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4(悪役令嬢:前世2)

ごめんなさい、前回書くの忘れてたのですが主人公の日本人のときの名前は、鷹田咲良(たかださら)です。

 三年になったとき、愛由美ちゃんとはクラスが離れたが嶋田くんとは同じクラスになり、異常に彼が喜んでいたことを覚えている。


 それからのある日、大学受験に向けて嶋田くんと学校の教室に二人で勉強しているとき、私にとっての大きな事件があった。


「…鷹田さんはどこの大学目指すんだっけ?」


「そうねぇ…それなりに学力の高い国公立の教育学部のあるところ、としか考えていないわ」


「じゃあ俺とは全然違う大学に行きそうだー」


「嶋田くんはどこを目指しているの?」


「うーん…それなりの学力のところ。まあでも俺にとってのそれなりは、鷹田さんよりずっと低いけど」


 ハハッと笑いながら、机に突っ伏す彼。その表情が少し悲しそうに見えて、今こそ私が力になれるときなのでは、と話しかける。


「嶋田くん、私で良ければ相談にのるわ。何か悩んでいることがあるなら言って?」


「……じゃあさ、鷹田さん。俺と付き合ってよ。俺は鷹田さんが好きなんだ。だから、恋人になって」


 てっきり大学受験に関することだと思っていた私は、何も言えずに固まってしまう。

 何か言わなければと頭ではわかっているのに、驚きで声が出ない。


「あー…ごめん。受験前に言うことじゃなかった。忘れて?」


 勉強しよう、と言う彼の表情は先程よりももっと悲しそうに見えて、私は言葉を発した


「ち、違うの嶋田くん。…気持ちは嬉しいの。恋愛どころか、人としてもあまり好かれたことのなかった私を好きだって言ってくれて…でも、私恋愛とかわからないし経験ないから、どうすればいいのかわからなくって…」


 えーっと、その、などと言いながら話す私に、彼は優しく微笑む。


「…だったら、引かない。たとえ鷹田さんが俺のことを好きじゃなくっても、付き合っていれば好きになることだってあるかもしれない。俺はその可能性にかけたい。というか、そうさせる」


「だからね、鷹田さん。俺と付き合おう」


 私の目から、意味も分からずに涙が溢れる。

 私が黙って頷けば、彼は今までの中で一番、嬉しそうな笑顔になった。



 それからさらに数年経っても私たちは別れず、大学を卒業し就職した後に、同棲を始めた。

 就職先は彼は家具に関する企業へ、私はホテルの受付嬢へとなっていた。


 そしてある日、私は久しぶりに愛由美ちゃんと会うことになった。


「久しぶり、愛由美ちゃん」


「久しぶりー、さら」


 駅前のカフェで待ち合わせをしていたために、予定通りの時間にそこへ向かえば、彼女はすでに店内の席へ座っていた。

 間食の時間には遅く夕食の時間にしては早い時間帯のため、店内に人はほとんどおらず、店内は真っ白な壁と木製の柱、所々に掛けられている絵画くらいだったために静かな空間に感じた。

 私が席に着きアールグレイを頼むと、彼女は早速話し始めた。


 就職先の現状や上司などの社員との愚痴、最近始めたダイエット話など色々なことを話してくれていたので、私は高校の時と変わらず聞き手にまわっていた。

 すると彼女の話の中に懐かしい単語が聞こえたので、私はすぐに反応した。


「『キャチプリ』なんて久しぶりに聞いたわ。まだやってたのね」


「咲良覚えてたんだ。

まだやってたっていうか、高校の間に全部クリアし終えてたし、大学に入ってからは他のゲームやってたから、ついこの間まではやってなかったんだ。

でもこの間、夏のイベントで仲良くなった子とそれの話で盛りがってさぁ、久しぶりにやり直してたんだよねー」


 『キャチプリ』とは彼女が高校時代に100回以上は聞いたであろう単語で、『Catch the prince!!~自分だけの王子を捕まえろ‼︎~』という題名の乙女ゲームというものらしい。

