表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/46

12

 ヒロインの前世の名前は中西 茜です。説明忘れててすみません。

 あと、今回ヒロインの言ってることの辻褄が合っていないこともあります。が、それはヒロインの頭がやべえ&自分の都合のいいようにしか考えられていないだけなので気にしないでいただけたら…

「シュゼット?」


 執務室の机の前に座っている父は、その手にある私の合格通知を見て興奮し、頬を赤らめたまま私に声をかける。


 合格通知を見ると同時に流れ込んできた記憶は私の中に混ざり込み、溶けた。

 私はそれが完全に溶け込んだのを感じ取ると、「喜びのあまり頭が追いついていないようですので、一度自室に戻らさせていただきます」と言って礼をしてから部屋を出た。



 私は自室に戻るとベットに倒れこむ。すでに没落仕掛けまできている我が家には、このような動作に注意するメイドや侍女もいない。

 私はベットの横の机にしまわれていた手鏡を取り出すと、鏡に映った自分の顔を見た


 やっぱり、私はシュゼットに戻ったのね。


 と、鏡に映る少女の顔を見て思う。

 紫の少し垂れ下がった瞳は庇護欲をそそり、ピンク色の腰まで伸びた髪は散らばっていても艶があり綺麗だとわかる。真っ白な肌に対して唇はさくらんぼのように紅くふっくらしていた。

 前々世では自分の顔に興味もなかったし、他の方の方が綺麗だと思っていたが、前世の知識が入ったために少し客観的に見ることができた。私は美人な顔の持ち主だったようだ。こんな顔をしていれば、そりゃ寄って来る男も少なくなかったのだろう。

 レヴォン様にしか興味がなかったため、他に仲の良かった男性がいたのだが、当時はその方々から好意を寄せられていることに気づいていなかった。今思い出してみれば、彼らの気持ちは丸わかりなのだが。



 彼は、嶋田くんは、レヴォン様と同一人物だわ。


 その理由に根拠はない。ただ彼らのことを思い出すと、彼らは間違いなく同一人物だと断言できた。

 シュゼットが愛したレヴォン様。

 茜が愛した嶋田くん。

 今世でこれから出会うレヴォン様。

 全員が同一人物などという奇跡なんてありえるだろうか。いや、普通ならありえないだろう。


 やっぱり私はレヴォン様の、嶋田くんの運命の相手だったのよ


 そう思った。確信した。

 その考えにさらに自信を持たせた理由は、普通ではありえないことが起きていたということと、この世界が乙女ゲームの中の世界だと気づいたためだった。


 前世の私が一番ハマっていた乙女ゲームのキャチプリ。間違いなくこの世界はそこだと思った。

 前々世で経験した学園に入ってからレヴォン様と婚約するまでの出来事が、"レヴォンルートのハッピーエンド"のときの内容と全く同じ。前世でゲームをしていたときに感じた違和感はこのことだろう。

 前々世で私はレヴォン様と結ばれた。ゲームの中でも私たちは愛し合っていた。何よりも、生まれ変わってなお、私たちは愛し合った。これを運命と呼ばずに、何と呼べばいいのだろうか。


 しかし前々世のとき、何故ある日突然彼が私に対する目が変わってしまった、それは何故なのか。『愛している』と言ってくれなくなったのか。

 答えはきっと、"この世界に強制力が働いていた"から。

 前世ではキャチプリにハマってから色々なものに手を出し、その中に女性向けラノベもあった。当時女性向けラノベでは"悪役令嬢もの"が結構流行っていて、強制力の働く世界の話もあった。

 きっとこの世界もそうなのだ。だから彼は、物語が終わったと同時に私のもとを離れたのだ。そうでなければおかしい。

 そうでなかったら彼が私に飽きたということになってしまうではないか。それは絶対にありえない。だって私たちは運命の相手なのだから。


 でもそれでは、今世もまた彼から本当の意味では愛してもらえなくなる。それでは物語のあとにはまた、彼は私のもとを離れてしまう。それは困るのだ。

 私は愛されたい。前世で彼が愛してくれたように、また、私だけを愛して欲しい。私だけを見てほしい。



 始まりはゲームと同じでいい。

 そこから先は私自身の言葉を選んで、本当の意味で彼と愛し合えればいい。

 強制力なんか使わなくったって、私たちは結ばれる運命なのよ。

 彼が私以外の人を好きになるなんてありえない。許さない。



 私は一度手鏡を元の場所に戻してからベットに倒れこむと、これから何をするべきか考える。


 彼が好きになるのは、私なのだから。










 ついに、物語が始まる日がきた。

 今日私は、ファビウス男爵家の屋敷から学園の寮へ移ってきた。今は学園の門に入ったばかりである。学園へ今日来たのは、前々世と同じく編入の手続きをするためだ。


 私は門へ入ると、庭園へ向かった。本当は指定された部屋へ向かうことに迷ったりせずその部屋へ向かえるし、庭園を通っていくと遠回りになることは知識で知っている。

 だが庭園へ向かわなければレヴォン様と出会うことができないので仕方ないのだ。


 私は庭園へ着くと、キョロキョロと辺りを見渡す。見慣れた景色だけれど、どちらかといえば懐かしいと思ってしまう。

 周りを見ながらレヴォン様はいつ来るだろうかと探していると、視界の端で彼をとらえた。だが出会いは彼から話しかけてくるため、気づいていないふりをしなければならない。

 私は彼が話しかけてくれるのを今か今かと待っていると、ついに声がかかった。


「お嬢さん、何かお困りですか?」


 久しぶりに聞く声。結婚したときよりも優しい、彼の声。

 何年も前に向けられ、ずっとずっと聞きたかったその優しさを含んだ声の持ち主に私は飛びつきそうになるが、それを堪えて挨拶をする。今世では、まだ彼と初対面なのだから。


『お初にお目にかかります。私はファビウス男爵家が娘、シュゼット・ファビウスと申します。以後お見知り置きを、第一王子殿下』


 前々世と、ゲームと全く同じセリフ。それを一言一句まちがえることなく言うと、彼はまた優しく話しかけてくれた。


「ああ、よろしくね。君の名前がシュゼット・ファビウスということは、今日来た編入生は君ということであっているかな?」


『ええ、私が今日ここに編入することとなった者です』


 私は一度頭の中に言葉を浮かべてから言葉を発していく。前々世で話した言葉は流石にはっきりとは思い出せないが、前世ではゲームを何度も何度も繰り返したのだ。大好きなレヴォン様のルートを。

 その言葉を間違えるわけがなかった。


 私は顔を上げて、彼の顔を覗き込む。青色の吸い込まれそうな程に綺麗な瞳。大好きだった。

 その瞳はいつのまにか私に向けられなくなっていた。だが、今その瞳には私の姿だけが写り込んでいる。



 ほら、やっぱり彼は私だけのものなのよ。



 彼はどこに向かうのか尋ねたので、私は指定された部屋を言う。

 では私が案内しましょう、そう言って彼は優しく微笑むと私の前を歩いて行った。

 展開は変わらない。彼の優しさも同じ。



 変わらないでね、そのままでいて。

 また、私を愛して。



 私は彼に部屋へと案内してもらうと、ゲームと同じようにお礼を言って礼をした。











 俺はシュゼット嬢が部屋に入った姿を見届けると、ぼんやりと心にポッカリと穴が空いた感覚がした状態で俺が感じた思いなのかわからない言葉が、頭に思い浮かんだ。



 このままではまた、変えられない。

読んでくださり、ありがとうございます‼︎

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