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009 短期目標と小さな達成(サザリン)

 サザンリバー発祥の冒険譚が生まれて6日後、すなわち、新米冒険者パーティ《サザリン》が稀な不運に遭って全滅しかけてから6日後の朝に、《サザリン》の面々は冒険者ギルドやってきていた。


 のだが、今すぐに引き返して、宿の部屋に引きこもりたい気持ちでいっぱいになっていた。


『おい、あいつらじゃねえの? 例の……』

『ほら、ゴブリンに……急所の……ぷくくっ』

『大型新人登場ってやつじゃねーの』

『銀髪の子かわいい』

『ロリ乙。赤髪だろJK』


 最後の方の冷やかしはともかく、不名誉な評判がしっかりと広まってしまっている。思い返しても、そういった事情を話したのはあの晩、ギルドの酒場のあのテーブルでだけだったような気がするのだが――。


「おう! 死に戻りの新米ども! 元気になったみたいじゃねえか! がっはっは!」


(広めたのはあのハゲだな)

(確実にあのハゲね)

(今ならわたしもハゲって言える!)

(じゃあ僕も!)


 《サザリン》の姿を認め、Cランク冒険者のネイサンが大声を上げてこちらに向かってくる。禿頭が朝日を跳ね返し、なんだか後光が差したような具合になっているのがまた、レベッカの神経を逆撫でした。


「ちょっとハゲ!! あんたあたしらの話を広めたでしょ!! なにしてくれちゃってんのよこのハゲ!!」

「あン? ずいぶんなご挨拶じゃねえかレベッカ。かわいそうな後輩を心配する心優しき冒険者たちに、涙なしには語れないお前らの事情を丁寧に説明してやったこの俺に、出し抜けにハゲたあどういうつもりだ。あ?」

「ハゲにハゲって言って何が悪いのよこのハゲ!!」

「おうおう。じゃあゴブリンに殺されかけてた新米を、ゴブリンに殺されかけてた新米って言ったところで、なんも悪かあねえよなあ!?」

「くッ……!!」


 底意地悪くニヤリと笑ったネイサンが、レベッカの眼の前に立って見下ろしてくる。それなりに修羅場をくぐってきたであろう、中級冒険者ならではの圧が凄い。そもそも口止めした覚えもないので、羞恥で噛み付いたレベッカの方が圧倒的に不利だ。自らの非を悟って、レベッカが負けを認めようとしたそのとき――



「正直、すまんかった」



 勢いよくその場に胡座をかくと、唐突にネイサンが頭を下げてきた。眼下でつやつやと輝くその後頭部に、レベッカは自分の顔が映り込んでいるような気がしたが、それは気のせいだろうか。


「いやあ……あのあとな、まだ酒場に残ってた連中が本気で心配した感じで、『さっきの新人たちはどうしたんだ何があったんだ』って訊いてくるからよ……。あんま深刻に話すのもどうかと思って、ちょっと冗談めかして話してやったら、次の日にはもう広まっちまっててな……」


 散々な辱めを受けさせられたこのハゲに多少の恨み言ぐらいはぶつけてやろうと思っていたが、まさかの全力謝罪という展開に《サザリン》の面々も慌ててその場で膝を折り、正座のような体勢になってネイサンを取りなしにかかる。


「ちょ、ちょっと頭を上げてよネイさん! まぶし……じゃなくて! 今のはあたしが八つ当たりしただけだから! 悪いのはあたしの方だから!」

「これはこれ、それはそれだっ! こいつは、俺の不始末への謝罪だっ!」


 そう喚くと、ネイサンはたっぷりと頭を下げ続けた。見守る冒険者やギルド職員の誰ひとりとして声を上げることができず、ギルドが水を打ったように静まり返ったところで――ようやく上げられたその顔は、すっきりとした晴れやかな表情になっていた。


