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005 《エルフィン》――始まりの冒険者たち・中編

ボーダー爆上げのおかげで、本戦始まったら書く余裕とか1ミリもなかったですね( -ω-)


古○場疲れというか、箱開けが落ち着いて、ようやく再開なのでした。

「……あんたが俺より腕が立つのはよくわかる。けど、穴の奥にあとどれぐらいゴブリンがいるのかわかんないんだ。それでも戦って大丈夫なのか?」


 油断なく穴の奥に目を凝らしつつ、青年は淡々と状況確認を促す。その冷静な振る舞いに好感を持ったらしく、ローブの女性は口元に微笑を浮かべて力強く返した。


「ゴブリンたちが近づいてくる前に仕留めてしまえる自信があるので、おそらくは問題ない。とはいえ――」

「万にひとつってこともあるか。うーん……そんときは俺の指示でいいのか?」

「ああ、任せるよ」

「わかった。じゃあ、力を貸してくれ。あの先の曲がり角の向こうに、ちょうど真っ直ぐな道が続いている。弓で戦うにはいい位置なんだが、暗いのが問題だな……」


 手はずを組み立てつつ、青年は自分の腰に下げたランタンに目をやる。どうにかして女性の視界を確保できないかと思案しているようだが、それは杞憂だった。


「問題ない。私は夜目が利く方なんだ」


 そう告げると、女性はすたすたと穴の奥へと入っていって、曲がり角の手前で矢をつがえ直した。後から続いた青年も奥を覗き込んでみるが、やはり真っ暗で何も見えない。仕方がないので息を殺して耳を澄ましていると、さきほど聞いた耳障りな金属音がかすかに聞こえてきた。


――――と、



 びぃん。



 弦が鳴ったと思ったら、ローブの女性はもう次の矢をつがえ終えていた。そして、



 びぃん。



 びぃん。


「ちっ……」



 びぃん――――。





「終わったぞ」


 短く淡々とそう告げた女性に、青年は驚愕の目を向ける。何かを聞き間違えたか、もしくは意味を取り違えたのかもしれない。


「お、終わったって、ぜんぶ仕留めたのか!? さっき聞いた音の感じでは、2体以上は来てると思ったんだが……」

「ああ、3体いたな。最後の1体が勘が良くて、少しかわされてしまった」

「仕留めたのか……魔物としては弱いゴブリンとはいえ、3体の魔物を4矢で仕留めちまうのか……あんた凄えんだな……」


「なあ……万にひとつなんてこと、あったのか?」


 何が起きたのかわからないが、どうやら自分は神業を目にしたらしい――その事実を納得しようと努めていた青年だったが、自分が想像していた展開とあまりにもかけ離れた結果に混乱が治まり切らず、つい愚痴のような言葉が口を衝いてしまった。


「あったさ。硬い兜をつけているやつがいれば簡単に頭は射抜けなかったし、もう少し数がいて、そこに勘が良くて頭が回るやつがいれば、仲間を盾にして寄られたかもしれない。実際、最後のやつは勘が良かったんだしね」

「そうか……あんたほどの腕でも兜には手を焼くのか。なるほどなあ……」


 話しているうちに冷静さを取り戻すと、青年は素直に頭を下げた。


「すまん、自分が役立たずだったみたいで、つい恨み節が出た。俺はこのあたりで狩人をやっているロゴスという。あんたのおかげで助かったよ。ええと……」


 伺うように右手を差し出してきたロゴス青年に、ローブの女性は少しだけ驚いたような雰囲気を漂わせたが、苦笑しながらすぐに握手で応えた。


「きみはいちいち切り替えが早くて冷静なんだな。私が出会ってきた人間にはなかなかいないタイプで、なんだか気に入ってしまいそうだ。よろしく、ロゴス。私のことは――ネルとでも呼んでくれ」


 そう言いながらローブの女性――ネルが頭を覆っていたフードを脱ぐと、ロングの柔らかな金髪がこぼれ出る。しかし、ロゴスが何度目かの驚きに目を見張ったのは、ネルの特徴的な――長くて尖った耳の形だった。


「その耳……ネル、あんたはひょっとして、《森のエルフ》なのか……!?」


「うん? エルフを見たことがないのかい?」


 驚愕するロゴスに対して、ネルはむしろ不思議そうに問い返す。


「あ、ああ……いちおう俺も狩人の端くれだから、あんたらのことは話には聞いていたけどな。会うのは初めてだ。というか、まさか狩人にとっての神様みたいな存在にお目にかかれるとは、思ってみたこともなかったよ。……なるほどなあ、あの神業のような弓の腕も、そういうことなら納得だ」


