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祖父の死  作者: 松明ノ音
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 入院してから、祖父はまた痩せた。

 煙草を吸えないことに愚痴をこぼしながらも、本を読んで他の入院患者と話し、看護婦の尻を撫で、楽しそうにしていた。

 おばあちゃんは、毎日見舞いに行っていたようだ。

 入院した時とお盆と正月、祖父の見舞いに行った。その時も祖父は、

「今を楽しめ。今のお前にしか楽しめないことが、今のお前にはある」

という言葉を忘れなかった。

 癌患者の祖父がこう言うのだ。

 中学生の頃、悲しいことを祖父に話したことがあった。悲しいことは、悲しんでいいのだと言われた。

 思いっきり泣けばいいし、叫んでもいいのだと。それが、悲しむことを楽しむことだ、と。

 言われたように、泣いて叫んだ。気分がすっきりすることもあれば、もっと落ち込むこともあった。それでも、心は幾ばくか晴れたのだ。

 それで、悲しむことを楽しむこと、乗り越えることを楽しむことを、何となくわかった気がする。

 正月、知らない一家と病室の入り口ですれ違った。

 後から聞けば、それは父たちと腹違いの兄一家だったそうだ。

 彼らと祖父には、養育費などの関係もあった。だから祖父が稼いだ金ほど、うちの家には資産はないのだ。

 祖父は、おばあちゃんと知り合ってからは、女をつくっていないという。自己申告でしかないから、真実はわからないけれど。

 でも父によると、確かに腹違いの兄と姉は、長男の隆一叔父さんよりも、みな年上だったらしい。

 顔も知らない叔父と叔母は、すでに亡くなった人を除いて全員来たらしい。そこに納得があるのであれば、別に、祖父がしてきた無責任も、少しは許されていいんじゃないかと思った。

 俺が祖父を好きであるからそう思うわけで、他の人は、そうは思ってくれないかもしれないけど。



 告別式が、続いている。

 喪主は長男の、隆一叔父さんだった。

 明るく面白く、魅力のある人なので、きっといい弔辞をしているのだろう。でも、今の俺の耳には、あまり入ってこなかった。

 祖父のことを考えながら、ぼぅっと、会場の人たちを見ていた。

 病院ですれ違った家族も見えた。父や叔父、叔母に似ている人を見つけては、叔父や叔母かもしれないと思った。

 よく実家に来ていた、お客さんの姿も見えた。昔、祖父と喧嘩したと懐かしそうに言っていた飲み友だちも、何人も来てくれていた。

 焼香の際に近くで見て、はっきりとどんな誰かを思い出して、それでも長くは話せなくて。そんな葬儀特有の雰囲気が、続く。


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