 私はそのゲーム以前に、ゲームやアニメや漫画というものの経験がないためよく分からないが、彼女はその題名のことを「くそだせえ」と言っていた。「でも題名の割にはめちゃくちゃ面白い」とも。


 私は彼女の話を聞き、高校のときに話を聞きながら感じていたことについて話した。


「そういえば私、愛由美ちゃんがそのゲームの中で一番好きだったキャラクターのルート?の話を聞いてたとき、ずっと不思議な感覚がしてたの」


「あー、レヴォン王子だね。その不思議な感覚?はどんな感じだった?」


 うーんと唸りながらその時の感覚を思い出すと、途切れながらも話す。


「えーっと…その話を聞いてたら、知ってるというよりは、自分が体験したことある、ような…少なくとも、聞いたことがあるわけではなくて、自分の目で見て、自分の身体で体感した…?みたいな…」


「なんじゃそりゃー。すごい変な感覚だねぇ」


「そうなの。それにねーーううん、やっぱ何でもないわ」


「そこまで言われたら逆に気になるー」


「…ただの勘違いだっただけだから気にしないで」


『さっきそのゲームの話を聞いた時も高校の時とは違うけど、なんだかすごく嫌な予感がしたの。胸がもやもやする感じ。』


 そう言おうとして、結局何も言わなかった。

 言ってしまえば、本当に何か悪いことが起きる気がして。


 胸をもやつかせたままでいると、彼女があ!と声を上げた。


「そういえばね、そのイベントで仲良くなった子も同じようなこと言ってたはず…その子も一緒でレヴォン王子が一番好きな子なんだけど、『レヴォン王子ルート何回もやってる間、いつもこの情景を生で見たことあるような気がしてる』って。

