第4話《2》
二人はテッセの案内で感じの良さそうなフレンチレストランに入った。
リザーブ席へと案内される。
「開いたばかり――というか、ここは全部そうですけど。
情報がまったくないので歩いて探しました、楽しかったですよ」
テッセがニコニコ笑う。
確かに気さくで良さそうな店だったのでセンリも緊張をといたが、ユウキは緊張したままだ。
「ユウキ、こういう店は気楽にしていていいよ。
オレたちがまだ普通に暮らしてた頃、たまに連れていった店あるだろ?
ああいうトコだ」
「あそこボクの一ヶ月のお小遣いが一食で吹っ飛ぶお店だったよね、確か」
「ユウキさん、お小遣い貰ってるんですか?」
テッセがちょっと驚いたように話に混じってくる。
「昔の話。今はオレと共同管理だよ」
「お金は伯父さんに任せてる。勝手には使わないよ!」
ユウキがブンブンと首を振ったのが面白かったのかテッセがくすくすと笑う。
そんな会話が打ち解けるキッカケにはなったらしい、ユウキとテッセは他愛もない雑談を始めた。
オーダーは予約の段階でテッセが取っていた。
飲み物だけ聞かれたのでセンリは食前酒、ユウキとテッセはミネラルウォーターを頼んだ。
軽い乾杯の後、センリが食前酒に軽く口を付ける。
アルコールとカシスの香りが強く抜け、つい頬が緩む。
こちらの様子をそれとなく伺っていたテッセもほんの少しだけ肩から力を抜いた。気に入ってもらえるか緊張していたのかも知れない。
「へえ、テッセって日本人なんだ。
ということは、異世界にも日本があるんだ」
「クロムドームも地球ですから、こちらの地球と同じ部分も多い。
生物学的にも同一の種です」
「確か、歴史が長い分だけ科学が発達した地球なんだよね。
なら宇宙基地とかあるの?」
「軌道上、月面、太陽とのラグランジュ、火星、木星軌道に。
私は月で生まれ育ちました」
「凄い! ねえ、月ってどんなところ? 聞かせて!」
ユウキとテッセは話が弾んでいる。
センリは聞き役に徹し、テッセの反応を注意深く探る。
テッセは会話を弾ませつつも、礼儀正しく食事も味わっている。美味しそうに舌鼓を打つ顔が意外と子供っぽい――というか、裏表を感じない。
センリがどう切り出すか考えあぐねていると、ユウキが意図せず爆弾を放り込んだ。
「あの……ひとつ、いい?
君からみてボクたちは何に見えるかな」
その一言にセンリが固まる。
テッセは特に動じることなく、素直に答えた。
「見た目通り、人造人間に見えます。
ただ、随分と法を逸脱してるようにも……」
――センリがユウキの手に自分の手を重ねる方が早かった。
それだけで場を上品な静寂のまま留める。
落ち着いたところでセンリがナイフの先端で軽く皿を叩く。小さく澄んだ音が響いた。
「それは……オレたちが死人か人形って意味でいいのか?
これはお供えかね」
テッセが不思議そうな顔をして首をかしげる。
どうやらセンリが何を言いたいのか理解しかねているようだ。
「いえ、人ならば人です。
私もオルガノイドの血を少し引いていますから、お仲間ですよ。
ただ……」
テッセが言いよどむが、二人分の沈黙が先を促す。
「お二人が哲学的ゾンビである可能性は排除しておりません。
あなた方風に言うならキマイラですね。
こうしてお話ししていても過学習の傾向も見せませんし、恐らく違うとは思うのですが、断言するには医学的チェックが必要です」
「も、物凄いことをズバズバ言われてる……」
「オレは栄衛千里、こっちは七瀬結城。
ユウキもオレも、生まれはこっちの……セラムの日本。いまはイース在住。
作られた目的は天国の親父とお袋、ユウキは蜘蛛糸の姉ちゃんと極楽の義兄が望んだからだ。
それ以外にオレたちの製作に関与した連中は知らない」
センリが一端言葉を切り、ユウキを気遣う。
テッセはおとなしく続きを待った。
「もし製作に関与した奴がいるのなら、知りたいと思う。
違法な手段を執ったのなら法的措置も辞さん」
「法的な部分でしたら、ご協力できるかと思います。
もちろん色々と手続きがありますが」
「転生について知ってることを教えてくれない?
どうやれば戻れるか……知っていたら教えて欲しい」
ユウキの言葉が終わらないうちに音もなく現れた給仕が次の皿を出しに来た。
立ち去るまで、しばし上品な静寂。やがてテッセが口を開いた。
「ふむ……《転生》ですね?
クロムドームでも最先端のライフサイエンスで、専用の人工身体へ魂の鋳型を移植する医療になります。もっとも認可制ですが。
コネクトームの移植は死後にのみに行われます。記憶や人格は継承しても法的には別人ですから、戻ると言われましても……」
「え……死後で別人!?」
ユウキが目を剥いた。
その顔がすーっと白く、蒼くなる。小さな肩がわなわなと震え始めた。
テッセが慌てて自分の口を手で塞ぐ。
「す、すいません、言葉を選ぶべきでした。
お亡くなりになってからです。
――え、と、あれ? そういうことではなく?」
センリがユウキの肩を抱いた。こちらも顔色は最悪だが苦笑いする程度のタフさはある。
「直球で聞いたユウキも悪かったよ。
なあ、オリジナルが死んでるならオレたちは何になる?
ロボットか何かか」




