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017

リハビリを兼ねたテストみたいなパートです。短くてすみません。

「すまんな、待たせてしまったの」


 白髯をしごきながらそう言って、グレンはシロウとエレンの向かいのソファに腰掛けた。シロウとの会話でいくらか緊張をほぐせたのか、エレンはテンパることなくしっかりとグレンの顔に注目できている。その様子を見て安心しつつ、シロウが軽口を返す。


「いや、エレンが落ち着く時間があって、むしろ良かったぐらいだ」


「お、お手数をおかけしました……」


「ふぉふぉ。そうかそうか。初対面じゃからといっていちいち緊張しとったら、迷宮探索なんかやっておれんからの。初見の強い魔物に出くわしてガチガチになっとったら、命がいくらあっても足りんわい」


 おそらくは場を和ませるためだろう。シロウに合わせて自然に軽口を返したあと、グレンは優しい目でエレンを見据え、穏やかな口調で告げた。


「覚えておくんじゃぞ、エレン嬢ちゃん。良い冒険者になりたければ、平常心を保つことじゃ。どんな場であれ、平常心でさえいられれば判断を間違えることもなかろう? どんな状況であれ、正しい判断さえ下せれば、命を落とす確率はぐっと下がる。それが迷宮の魔物という強者であれ、地上の王族や貴族といったまた別の強者であれ、な」


「は、はい……! 心に刻んでおきます!」


 素直なエレンの返事に、満面の笑みを浮かべるグレン。エレンを見つめる眼差しはどこまでも優しく、それは新米冒険者を見守る先達というよりは、まるでおじいちゃんが孫に向けるようなたぐいのもので、シロウは思わず苦笑してしまう。


(まあ、グレンもたっぷりと歳を取ってるんだし、さすがに《サザリン》ぐらいの若い連中だと、威厳で接してもしょうがないってことなんだろうな……)


 そんなことを思いながらお茶をすすっていたシロウだったが、続くグレンの言葉で危うくお茶を噴いてしまうところだった。


「うむ。良い返事じゃ。跳ねっ返りのエミリアとは違うのう……エレンはレオンに似たかの?」


「えっ、ギルドマスターは、わたしのパパとママをご存知なんですか!?」


(うっわ。けっこうガチで孫とかそんな感じで見てたのかよ……)


「そりゃあ、やつらもこの地区の冒険者じゃったからの。ワシはここのマスターを40年やっておるが、揃って銀髪で美男美女、そのせいでしょっちゅうトラブルを呼び込む冒険者なんぞ他におらんかったから、そりゃあよーく覚えておるわい」


「うわあ……お手数をおかけしていたんですね……」


「ふぉふぉ。なあに、やつらばかりが悪いわけでもないんだしの。難癖をつけてくる相手さえおらねば、ひょっとするとそれほど問題を起こすこともなく、ワシもあまり関わり合うことはなかったかもしれんの」


「ええ……。『ひょっとすると』『それほど』、ですか?」


「そりゃあ、片方がなかなかの跳ねっ返りじゃからのう」


「ああ……。やっぱりお手数おかけしたと思います……ママがすみませんでした……」


 エレンの母であるエミリアは、エレンによく似た容姿の持ち主である。よって、エレンという美少女がこの地区の冒険者たちの間でひそかな噂になっているように、エミリアもまたその美しさで人目を惹いた。

 近年になって女性の冒険者は急増したものの、エミリアが現役だった15年ほど前はまだその数が少なく、存在自体が物珍しがられていた。ましてや、銀髪の美少女(当時)となればなおさらである。ゆえに、よほどの強さ――腕力や精神力などをひっくるめた戦闘力を持ち合わせていない限り、美少女が冒険者になるのはリスクばかりが高く、とても割には合わなかったのである。

 迷宮の魔物を相手取るだけでも大変なのに、地上に戻ってみれば同じ冒険者仲間であるはずの男どもからの色目や、『そんなに美人なのに冒険なんて……』といった節介を焼いてくる人々とも戦わねばならない。


 しかしエミリアは、それらのすべてに打ち勝ったほどの強いメンタルの持ち主であり、あまつさえ女性冒険者の地位向上にも多大な貢献を果たしてみせたのである。とはいえその功績の半分以上は、ここサザンリバーの迷宮地区で知り合い、生涯の伴侶となったレオンを味方につけた結果ではあったのだが。


「なーんも気にすることはないんじゃぞ、エレン。ひょっとすると、むしろお前さんの行儀が良すぎるのかもしれん。クセの強い冒険者たちと顔を合わせながら生きていくなら、自分の意志をしっかりと表に出すことも必要じゃろうて。エミリアはそのへんがちょっと不器用での、根は優しいくせにやたらと強がりおるから……」


 お前はもうちょっと器用にやるんじゃぞ、とグレンが諭し、エレンがはいと返事をしたところで、おじいちゃんと孫の時間はひとまず終わった。



「ふむ……槍か。良いかもしれぬな」


 本題であるエレンへの武器の貸与について、シロウが自分の見立てを伝えたところ、グレンは目を細めつつ賛成の意を示した。


「実際にどんなたぐいの槍にするかってのと、指導員のあてがまだ決まってないんだ。俺に任せてくれてもいいんだが、グレンの方で心当たりがあるかと思ってな」


「ふぉふぉ。確かにそこはお主に丸投げするつもりで雇ったんじゃがな。しかし今回に限っては、ワシに訊いてくれて良かったかもしれん。ちょうど心当たりというか、話を持ちかけてみるのも面白そうな男がおるぞ。と言っても、その男がここに来るのは、あと3日後ぐらいと聞いておるが」


「ほう? 槍が得意な冒険者なのか」


「生涯を捧げた刀ほどではないじゃろうが、苦手ということはあるまい」


「刀に生涯を? 心当たりっていうのはまさか……ケンゴーさんか……」


「どうじゃ、適任じゃとは思わぬか」


 意外な人物に軽い驚きを見せたシロウに、グレンはニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべてそう返した。



 何もわからないエレンだけが、不安そうに場の成り行きを見守っていた。


会話のところで1行空きを作りたくない派だったんですが、テンポよく読んでほしいことが多い部分なのに、ちょっと文字が詰まりすぎるかな……という心境になってきたので、テストです。

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