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誰に会ったとは言えないと思いながら、火葬場に着いた。
火葬を待っている間は、従兄弟のみんなと話した。十五人が集まって話しては離れ、離れては集まって話していると、すぐに二時間は経ってしまった。
金のピアスは、そのまま燃やすと聞いていた。葬儀の棺の中でも、祖父は左耳にピアスを付けたままだった。
子どもの頃から何度か、あのピアスをせがんだことがあった。
「駄目だ。これ高いんだぞ」
子どもの頃には、そういう返事が返ってきたと思う。俺が大学生になってからせがんだ時は、
「あの世まで持っていく」
と言われた。
俺がいる時に、従兄弟の誰かがせがんでいるのを聞いたこともあった。あのピアスをちょうだいと言ったことが無い孫は、実はいないのかもしれない。もしかしたら、父でさえねだったことがあるかもしれない。
それくらい、何故かあのピアスは魅力的だった。
祖父にとってあのピアスは、何だったのだろうか。片方をどこかの誰かが持っているのか、おばあちゃんを大事にすると、誓いを立てたものだったのか。ただ気に入っていただけ、なんてことも、ありそうだった。
もう今は、その答えを誰も知らなかった。
火葬場で孫は全員、わんわんと声を上げて泣いていた。俺も、洪太も。親類だけのこの場では、もう取り繕う必要もなかった。
叔父さんたちはさすがに声を上げなかったけれど、叔母さんの中には、泣き声が小さく抑えられなくなる人もいた。父は、何となく見れなかったから、知らない。
骨上げでお骨を拾った。金のピアスは形を変えて、平たい何かになっていた。その金色の何かは、おばあちゃんが拾った。そのまま骨壺に入れるようだ。
祖父の意外に太かった腕も、厚かった胸も、今はもう燃えてしまった。中学生になってからも、相撲を取ってみてもよかったかな、なんてことを、今更考えた。案外、おじいちゃんは意地にならず、笑って僕の成長を喜んでくれたかもしれない。
そんなことを考えると、また、僕の喉は震えた。声を上げそうになったが、何とかこらえた。涙は、抑えられそうになかった。
実家に帰るとおばあちゃんから、おじいちゃんの書斎に一人ずつ来るように言われた。
何をするのかと思ったが、隆一叔父さんから順番に居間に戻ってきても、聞かなかった。今は、待つことが、今を楽しむことと思えたからだ。
書斎に入ってから、おばあちゃんから一冊のノートを渡された。
そのノートには、僕が書斎でおじいちゃんと話したことの内容が、毎回詳細に書かれていた。ノートを線で区切って、僕に薦めた本や読ませてみたい本も書かれていた。
また、涙が流れ出した。とめどがなかったが、声は、何とか押し殺した。
「おばあちゃん」
何? と訊くおばあちゃんに、今日はお粥が食べたいと、震える声で伝えた。
おばあちゃんは笑って、ええ、と言ってくれた。
今日は、酒を飲むときの塩の濃いお粥じゃなく、子どもの頃いつも食べていた、優しい味のお粥が食べたい。そう、思った。
終わり
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