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プロローグ ―地下実験場―

 地下貯水場を流用した実験場に、赤いアラートコールが鳴り響く。

 灼き焦がすように照らされた実験は――人体実験。

 赤い液体を満たしたサージタンクには、死体をバラバラにつなぎ合わせた冒涜的なオブジェが浮かべられている。

 タンクとコンソールを交互に見ていた男が口元を歪めた。

「ナノマテリアル圧、臨界到達。

 まだスマートスピーカー(ゾンビ)の域を出ないが、異質融合は期待値を上回っている。

 プライマルNM生成に限れば完璧だ。

 はは、クロムドーム本国でもこんな安価での大量生成は不可能だろう。

 なんと素晴らしいのだ……この《遺産》という奴は!」

『ARH――OH……HAR』

 歓喜の叫びがスキャットで遮られる。骸の塊がごそりと動いた。

 硬直していた筈の目が一斉に見開かれ、口が歪む。縫い付けられていた全身が不気味な痙攣を始めた。

 うち一体が――あるいは一部が、コンソールにいた男へ両手を伸ばす。

 若い女性らしい。若い女性だった、か。

『ここは、どこ……?』

地球(セラム114)の南太平洋に浮かぶ浮上都市イース、そのどこかさ」

『助けて、苦しい……』

「NMが君たちの身体と《都市》を融合さているせいだ。

 苦痛を緩和するように調整してやりたいが、生憎替えのズボンがなくてね」

『く――るし――』

 死体の腕が唐突にねじくれた。

 赤い水面がゴボゴボと泡立ち、幾何学が狂ったような光る図形が水面と怪物の表面で踊り、解け、崩れ、流れ――死体たちが人工臓器と融合してゆく。

 本来望まれていたのは、ナノテクを駆使した超高々度サイボーグなのだろう。

 超分子アセンブラーによる生体と機械の完全なる合一、融合。

 だが、悪夢のようなボディは伝説の魔獣キマイラと呼ぶのが相応しい。

『U……OH――

 ウ……オズミィ……貴様ぁ、裏切りやがったなぁ……』

 タンクの底から歪な巨人が立ち上がった。

 その目にはNMの再構成で生まれた電子の輝きが混じっている。

『オレ――わたし――僕――を、NM汚染者にしやがって!』

「いいや、君たちは汚染者ではない」

 それがウオズミと呼ばれた男の声だと認識した怪物の動きが一瞬止まる。

「君たちは単なる死体だよ。

 こちら風に言うならば《キマイラ》、生体と機械の異質融合体には相応しい名だな。

 もっとも、君たちその中でも特別製だがね?

 せいぜい暴れて、クロムドーム本国からの追っ手を飲み込んでくれると有り難い」

 素っ気なく呟いたウオズミが、脇にあった小さな非常口に素早く潜り込む。

 無人となったコンソールでタイマーが時を刻みはじめた。

『待て――UOH――ZUU――MIIH!』

 ウオズミを追おうとしたキマイラの周囲で、実験機材のタンクが次々に爆発した。

 施設中に飛び散った赤い液体が激しく明滅を始める。

 キマイラの巨体も痙攣を始めた。走査光が縦横し、全身のディティールが複雑化してゆく。

 外殻だけでなく内部でも融合が始まったのだろう。肉体と共に知性も融合したのか、センサーと融合し目が狂気と混沌に濁る。

『OH――AAARH!」

 燃えさかる地下施設の中でキマイラが暴れ回る。

 実験場正面にあったメインゲートの分厚い扉が吹き飛び、地上への道が開いた。

 無人の廃ビルから地上へ躍り出たキマイラが咆哮を上げる。

 昼から夜へと変わりつつある赤い空に、絶叫が何重にも反響していった。

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