 ネルが常識外れの存在であったことにより、先程の出来事にすっかり納得がいったらしく、ロゴスの雰囲気が明るいものになる。しかしすぐに緊張を取り戻すと、真剣な表情でネルに向き直り、これからの相談を持ちかけた。


「なあ、ネル。ついでに頼まれてもらっていいか?」


 そうくるだろうと予想していたのか、ネルはまたもや苦笑を浮かべたが、すぐに微笑に変えて、肯定の意思を伝える。


「ああ、構わない。奥を調べるんだな?」





「「――シロウさんっ!」」


 喉を潤すために、話を区切ったシロウがエールに口をつけると、名乗り合いのくだりから目を丸くして聞いていたエレンとジョナサンが食いついてきた。ジョッキを傾けながら、シロウは目の動きだけでふたりの言葉の先を促す。訊きたくてうずうずしていたようで、エレンが素早くその目線の意味を汲み取った。


「ネルとロゴスって――いまシロウさんがしてる話は、《始まりの冒険者》たちの物語なんですか!?」

「ああ。800年前に迷宮という迷宮を荒らし回ってた、《エルフィン》の連中が始まったときの話だな」

「そんな……《エルフィン》の偉大な4人の冒険譚は有名ですが、結成以前の話なんて聞いたことがありません……」


 未知の情報にエレンが冒険譚ヲタの知識欲を大いに掻き立てられている一方で、ジョナサンは少し不満そうにシロウを問い詰める。


「荒らし回った……って、《エルフィン》といえば、冒険者の始祖と呼ばれるほどの英雄たちですよ!? しかも800年前は今みたいに《神々の迷宮》が造られる前だから、踏破したのはどれも攻略に至難を極める《原初の迷宮》ですし……」

「まあ、先輩は敬うべきよねえ」

「でもシロウさんって冒険者じゃないから、後輩じゃねえよな?」


 ここまでの語りでよほど喉が乾いたのか、みるみるうちにジョッキを空にしたシロウは、追加のエールを注文しつつエレンとジョナサンの疑問に答えていく。レベッカとダニエルの軽口は、ひとまずスルーだ。


「まあ聞いてくれ。エレンはそんなに驚かなくてもいいし、ジョナサンもちょっとだけ視野を広げれば、怒りが収まるかもしれないぞ。これは人生の先輩としての助言だが、たぶん冒険者にも当てはまることだと思う」


 そう言って若い冒険者たちを優しい目で見回したあと、シロウは言葉を続けた。


「まず、エレン。他の国に出たことはあるか? そして、その土地土地に伝わる冒険譚を聞いて回ったことは?」

「……あ、ありません」

「そうか。でもエレンやジョナサンほどの情熱なら、旅の冒険者に話をせがんだことぐらいはあるんじゃないか?」

「そ、それだったらあります……何度も」

「それとまったく同じことだ。冒険譚に惹かれて、もっとたくさんの話を知りたいという気持ちを持ち続けていれば、生きてきた時間の数だけ見聞きした冒険譚の数も増えていく。なにしろ俺はこの通りのおっさんで、おまえたちの倍以上の時間を生きているんだから、その時間で旅を続けて、いろいろな国や土地で冒険譚を漁っていれば、いくつか珍しい冒険譚にも出会えて当然だろ?」


「「「「な、なるほど……」」」(ヤバい、この人ガチだ……)」


「俺がこの話を知ったのは、まさにこの話の舞台になっている、エイジャ地域に行ったことがあるからだ。まあ……世界の反対側ってことになるから、サザンリバーからは片道たっぷり3年かかったけどな……」


(シロウさんってアレだと思ってたけど、相当なアレだったんっすね!)

(旅してたってのは聞いたことがあるが、世界の裏側とはなあ……)


 マーカスとネイサンのアイコンタクトは完璧だ。対して4人の新米冒険者たちは、シロウの度を超した情熱を思い知らされて呆気にとられている。


「いや、旅の道中ってことだからな? そりゃあ新しい冒険譚を聞きながらだったけど、この話だけのために世界の反対側まで飛んでいったわけじゃないぞ?」


 ネイサンたちの雰囲気を察して釘を刺すと、呆けたままの新米たちに話を続ける。


「で、そういうことをやりながらたくさんの冒険譚に触れていくと、いまこの地にあるような《神々の迷宮》が造られてからの冒険と、《原初の迷宮》しかなかった時代の冒険とでは、いろいろと事情が異なることにも気づくわけだ」

