表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祖父の死  作者: 松明ノ音
6/6


 誰に会ったとは言えないと思いながら、火葬場に着いた。

 火葬を待っている間は、従兄弟のみんなと話した。十五人が集まって話しては離れ、離れては集まって話していると、すぐに二時間は経ってしまった。

 金のピアスは、そのまま燃やすと聞いていた。葬儀の棺の中でも、祖父は左耳にピアスを付けたままだった。

 子どもの頃から何度か、あのピアスをせがんだことがあった。

「駄目だ。これ高いんだぞ」

 子どもの頃には、そういう返事が返ってきたと思う。俺が大学生になってからせがんだ時は、

「あの世まで持っていく」

と言われた。

 俺がいる時に、従兄弟の誰かがせがんでいるのを聞いたこともあった。あのピアスをちょうだいと言ったことが無い孫は、実はいないのかもしれない。もしかしたら、父でさえねだったことがあるかもしれない。

 それくらい、何故かあのピアスは魅力的だった。

 祖父にとってあのピアスは、何だったのだろうか。片方をどこかの誰かが持っているのか、おばあちゃんを大事にすると、誓いを立てたものだったのか。ただ気に入っていただけ、なんてことも、ありそうだった。

 もう今は、その答えを誰も知らなかった。

 火葬場で孫は全員、わんわんと声を上げて泣いていた。俺も、洪太も。親類だけのこの場では、もう取り繕う必要もなかった。

 叔父さんたちはさすがに声を上げなかったけれど、叔母さんの中には、泣き声が小さく抑えられなくなる人もいた。父は、何となく見れなかったから、知らない。

 骨上げでお骨を拾った。金のピアスは形を変えて、平たい何かになっていた。その金色の何かは、おばあちゃんが拾った。そのまま骨壺に入れるようだ。

 祖父の意外に太かった腕も、厚かった胸も、今はもう燃えてしまった。中学生になってからも、相撲を取ってみてもよかったかな、なんてことを、今更考えた。案外、おじいちゃんは意地にならず、笑って僕の成長を喜んでくれたかもしれない。

 そんなことを考えると、また、僕の喉は震えた。声を上げそうになったが、何とかこらえた。涙は、抑えられそうになかった。


 実家に帰るとおばあちゃんから、おじいちゃんの書斎に一人ずつ来るように言われた。

 何をするのかと思ったが、隆一叔父さんから順番に居間に戻ってきても、聞かなかった。今は、待つことが、今を楽しむことと思えたからだ。

 書斎に入ってから、おばあちゃんから一冊のノートを渡された。

 そのノートには、僕が書斎でおじいちゃんと話したことの内容が、毎回詳細に書かれていた。ノートを線で区切って、僕に薦めた本や読ませてみたい本も書かれていた。

 また、涙が流れ出した。とめどがなかったが、声は、何とか押し殺した。

「おばあちゃん」

 何? と訊くおばあちゃんに、今日はお粥が食べたいと、震える声で伝えた。

 おばあちゃんは笑って、ええ、と言ってくれた。

 今日は、酒を飲むときの塩の濃いお粥じゃなく、子どもの頃いつも食べていた、優しい味のお粥が食べたい。そう、思った。


                                        終わり

 読んで頂き、ありがとうございます。

 感想、レビュー、評価で作者がアへ顔さらして嬉ションします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