「どうだ、ジョナサン? 俺の謝罪は受け取ってもらえたかよ?」

「は、はい! 確かに受け取りました!」

「そうかい……。んーじゃあこの件はこれでチャラだ。そんでよ、レベッカ……?」

「な、なによ……」


 突如として豹変したネイサンの獰猛な笑みに射すくめられて、レベッカの声は上ずってしまった。


「これはこれ、それはそれ……だ。お前さっき先輩になんつったか覚えてるか? 覚えてるよなあ? お前はそういうとこ、よくできてやがるもんなあ……?」

「それはそれって……そういうことなのね……やってくれるじゃないのこのハゲ……。ええ、言ったわ。確かにあたしは言ったわ。『絶望的にハゲ上がったハゲに向かってハゲって言って何が悪いのよこのクソハゲ』って言ったわよ! 謝るわよ!? 謝ればいいんでしょ!? 煮るなり焼くなり好きにすればいいじゃないのこのハゲエエエエェェェェェ!!!!」

「おうおう、ずいぶんと開き直ってくれるじゃねえか!! じゃあよ、先輩への礼儀を欠いたときには、どうすんだ? あとアレな、心の中で思ったやつも同罪な。例えば……なあ、ダニエr」

「「「「もうしわけありませんでした」」」」


 ネイサンが言い終えるよりも早く、《サザリン》の全員がその場で平伏し、土下座のような体勢になっていた。


「てめえら……全員かよ……」





 新米冒険者たちが揃って土下座を披露するというオチに満足すると、野次馬たちは散っていった。その多くは迷宮に潜り、この先の糧を得に行ったのだろう。いま冒険者ギルドの建物に残っているのは、酒場のテーブルで向かい合っているネイサンと《サザリン》のメンバー、そしてギルドの関係者だけだった。


「ほお、《サザリン》って名乗ることにしたのか。いい名前じゃねえか」

「そう思いますかっ!? この名前、ジョナサンがつけたんですよっ!」


 ネイサンの意外なほどの好反応に、エレンがとても得意げだ。たぶん最後にふんすって鳴らした。そんなエレンの頭をぐりぐりと撫でながら、ネイサンは《サザリン》の面々を見回して、先輩からの釘を刺す。


「だがよ、せいぜい名前負けしねえようにな。サザンリバーの看板を背負う覚悟は立派だが、コケたときにゃいい笑いもんだぜ?」

「あー。さっきさっそくコケたよな? まさかのジョナサンまで土下座してたし」

「め、面目ない……」

「わたし思うんだけど、レベッカはもう少し、家の評判を気にしたほうがいいんじゃないかな」

「な、なによ、みんなだってあたしと同じ気持ちだったんでしょ!?」


 新米たちのやり取りを微笑ましく見守りつつ、ネイサンはエレンの頭から手を離した。場が落ち着くと、少しだけ真剣な表情になって話を続ける。


「さっきのあの程度なら、気心が知れた冒険者同士じゃよくあるじゃれ合いみてえなもんだけどな。それに、たぶんお前らは勘が良くて、嫌な感じがする奴とそうじゃない奴をなんとなく見分けてんだろ。てめえで言うのもアレだけどよ、確かに、俺のまわりは気のいいやつが揃っている。そういうこともあってお前らも懐いてきてんだろうし、俺も嫌な気はしないんだけどよ。ただな……」


「……まあ、お前らも一応分かってるだろうけどな、釘は刺しとくぜ。冒険者の中にはロクでもねえ奴もいるから、例え誰かに恥をかかされようが、噛み付く前にはひとまず冷静になれ。冒険者同士のトラブルなんてのは日常茶飯事で、出し抜けにまったく知らねえやつから難癖つけられるなんてのは定番中の定番だ。とくに、お前らみてえな可愛い顔した坊っちゃん嬢ちゃんは悪目立ちするからな。たまたま虫の居所が悪かったってだけで絡んでくる奴らがきっといる」


「なんなのそれ。理不尽な話ね……」


「それを決める権利があるのは、より力がある方だ。今のお前らが理不尽だなんだっつっても、誰も聞きやしねえよ。もちろん、冒険者同士のイザコザはご法度で、ギルドに見つかりゃ厳罰ってことになってるがな、よっぽどの証拠がない限りは、知らぬ存ぜぬを通すのも簡単だ。ギルドの職員や他の冒険者の目の前でやらかした現行犯でもなきゃ、まず咎められることはねえ」


