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第4話《3》

「先程も申し上げましたが、人ならば人です。

 ただ法的に独立した誰かというだけで。

 ですので……お二人とも新しい立場を得たくはないですか?」

 テッセがニコニコしながら提案してくる。

「脅しにしか聞こえないんだがな」

「クロムドームの法に則り、お二人の自由意志を尊重いたします。

 大丈夫です、悪い話ではないですよ」

 大きな胸を張るテッセを一端放置し、センリがユウキに自分の酒を飲ませた。

 少し嫌がるが有無は言わせない。

 軽く飲み込んだユウキが少し咳き込むが、その目に少しだけ生気が戻った。

「お酒って、不味いね……」

「ユウキ、安心しろ。

 お前はオレの唯一の肉親で、可愛い甥っ子だ。

 何があろうとも変わらん」

「うん……伯父さん」

 ユウキがセンリから身を起こした。だがまだ少しフラフラしてる。

「さて……アンティリーズさん?」

「テッセで結構です。そちらはセンリと呼んでも?」

「いいよ、ユウキもユウキでいい。

 改めてだが、オレたちは自分たちが誰か知りたいと考えている。可能ならこの身体を調べてもらえないか?

 新しい地位の件も頼みたい。

 手土産代わりに、今日クロムドーム人ぽいのに襲われた際のログを提出する。

 他に何か聞きたいことがあればどうぞ。

 スリーサイズが知りたければ勝手に計ってくれ、嫌がらないから。ただしユウキへのセクハラは許さん」

「お食事が不味くなるかと思って控えておりましたが、こちらに見覚えは?」

 テッセがバッグから厚紙のシートを取り出した。

 紙のシートに化学反応で光を定着させるタイプの写真だ。しかも白黒。

 写真には美術品のようなオブジェが写っていた。

「欠けた女神像……どこかの神殿?」

「顔の造形だけ見ればオレとユウキによく似てるが、見覚えはないな。

 素性を聞いても?」

「《リヒトブロック》という組織のシンボルです。

 発見されたのはセラムファイブ、五つ目に発見された異世界の地球です。

 この印画写真は現地警察によって撮られたものですが、ご存じは?」

「ない。そもそも、このセカイから転移したこともない」

 センリの言葉にユウキも頷く。表情から嘘を言っていないことを感じ取ったテッセが考え込んだ。

 間が空いた隙にウェイターが次の皿を運んでくる。肉料理の前のソルベだ。

 テッセが喜んで口を付ける。横でユウキも大雑把に食べ始めた。次に肉料理が控えているという認識はないらしい。

 しばらく甘みを味わった後てテッセが説明を再開した。

「――リヒトブロックは次元犯罪組織です。

 多くのジーリライト事件に関与していると言われています。

 創設者はシド・フィーダー」

「そのジーリライトって何なの?

 名前はたまに聞くんだけど」

 ユウキの言葉にテッセがちょっとびっくりしたように固まる。

「クロムドームの文明を支える重要な疑似物質です。

 えーと、転移エンジンのコアとか、私の《服》とか……

 言い添えておきますと、次元管理局はこのジーリライトを管理する組織として生まれました。

 警察組織にして準軍事組織です」

「近そうなのはコーストガードあたりかね。

 それで、他に聞きたいことは?」

「――うん、ならば単刀直入に。

 サカエセンリさん、ナナセユウキさん、我々の仲間になりませんか?

 次元管理局セラム114支局、つまり()()の拠点がやっと立ち上がることになりまして、現在リクルート活動を行っています。

 管理局はセラムから現地協力者を募るのが決まりなんです。

 人選は本来私の役目ではないのですが……お二人にはピーンと来ました!

 もちろん選ぶのはお二人ですけど。

 ああ、パークジェットのトレードは如何します?」

「本当はトレードなんてする気ないだろ。

 あの時点ではオレたちがロボットか人か区別つかなかったから、適当に誤魔化しただけじゃないのか」

「半分当たりです。

 込み入った事情を知って動揺しておりましたので」

「あまり人に聞かせたい話ではなかったんだけど……」

「素っ裸も含めてな」

「も、もも、申し訳ありません!

 それについては申し開きのしようもありません」

 テッセが再び頭を下げた。センリとユウキが素直に謝罪を受る。

 ――センリが後ろへ軽く目配せした。

 ギャルソンが気配を察し、肉料理の配膳を始めてくれる。

 魚の次に肉が出てきたせいでユウキが驚いたようだが、喜んで食べ始める。

 テッセはセンリをチラチラみるが、本人は動じずに食事を続ける。単純にセンリ好みの味だったのもある。

 そのまましばらく食事が続いた。

 デザートを堪能し、小菓子とコーヒーで一息ついたところで、テッセが恐る恐るセンリに声を掛けた。

「センリ……それで、ご返答は」

「――では改めて取り引きだ。

 単刀直入にいう、オレたちを幾らで買う?」


        *


 夜半を過ぎる頃、イースに再び霧が立ち込め初めた。

 サウスエンドの全域が白と黒のグラデーションに覆われる頃、年代や様式、用途がモザイクするビル街に音もなく黒塗りのリムジンが滑り込む。

「奴は?」

 両腕が復活した黒服が降り立つ。影に溶け込む少女のシルエットが続いた。

「奴がいるのはあそこの冷凍倉庫だ」

「ここ全部が奴のラボなら羽振りがいい話だな。

 盗んだのは遺産だけじゃなかったのか?」

「遺産だけだ。

 それだけで神にもなれるさ。特にここでは。

 ――ま、オレたちもだが」

 白がニヤリと笑う。黒も面白いことを思いついたようにニヤニヤと笑い始めた。

「なら、これから始まるのは神々の戦いってことだ。

 名前がいるぜ。

 そうさな……ベロボーグなんてのはどうだ?

 白き善神!」

 黒が期待の目で白を見る。

 僅かに間が空いてから、ふと気付いたように白が眉を寄せた。

「それ、オレのコードネームか?

 別に、本名のジャック・ブレイクでいいぞ」

「オレが黒の悪神(チェルノボーグ)を名乗りたいんだよ、つきあえ!」

「まあ、いいが……

 邪神の名なんて名乗っていいのか?」

「死後の世界には何にもなかったからな、地獄がないならやり放題よ」

 ペルチェの提案にブレイクが背中で肩をすくめた。

 だが伏せた顔には満更でもなさそうな笑みが浮かんでいる。

「好きに呼んでくれ。

 ――ブラキベルマ、先行を頼む」

 ベロボーグの呼び声とともに黒衣の少女がシルエットを開いた。ドレスの背中に折り畳まれていた超薄素材のリガー六脚が展開し、その身を持ち上げる。まるで巨大な蜘蛛だ。

 スパイダーリガーがするりと滑り、糸を射出しながら壁を垂直に疾走してゆく。

「もしもの時は当てにしてるぜ、ベロボーグ?」

 黒の声に白が暗い嗤いを浮かべた。

「いざって時は任せろ……チェルノボーグ。

 切り札(ジョーカー)が管理局だけの物じゃないところを見せてやる」

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