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第1話《1》

 ある時点を境にして、七瀬結城は目立つことを嫌っていた。

 恐れていたと言ってもいい。

「おちつけ、七瀬結城……

 ここは公共の充電機能付き駐車スペース、ボクがバイクを停めても何もおかしくない。

 平常心、へいじょうしん……っ!」

 《船》の墜落により南太平洋に生まれた人工島唯一の都市イース最大のターミナル駅、そのメインゲート前で呟きが繰り返される。

 だが祈りや精神力ではどうにもならないこともある。宵闇に行き交う群衆が、駐車スポットの一角で異彩を放つバイク周辺で一時だけ足を止めてゆく。充電を始めてからユウキとバイクは数多の視線に晒され続けていた。

 目立ってしまう理由は幾つかある。

 そもそも場所が悪い。異世界製のソリッドな超電磁バイクも珍しいモノだろう。

 なにより――

 愛車のコンソールパネルを覗いたユウキが、ライダージャケットのフードを素早く被り直した。

「充電はまだ半分程度か……

 国連兵を満載した車の列が通り過ぎてから三十分くらい。遅いと出番がないかもだけど、急ぎすぎると電池切れの悪夢。悩むところだなあ。

 偵察で先行した伯父さん次第だけど……」

 イースは世界中から畏れられると同時に、欲に目を焦がす様々な勢力がひしめく場所でもある。

 出遅れれば折角の儲け話をフイにする可能性も高い。

 ――葛藤の末、ユウキはもう少しここで待つことにしたらしい。フードの陰から目だけ覗かせ、ぼーっと群衆を見つめる。人種や性別は多種多様だが、ターミナル駅周辺ではビジネスマン風の身なりをした人間が圧倒的に多い。


「ここも人が増えたな。

 ゴーストタウンだった頃よりは、賑やかでいいけど……ん?」

 バイクからアラームが鳴り響いた。

 コール、サカエセンリ――ユウキが慌ててバイクのコンソールに顔を近づける。

「伯父さん、どうしたの?」

『ユ……キ、今月三体目の……が出た!

 手持ちのバッテ……けじゃ手も足も出ない、データ送ってるから……早く……!!』

 イースを含む《都市》に特有のシティノイズのせいで切れ切れのメッセージを何とか聞き取る。やがて回線がフェードアウトするように途切れた。

 直後に摩天楼の地平から閃光が瞬き、ワンテンポ遅れて炸裂音が叩きつけてくる。

「何だ!?」

 ユウキが遠目を賺すと、遅れて黒煙も立ち上る。

 爆発だ!

 呆然としていた群衆がやっとざわめき出す中で、ユウキが即座に動く。

「伯父さん、いま行く!」

 幼さを残す脚線で天を蹴り上げつつ、愛車に飛び乗る。

 小さな背に隠れていたバイクのフェアネスには『SWAN RITTERスワン・リッター』の文字。華奢で小柄なユウキの身体が軽すぎてシートから跳ね返えりかけるが、両足がバイクをがっちり掴んだ。その小さな腰には、巨大な武器を格納したホルダーが覗いている。

 ユウキがバイクを起動させた。

 充電スタンドから自由になったバイクのコンソールに、アクティブセーフティ関連のタスク群が立ち上がる。二輪が強制的に安定した。

 最後にユウキがヘルメットを手に取ると――僅かな葛藤ののち、フードを跳ね上げた。

 美のオーラがふわりと広がる。

 輝きながら流れる髪はピンクブロンド、見開かれた瞳はウィスタリア。小さな溜息が、あどけなさを残す艶やかな形良い唇から漏れる。

 ――七瀬結城は美少女であった。

 それも好みや文化で評価がバラつくような片寄った美しさではない。

 ただし色彩を覗けば、だが。

 周辺の群衆からさっきとは違った反応が起こった。様々な反応が。

『なんだ、汚染者か……』

 聞こえるように履き捨てて離れる者もいれば、反対に欲望を垂れ流しながら近づこうとする者もいる。

 ユウキからすれば、どちらも好きになれる要素がない。

 ――だから周囲をシャットアウトするようにヘルメットを被り、ジャケットに髪を仕舞った。

 ヘルメットバイザーのARが視界を一気に広げる。この瞬間が密かに好きだった。

「スワンリッター、電池もったいないからこの辺からこの辺まで切っていいよ」

 コンソールを一瞥したユウキが、指でちゃっちゃとタスクバナーをスワイプする。画面がすっきりするが、スワンリッターはその場で安定したままだ。

 ユウキがバイクを素早く正確に制御できるようになってからかなりたつ。

「爆発は……サウスエンドの二区、三十二番街のあたりかな。

 ターゲットは超大型キマイラが一体って話だったけど、これで本当に一体なら先月並の大物なんだろうな。

 伯父さん、無事でいてよー!」

 ユウキが超電動バイク特有の機動であるバックで充電スタンドを離れ、バイクをメインストリートへ移動させる。

 そのままライトを点灯させ、スワンリッターのアクセルを開いた。

 カタチの良いお尻を高く上げる派手な荷重移動ポーズに野次馬たちの目が釘付けとなったが、既にユウキの眼中にはない。

 フルパワーなら四百キロ以上、最大出力は軽く三百馬力を越えるモンスターバイクが、美少女を乗せたまま野獣のように走り出した。

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