 そういう現実に倦んでいるのだろう。ネイサンの声音はどんどん不機嫌になっていく。


「そういうこったから、新米のうちにトラブルを起こすってのは、ただの噛み付き損なんだよ。その手のロクでもねえ連中ってのは小狡いからな、遠回しな挑発でお前らを怒らせて、少しでも下手なことを言い返しでもしようもんなら、大喜びで揚げ足を取ってきやがる。そんで謝罪だの賠償だのを要求されて、しまいにゃ力でねじ伏せられて泣き寝入りってのがお決まりのパターンだ」


 要するに弱い者いじめだ。冒険者稼業にはこの手の悪しき慣習がいくつもあるが、中でも新人が巻き込まれやすいトラブルについて、早めに釘を刺しておこうというネイサンの親心であった。その真意を正しく理解したジョナサンが、苦笑を浮かべつつ言葉を返す。


「冷静になれとは言っても、誇りを捨てろとは言わないんですね」


「あったりめえだ。お前らはサザンリバーを代表する冒険者になんだろ? そこらのアホどもに足を引っ張られてる場合かよ。要するに、だ。うまくやれってことだよ」


 ニヤリと口角を上げ、とびきりの悪い笑顔でそう言うと、ネイサンは何かを思い出したような表情になってジョナサンに問う。


「そういや、お前らがデビューしたのって何日前だ?」

「6日前ですね」

「そうか、ギリギリだな。迷宮の構造が1週間で変わるのは知っているか?」

「いえ、知りませんでした」

「まぁあれだな、お前らの場合はそれほど成果があったわけじゃないから、心機一転、新しい構造から再挑戦してもいいんだろうけどな――嫌味じゃねえぞ――とはいえ、見慣れた構造かどうかってのは探索の難易度に大きく関わるから、明日までにいちど潜っておくことを勧めとくぜ」

「そうだったんですね。何から何までご親切に、ありがとうございます」


 ジョナサンのまっすぐな謝意に照れたのか、ネイサンはそっぽを向いて返事を寄越した。


「まあな……だいぶ過保護かなって思わんでもないんだが、どうにもお前らには期待しちまってな。つまんねえことで挫けてほしくないってのが正直なところだ。だがな、新人様待遇はここまでだ。こっから先はそうそう面倒見ねえぞ?」

「わかっています。本当なら誰の力も借りることなく――というわけにはいかないのでしょうが、それでもなるべく、仲間と力を合わせて、自分たちだけで困難を切り抜けていくつもりです」


 ジョナサンが力強く頷いたところで、これから店を回って新たな探索の準備を詰めるのだというネイサンに、《サザリン》の面々がそれぞれ礼を述べて解散となった。





「というわけで、短期目標を設定しましょう」


 ネイサンの助言を受けて迷宮デビューに再挑戦しようという話の流れの中で、レベッカがそう提案した。


「おー、昨日言ってたタンキモクヒョーだな。つっても、ちょっと潜ってちょっと戦って帰ってくる、みたいな感じでいいんじゃねえの?」

「すごく雑だけど間違っちゃいないわね。でももう少し具体的に、これを成し遂げたら帰還する、っていうちゃんとした目的を設定すべきだわ。みんな、再挑戦するにあたって何をしたいの?」

「そりゃあやっぱり、なあ……」


 ダニエルが口ごもったその続きは、ジョナサンとエレンが宣言した。


「……ゴブリンにリベンジしたいね」

「うん。わたしもそうしたい。今日までずっと、あの悔しさが晴れないままなの」


 前衛として支えきれなかった悔しさ、前衛をバックアップできなかった悔しさは、それぞれの胸の中にまだ鮮明だ。パーティがきちんと再スタートを切るためには、この小さなリベンジをしっかりと成し遂げるべきだろう。


