」
「いいよ。ちょっと無茶だけど隣のビルに飛び移るから、覚悟して!」
了解したテッセの膝がユウキのお尻ごとバイクを挟み、左手が後ろから伸びてユウキの太ももを掴む。腰に回すには細すぎるのだろう。
ユウキがハイドロタービンをフルブーストした。
スターターのフリット音に重なってジェットエンジンみたいな轟音が響き、大電力を注ぎ込まれたバイクが即時フルパワーに達した。
「行くよ!」
前輪がアンチウィリーをぶち破り、弾かれたように持ち上がって瓦礫に乗り上げた。
一瞬だけサスが大きく沈み、戻るタイミングで瞬発加速――バイクは砲弾のように空中に飛び出した。
だがキマイラも二人を追って跳躍する!
跳躍するバイクの真下を通り過ぎようとしていたバギーも事態に気づいた。
見上げると遥か頭上をバイクが飛び退り、深紅のキマイラも後を追う。
「ユウキ、いま……って、何だぁ!?」
見上げるセンリの視界に、ボコボコにブチのめされて血だらけNMだらけの黒服装甲体が割り込んだ。
メイタがステアリングを切る。左に沈み、右へカウンター。S字の軌道で、引っくり返りそうになっていたセンリがくるっと回るように元の位置に戻る。
代わりに黒服が地面に叩きつけられた。
「ぐげっ!」
何度かバウンドしてから地面に真っ平らになって止まる。どうやら黒服がウオズミにブン投げられたらしい。
エンジンソーがその辺をガタガタ跳ね回っていたが、クリスタルウオズミが通り過ぎざまに踏んでへし折っていった。
「お前ら、でかい口叩いてた割には弱いぞ!」
ユウキを見失ったセンリが半ば八つ当たり気味に黒へ怒鳴るが、返事はない。




