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「シェーヌ様、シュゼットという名の令嬢を放っておかれても良いのですか?」


「またレヴォン殿下とお話しされているようですわ、距離も近すぎです。あの方、ご自分の立場をわきまえていないようですの」



 昼食中、いつも私と一緒に昼食をとるベリンダ伯爵令嬢が男爵令嬢の姿を少し離れた場所に見つけ、不快だという表情で私に話しかけると、その話を彼女の隣の席で聞き何度も頷きながら話し始めたのは、同じく一緒に昼食をとるブリアナ侯爵令嬢。

 彼女たちは私が学園に入学しすぐに仲良くなった大切なご学友だ。彼女たちはシュゼットが殿下とお話しをされている姿を見かけるたびに、心配だ、彼女が不快だという表情で私に報告をしてくれる。私は彼女たちが私を心配してくれていることに感謝をしつつ、いつも話を聞いていた。


「あまり良い気はしませんが、気にしないようにはしておりますの。お二人も、あまり気になさらないで」


「良い気がしないのであればもう一度ご注意をなされては?」


 ベリンダとブリアナは私の応えに不思議そうな表情をする。きっと、今までならシュゼットの話を聞くと怒っていたのに、突然『気にしないようにしている』と言ったためだろう。するとブリアナが私に提案をだした。

 私は彼女の提案を聞き、先日シュゼットに注意をしに行ったときに何があったのかを、ショックで話せなかったことを思い出す。数日経っているためにさすがに話せないことはないが、悲しさは残っている。


「ごめんなさい、シュゼット様に注意をした時の話をまだ話せておりませんでした。

あの時、私たちが話をしている間にレヴォン様がやって来られて、彼の方から話しかけているというようなことを仰られていましたの。私、その時言い返すこともできなかったのです。

彼から話しかけているのなら、私に言えることは何もないと思っているので、気にしないようにしておりました」


「そうでしたの…」


 私は手元に置かれたカップに意識を向け、なるべくあの日のことを思い出さないように、彼ら話しているであろう場所に目を向けないようにした。

 ベリンダは少し悲しそうな声で一言発すると黙り込んでしまった。空気を重くしてしまったようで申し訳なく思い、話題を変えようと彼女たちの方へ視線をあげると、私が話し始めるより先にブリアナが口を開いた。


「……シェーヌ様らしく、ありませんわね」


 その発言に驚きそちらへ目を向ければ、彼女の深い紫の瞳が、私の目を捉えていた。


「らしくない、ですか?」


「はい。…シェーヌ様がとても深く殿下を愛されていることを、私たちはよく理解しております。貴方意外の女性が殿下と話している姿を見るといつも気を悪くされていることも、その女性たちをきつく睨み怒っていたことも、知っております。

殿下が同じ女性と何度も話をされているということをよく耳に挟むようになった時には、彼女を殺してしまうのではないかと思うほどに腹を立てておられるようでした。

そんな貴方が、一度話しかけていたのは殿下の方だったと聞いただけで、あっさり引き下がるように私には思えません」


 彼女は私の目から視線を外さずにそう言い切り、確かにそうだと納得した。

 なぜ今まで気づかなかったのだろう、自分のことだからだろうか。でも確かに、レヴォン様に直接否定されてしまったことは悲しかったけれど、それだけであっさり引き下がるような人ではないのだ、私は。きっとレヴォン様に庇ってもらえたことを許せず、なんらかの行動に出ていただろう。

 だが今の私はそのことを許せてはいないが、何かをしようとは思わなかった。彼らがよくお話しをされていると聞いても気にしないようにしていた。まるで、私のレヴォン様に対する気持ちを否定するようにーーー


「……ブリアナ様の言う通りですわ。どうやら私は、レヴォン様に対する気持ちを否定するように、彼らのことを気にしないようにしていたようです。今ごろシュゼット様のもとへ行き、なんらかの行動をとっていてもおかしくはないのに…」


「殿下に対する気持ちを否定するように、ですか?」


「はい。認めたくない、という風に」


 ベリンダの問いに応えれば、2人はほう、と不思議そうなよくわからないという風な反応をする。自分でもわかっていないのだから、わかるわけもないのだが。


「それを自覚した今は、どうお思いになっているのですか?」


「……特に変わりはありません。彼らの姿をなるべく見たくないと思いますし、たとえその姿をお見かけしても無視をするでしょう」


 ブリアナから聞かれ、あまり考えたくはなかったが少し離れた場所で話しているであろう姿を見ることはさらに避けたいことであるため、2人が話している姿を目を閉じて思い浮かべる。

 胸がモヤモヤして、痛くて、気持ちが悪かった。彼らの元へ今すぐに駆けつけレヴォン様の腕を取って、彼は私の婚約者なのだと言い彼女のもとから去ってしまいたい、と思った。でもそのあと、それをしてしまってはいけない。無視をしなければ、という考えが思い浮かぶ。頭は怒りでいっぱいのはずなのに、その考えは自然と、今までもそう考えてきた癖のように思い浮かんだのだ。

 想像しただけでも嫉妬と怒りで狂いそうになっているとは重症だな、と思いながら目を開き、私は今考えていたことを結果だけ応えた。


「まあ、この話はもう終わりましょうか。気にするほどのことでもございませんから」


「シェーヌ様がそう言うのであれば…」


 彼女たちは少し戸惑った表情を浮かべたが、私が笑顔を浮かべたことで同じように微笑み頷いた。

 私は少し手を洗いに行ってまいります、と言い席から立ち上がりお手洗いのある方へ振り返る。その拍子に、見たくもなかったために今まで逸らし続けていた方向に視線が移ってしまった。

 その場には、ベリンダが話していた2人の姿は見えず、すでに私の愛しい方の姿は居なくなって彼女がただ一人ベンチで昼食をとっていた。


 胸がざわりと騒ついた。その瞬間に先ほどまで何を話していたのか、何を考えていたのかも忘れ怒りが込み上げてきた。また、レヴォン様と2人で話をして許せない、と。


「ベリンダ様、ブリアナ様、少し付き合っていただけませんか?私、あの方に何か言わなければ気が済みません」


 私は突然込み上がった怒りを抑えることができず、彼女に忠告をしてやらねばという考えが浮かび上がる。2人の方へ振り返りそのことを伝えれば、彼女たちは少し驚いた表情をしたが、すぐに顔から感情が消えた。


「……ええ、もちろんですわ」


「あの方には、身の程を弁えてもらわねばなりませんもの」


 表情が消えていたのはたった1秒ほどのことで、浮かび上がった表情には怒りがこもっていた。


「ありがとうございます」


 私は彼女たちにお礼を述べると、彼女が座っているもとへと向かって足を進めた。

読んでくださり、ありがとうございます


悪役令嬢+取り巻きvsヒロイン回は省略させていただきます。書いてしまうとまた無駄に長くなってしまうので、すみません。

一応言っておくと、この後は3人がシュゼットのもとへ行って小言?的なことを嫌味ったらしく言って立ち去ります。ゲームの中だったらヒロインは傷ついているでしょうが、このシュゼットはやっぱゲーム通り進んだわね、フッみたいな感じで安心していることでしょう笑

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