「決まりね。迷宮に潜ってみて、構造が変わってないってことを確認したら、そのあとゴブリンを探しましょう。そして、きれいに勝って戻ってくる。それでいいわね?」

「「「おう!」」」



 手早く装備を確認し、念には念を入れすぎるほどのポーションの補充を行った後、《サザリン》の姿は迷宮の中にあった。デビュー戦のときには緊張もあり、迷宮の構造などそれほど鮮明に覚えていられたわけではなかったが、レベッカがマッピングしていたメモと照らし合わせることで、通路の形に違いがないことは確認できた。ネイサンに教わったとおりに、まだ迷宮の構造は変わっていないようだ。

 ただ、ドアの位置にいくつかの違いがある。マップに記された位置にそのままドアがあることもあれば、あるはずのドアがなく、なかったはずのドアが出現している場所もあった。


「ひょっとして、複数のパーティが一緒にならないように、誰かが入ったドアは消えるとか?」


 そんなエレンの気づきに首肯するレベッカは、もっと具体的な根拠に辿り着いていた。


「エレンの言うとおりね。例えばここは前にドアがあったところだけど、今はただの壁よ。でも、壁に近づいて耳を澄ましてみるとほら……ジョナサン、何か聞こえない?」

「中で戦ってるみたいな音がするね。なるほど、そういうことなのか……」

「中のやつらが入る前までは、ここにドアがあったってことか。そういや、俺らが探索したときも入ってきたドアは消えてて、先に進むしかなかったよな」

「おそらくそういうことね。ある程度進むと、またここみたいな大きい通りに戻ってこれるんでしょうね」

「となると、その程度が問題だね。大通りにすぐ戻れないパターンがあるかもしれない」


 深刻さを帯びたジョナサンの言葉に、エレンが顔を引きつらせながら応える。


「あ、あはは……つまり前回のわたしたちは、ものすごく無謀だったってことだよね……」

「戻れない!って最初だけビビったけど、そのあとなんも気にしてなかったもんなあ」


 軽い調子でダニエルが合わせたが、口調とは裏腹に表情は厳しい。前回の探索が失敗に終わった以上、これがしっかり反省すべきところだというのをわきまえているようだ。その様子を頼もしく思いながら、ジョナサンが途方に暮れたような声を上げる。


「それにしても、前回の最後みたいに、大通りでゴブリンに出くわすかと思ったけど……」

「なかなか現れないね。小部屋の中、入ってみようか……?」


 痺れを切らしたようなエレンの提案だったが、これには全員が頷いた。ゴブリンにリベンジして生還するのだという明確な目標がある以上、魔物との遭遇が稀だと言われる大通りではなく、より遭遇しやすい小部屋に足を踏み入れるべきなのが正しい判断だろう。


「よし。じゃあ次にドアを見つけたら、その小部屋に入ってみよう」


 ジョナサンの決定を受けて入った最初の小部屋。果たしてその部屋には――ゴブリンがいた。



「3体か。ちょうどいいんじゃねえの?」


 首尾よく訪れたリベンジの機会に、ダニエルが興奮気味に声を上げる。ちょうどいいという値踏みはパーティを鼓舞するためだろうが、しっかりと装備を整えて挑んでいるという自信が言わせている部分も大きそうだ。


「それでも、いきなり急所をやられちゃうと分が悪いよ。それに、いちばん後ろにいるやつは槍みたいな武器を持ってるね。戦ったことがないタイプだから、油断しないでダニエル。あの槍持ちは――エレン、任せても大丈夫かな?」

「うーん、だめかも。わたしの剣じゃ届かないから、あいつの動きを見てるだけしかできないし、遠くから突かれるとフォローもできないかも」


 気を引き締めるように促しながらジョナサンが飛ばした指示に、エレンが異を唱える。彼我の戦力を冷静に把握できているからこその否定だった。


「なるほど。じゃあ僕とダニエルが前にいるやつの注意を引きながら左右に広がるから、その隙に脇を迂回して槍持ちの後ろに回り込むってのは?」

「それならいけるかも。レベッカも一緒に、ね?」

「わかったわ。しっかり守ってよ? エレン」


 レベッカの言葉を合図に、ジョナサンとダニエルが手前にいる2体のゴブリンに斬りかかり、押し込みつつ体を横に滑らせて、ゴブリンたちが背中合わせの体勢になるように動いていく。その横をエレンとレベッカが駆け抜けて槍持ちの後方へと移動すると、槍持ちはエレンとレベッカに体を向けてきた。これで狙い通りに、すべてのゴブリンが背中合わせとなった。この状態ならそれぞれの局面で同数かそれ以上で戦えるので、後ろから槍のリーチを活かされることもなく、《サザリン》側の不利は解消される。