あの子ならただゲームのやり過ぎで夢に出てきただけっていう可能性もなくはないけどね」




 それからも一時間程会話し、次に会う約束をしてから解散した。

 嫌な予感が消えぬまま家へ帰宅すると、彼はまだ帰って来ていなかった。

 彼を見て何も心配はないと思いたかったのだがいないのなら仕方がない、と荷物を置いて着替える。

 何をしようかと考えたところで、何もしていないと胸がもやもやして気持ち悪いので気を紛らわせるためにも夕食を作ることにした。


 嫌な予感のことを思い出さぬよう鼻歌を歌いながら料理をしていると、扉の開く音が聞こえ、彼が帰って来た。


「ただいまー」


「おかえりなさい。会社お疲れ様」


 彼が食卓へ来て椅子に座ったところでタイミングよく料理を作り終えたので、作っていた料理を皿に分け、机の上に置く。


「あれ、今日シチューなんだ?」


「そう。今日会社に行く前嫌そうな顔してたから、きっと疲れて帰ってくるだろうなーと思って」


 ふふっと笑いながら言えば、彼は私の腰に腕を回すとぎゅっと抱きしめる。

 シチューは彼の大好物だ。朝に彼のやつれた顔を見たときに、今日の夕食はこれだな、と決めていたのだった。


 しばらく私のお腹辺りに顔を埋めていた彼が、声をかけてきた。


「…咲良はさあ、俺のこと好き?」


「ふぇっ⁉︎……なんで急にそんなこと」


 突然の質問に驚き、変な声を上げ質問を返せば、彼は顔を埋めたまま話続ける。


「態度で示してくれてたけど、言葉で言ってもらったこと、一度もない」


 そうだったかな、と付き合ってからのことを思い返していると、たしかに言った記憶は全くない。

 態度では示していたので、その言葉を言っていたつもりだったのだ。


「わかってるなら、言わなくてもいいじゃない」


「言葉にしてくれなきゃ、不安になる」


 腰にまわしている腕の力が強まり、締め付けられる。


 『好き』だと、たった二文字を言えばいいだけだとはわかっていても、恥ずかしさが勝ってしまいなかなか声が出ない。

 私は意を決すると深呼吸をし、その二文字の言葉を口にした。


「……………す、き……です」


 あまりの恥ずかしさに視線を上に向けながら言う。顔がとても熱い。

 彼はよく好意を口に出して言ってくれているのだが、もしかしたら思っていたよりメンタルが強い方なのかもしれない。


 彼は私の腰にまわしていた腕を離すと、立ち上がって私の目の前に立つ。

 先程からの恥ずかしさが未だ消えていない私が視線を彼のいない方へ向ければ、彼は私の唇を彼のそれで塞いだ。

 実際はきっと3秒くらいのことだったはずだが、体感では一分以上塞がれていた気分だった。


 彼は私の顔から離れると、にっこり微笑んだ。


「俺も好きだよ、咲良」


「~~~っ‼︎」


 付き合ってから何度も言われた『好き』の二文字。自分で言った後だからこそ、いつもより重みがあり、すごく恥ずかしく感じた。


「…だから、まだ収入が安定してなくて今は無理だけど……俺と結婚してくれないか?」


 一瞬、自分が息をしているのかどうかもわからなくなった。ただ彼を見つめることしかできなかった。


「俺は、結婚するならもう咲良以外考えられない。絶対それ以外の人とは考えられないんだ」


 何か言わなくては、そう考えるよりも先に私の口は動いていた。


「…はい」


『私も、いつのまにかあなた以外考えられなくなってしまっていたみたい』

 それは言葉にならず、涙となって頬を伝って流れていった。


 こうやって彼に嬉し涙を流させられるのは二度目だった。前回は付き合おうと言われたとき。今回は結婚しようと言われたとき。

 彼は私を喜ばせるのが上手のようだ。

 今度は私が彼に腕を伸ばすと、その胸に抱きついた。




 だから、喜びでいっぱいだった私は、悪い予感の存在を忘れてしまっていた。




 彼に変化が訪れたのは、それから三ヶ月後のことだった。


「おかえり祐介。ご飯できてるけど今食べる?」


「あー、ごめん。今日はいらない」


 最初の頃はきっと疲れているのからあんまり反応が良くないのだろう、と思っていた。


 だがそうではない、と感じ始めたのは一ヶ月経ってからのことだった。明らかに、彼は私を避け始めていた。

 夜帰ってくる時間は以前よりずっと遅くなり、昼食のお弁当も時間がないからと言って受け取らなくなり、キスやハグどころか、手を繋ぐことさえなくなっていた。


 何か気に触ることをしてしまったのだろうか。だとしたら直接聞かなければ、と彼に聞いても

「前と変わらないよ。前はちょっとスキンシップが激しすぎたかと思って減らしただけだ」

と返されたが、そうではないことくらいはわかった。


 だがその真実は、すぐにわかることとなった。

 数日後、服を買いに出かけていたときに、彼の姿を見つけた。外で偶然会うのなんて珍しいなと思いながら、彼を驚かしてやろうと近づいていくと、誰かと話していることに気がついた。

 私は前へ進めていた歩を止めると、その場に立ち止まった。人々の行き交いで2人の姿が上手く見えない。

 人が一瞬誰も通らず、2人の姿がよく見えた瞬間があった。


 誰だろうとその姿を見れば、見たことのない可愛らしい女性だった。

 彼女と話す彼の表情は、おかしくなる前の、私へ向ける視線とよく似ていた。


"ああ、またあなたはあの子を選ぶのね。"


 自分がそう言ったのかよく分からないが、頭に浮かんだのはその言葉で、その先に私が何をしていたのか覚えていない。




 次の日、彼から「別れよう」と告げられた。

 その言葉が頭の中で何度も繰り返されていて、私はなんと返事をしたのか覚えていない。


 どうして。その言葉が何度も私の頭の中で駆け巡った。



 気がつけば私は刃物を手に持ち、彼は私の元に倒れていた。



 なぜ彼は倒れているの?


 ああそうか。私がこれで刺したのか。



 私が手に持っていた刃物には、ねっとりとした赤黒い液体がついていた。

 そして、何も考えぬまま私はその刃物の先を私に向けて、突き刺した。



 ほら、あなたはまた、あの子に出会ってから最後まで、私を見てくれなかったでしょう?

読んでくださり、ありがとうございます‼︎

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