第3話《3》
イースの五島は橋やトンネルで繋がれているが、ブローアウトによってたまに消えたり位置がズレるため、各島は独立性が高い。
各島の特徴は――あるにはあるが、紹介する意味はない。明日もあるとは限らない。
そんな自動生成ダンジョンのような街を、ごっついSUVが無茶な速度で抜けてゆく。その後ろを、センリをタンデムさせたユウキがバイクで追う。
「あいつら何処に行く気だ?」
「方向だけで言うならイーストアイルへ続くゲートブリッジだけど、サウスアイルにも広い無人地帯があるから――わっ!?」
カーブ目前でSUVが大きくドリフトした。
テールをわざと大きく流し、ユウキたちの進路を塞ごうというのだろう。
「伯父さん、捕まって!」
センリがユウキのお尻を膝でぎゅっと挟むと、ユウキがバイクを無茶苦茶な勢いでドリフトさせた。リアが派手に流れ、グリップを失ってスリップする――寸前に、フェアリング底部のギミックからスラスターが起動した。
ユウキたちのバイク《スワンリッター》の特殊装備の一つ、アンチスリップジェットだ。
数基のスラスターによるジェットスラストでバランスとグリップを取り戻したバイクが、SUVのフロント側へノーズを叩き込む。
――バイクはカーブを余裕ギリギリで抜けた。
抜ける瞬間に何処かからチリッと鋭い音が響いたが、ステアリングを握るユウキの視線は微動だにしない。
開けた道は一直線に続いている。
体勢を立て直したSUVが、バイクのリアに体当たりを噛まそうと加速を開始した。
バイクと車輌が前後とともに攻守を入れ替える。
「伯父さん、こいつら本気で殺しにかかってるね」
「どこの領土か確定してない《都市》とはいえ、ここまで堂々とした連中は珍しいな。
何処の勢力かは知らんが……
取りあえず足を止めておく!」
身体を捻ったセンリがヘルメットを一挙動で引き抜くと後ろへ放り投げた。
瞳に一条の走査光が走り、ヘルメットが加速する。
速度を爆発的に上げたヘルメットがSUVのフロントガラスに命中し、表面を真っ白に砕いた。
「どーだ、中からも見えないだろう!
ヒビが入ったとは言え、フロントガラスはそう簡単に割れないぞ」
「伯父さん!」
「――え?」
バイクが無茶苦茶な急制動をかけた。
リアへの反動でセンリを宙に放り出した瞬間、バイク自身も地面に横たわるぐらいの勢いで大胆にバンクする。
センリとバイクとの間に生まれた隙間――を、フロントグラスを粉砕して飛んできた砲弾が通り過ぎる!
助手席の男が腕を再びオートキャノン化させていた。
外れた砲弾の爆発を背に、ユウキが派手なスラロームで戻ってきたセンリを受け止めた。
「ユウキ、無茶すんなーっ!」
センリは涙目だ。困ったことに物凄く可愛い。
「ごめんなさい、伯父さん!
それよりどこまで反撃する?」
「人殺しはご免被りたいんだが……仕方がないか、降りかかる火の粉だ。
ユウキ、キマイラと同じ対応で行くぜ」
そこへ車がフロントを叩きつけようと加速してくる。
「OK、まずは奴らを引き剥がすよ。
スワンリッター、行け!」
ユウキが緊急発電用のハイドロ・タービンに点火した。
大電力を供給された超電磁エンジンが電子の咆吼を上げ、バイクが弾かれたように加速を開始する。
ユウキたちに逃げられた車が目測を誤って壁を擦った。
盛大な火花を浴びながらも助手席の男がユウキたちを狙おうとするが、狭い車内からでは機敏なバイクをうまく狙えない。
そうしているうちにもユウキ駆るバイクが派手なハングオンで脇道へ消えた。
車内で黒服が舌打ちした。
「――ちょこまかと!
奴らジーリライト反応がある、仮にウオズミと無関係だろうと絶対逃がさねえぜ。
バスアイ、《バードイーター》の名にかけて徹底的に追うぞ」
「おう、なら追い込んで奥の手を使おう。
奴らの足を止めたらソーネードフォームでオレのフォロー頼むぜ、ペルチェ」
「ああ、分かったが……
苗字ならいいが、ファーストネームを口にするのは勘弁してくれよ?
響きが女々しいんで嫌いなんだ」
「女々しいって、そらそうだろうな!
大体お前は……まあいい。
なら仇名でも考えといてくれ、クールなのな」
「仇名か。いいな、それ」
ドライバーと黒服が頷きあうと、SUVがバイクを追って脇道へ突っ込む。
道は島間をつなぐ長い橋へと続いていた。
地形を確認したバスアイの顔に底意地の悪い笑みが浮かぶ。
「連中、この前のブローアウトで生成されたばかりの橋に入りやがったぜ。
あそこは途中で切れてる、袋のネズミだ!」
前方のバイクでは、タンデムした方の少女がお尻を浮かせて先を見ている。
スカートがはためく様子を見ていたドライバーが視界にズームをかけた。
気に食わなかろうと、これから最悪殺すことになろうと、まごうことなき美少女のスカートの中は気になる物だ。
だが何故かめくれ上がらない。
現実はそういうものかと納得したバスアイが運転に戻った。
「そろそろ奥の手を使う、パークジェットくれ」
「あいよ」
助手席の黒服がキャリアーから無銘のパークジェット数枚をドライバーに渡す。
その様子はバイクのリアカメラにも写った。
ユウキの肩越しにモニターを覗き込んだセンリが渋い顔をする。
「後ろの奴ら、なーんかやってやがるな」
「伯父さん、風でハンドル取られるからスカートはためかせないでね」
「それ以前に、人を殺そうとする奴に見せるパンツはねえ。
――で、こっちでいいのか?」
「うん、この先は行き止まり。
この前、充電スポット探してたときにNMセンスでハッキリと感知したから間違いない。
今日は充電もフルだし、行き止まりで仕掛けよう!」