 お互いの距離を離したことによって、各個撃破に失敗した場合のフォローや回復が間に合わない恐れも出てくるのだが、ジョナサンとダニエルの力量はゴブリンを上回っているので、そこは杞憂だろう。唯一の懸念は槍持ちという未知の相手に、エレンとレベッカがうまく立ち回れるかどうかだった。


「あたしが牽制するから、頼んだわよ、エレン」

「任せて。うまく打ち合わせて踏みとどまってくれれば、その隙に踏み込める」


 レベッカが手にする杖は、長さの点では槍と伍する。杖を突き出して牽制しつつ、どこかでゴブリンの槍に横から打ち合わせて動きを止めることができれば、エレンが踏み込むタイミングを作れる。


 レベッカが杖を構えて突き出す様子を見せている間に、エレンはレベッカの左側からじりじりと槍持ちに近寄っていく。エレンの接近を許すまいと槍持ちがエレンに槍を向けた瞬間、レベッカが杖を振り上げてゴブリンに打ち掛かった。


「今よ!」


 レベッカが声を上げるよりも早く、エレンは素早く前転しながら右に動き、レベッカの右側へと立ち位置を変える。エレンの動きを追いつつ、同時に襲いかかってくるレベッカの杖を防ぐために、槍持ちは槍の腹でレベッカの杖を受けることになった。


「うがーっ!」


 およそ地位のある家の令嬢には似つかわしくない気合いとともに、杖に全体重を乗せたレベッカがゴブリンを押し込もうとするが、後衛ならではの非力さゆえ打ち合わせた状態を維持するのがやっとだ。


 しかし、それで十分だった。レベッカが動きを止めている間に、エレンは剣が届く間合いまでやすやすと踏み込んで、槍持ちの首に狙いすました渾身の一撃を見舞った。


 その様子を目の端に捉えながら戦っていたジョナサンとダニエルは、槍持ちから引き剥がすようにいなし続けていたゴブリンたちへの攻撃に転じ、あっさりと止めを刺す。こうして、《サザリン》の小さなリベンジは無事に達成された。



 ゴブリンたちが絶命していることを確認したあと、討伐の証明となる耳の切り落としにかかる頃になっても、レベッカはまだ肩で息をしていた。


「いい動きだったんじゃねーのレベッカ? まるで後衛じゃないみたいだったぜ」

「はあはあ……正直、失敗したらどうしようって怖かったし、必死だったわよ……。でも、エレンに杖を使ってもらっても、あたしじゃ剣で戦えないし、しょうがないわよね」

「でも、おかげでわたしがあんなに簡単に近寄れたんだから、レベッカのお手柄だよ!」

「じゃあ、そういうことにしといてもらおうかしら。はー……しんどかったわ」


 ダニエルとエレンからの称賛を素直に受けて、レベッカは誇らしげな笑みを浮かべる。その肩を軽く叩いて労をねぎらったジョナサンが、これからの行動を説明し始めた。


「この先もまだ小部屋が続かもしれないことを考えたら、まずはレベッカの息が整うのを待ってから動いたほうがいいと思う。いちおう武器の状態もチェックして、油断せずに次に備えよう」



 しかし、次のドアを開けたところであっさりと大通りに戻ることになり、《サザリン》の面々は肩透かしの目に遭った。それでも設定した目標をしっかりとクリアしたことに満足しつつ、再デビュー戦が成功したという実感に足取りを軽くしながら、地上へと帰還したのだった。




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