「縄を張ってゴブリンの足を引っ掛ける冒険者とか、確かに知らないわね……」


 先程の話で気になっていたのだろう情景について、レベッカが相槌を打った。


「そういうことじゃないんだが、まあ確かに、そういうのも違いのひとつか。《原初の迷宮》が野放しにされていた頃には、そもそも《冒険者》と呼ばれる人たちはいなかったんだよ。《エルフィン》のロゴスは好奇心が旺盛な狩人だったが、他の例だと腕自慢の剣士だったり、魔法の探求者だったり、財宝目当ての盗賊だったり。そういう人たちが《原初の迷宮》に足を踏み入れ、踏破した先で何らかの成功を得る。そういった冒険譚が知られるうちに、積極的に迷宮を探索する者たちが《冒険者》と呼ばれるようになったんだ」

「盗賊……そうか……《原初の迷宮》というのは、太古の墓所や洞窟に魔物が棲み暮らしたものだから……」


 シロウの言葉で何かに気づき、ハッとした様子でジョナサンが呟く。


「そういうことだ。魔物が棲み着く危険な場所を踏破するというのは偉業だが、そのきっかけまで辿っていくと、単に財宝目当ての墓荒らしだったりするのさ」


 そう言ったシロウがテーブルを見回すと、なんだか気まずい空気が漂っている。お前らは盗賊の真似事をしている連中だ、と言われたような気分なのだろう。


「こらこら、おまえらもっと誇りを持てよ。俺が言ったのは《原初の迷宮》の時代にそういう連中がいたり、迷宮探索にハマるあまり、静かな墓所を騒がせることもあったっていうだけのことだ。今の時代、《神々の迷宮》に挑む冒険者たちは――まあ財宝目当てっていう部分もあるだろうけど――墓の主やおとなしい魔物に迷惑をかけるわけでもなく、あえて危険に挑む誇り高き存在だろう? 神々に用意された研鑽の場で、自分たちの力を高め、ゆくゆくは国の護り手だったり村の用心棒あたりに落ち着いたり、またはさらなる冒険を求めて旅立ったり――最終的にどうなるのかはともかく、自分の力を磨いて何かを成し遂げようという、志ある身じゃないか」


「お、おう、そうだった。その通りだった」


 渡りに船とばかりにシロウの言葉に飛びついたネイサンから、志を忘れかけていた匂いを感じ取ったようで、レベッカとマーカスからのネイサンに向ける目が冷たい。


「ネイさん……」

「勘弁しろ、レベッカ。盗っ人に落ちた覚えはねえよ。ただよ、あるだろ。まったくの濡れ衣なのに『ひょっとして俺か?』みたいな気分になるっての」

「そういうことなら信じるけど……」

「俺はちょっと保留っすね。何しろこの人に命を預けてるんすから、しばらく行動で示してもらうしかないっす」

「はあァ!? どんだけ安いんだよ俺の信頼! たった一言、ひょっとしてって言っただけで信用問題かよ!」

「リーダーってのは信頼がすべてっすからね! 安い動揺を見せられちゃ、ついてく方はたまったもんじゃないっすよ!」


「はァ……悪かったな、マーカス……」


 ネイサンが折れると、マーカスは何事もなかったかのようにニコニコしている。ただのじゃれ合いだったみたいだが、ふだんからこうしてリーダーとしてのネイサンを育てているのだろう。すべてをリーダーに一任するのではなく、その行いをしっかりと見守りながら、必要とあらば釘を刺している。


 パーティの総意がリーダーであり、リーダーの決定がパーティの総意である。理想的なパーティの姿とされるそういった関係に近づくために、ネイサンたちは日々の心がけを怠っていないようだ。



「まあ、そういうわけだ。今どきの冒険者事情に合わせて、古い冒険譚もいろいろ聞こえがいい話に脚色されて伝わっているけど、別にそれが悪いとも思わない」


「――ただし、冒険譚の主人公たちがどういうきっかけや心構えでその冒険に臨んだのか。そういうところは変えないように伝えるべきなんじゃないかと、俺は思っているだけなんだ」


 そう断りを入れると、シロウは新しいエールで唇を湿らせ、冒険譚の続きを語り始めた。



地球の地形をひっくり返したり、大陸をずらして再配置したような世界をイメージしてます。


サザンリバーがブラジルらへんで、エルフィンが始まったのは我らが日本、みたいな感じです。

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