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98 ギルド本部での面会

 昨日はソフィアやノーブルと出会ったり、その後アリスに甘えたりと色々あったけど、今日は気持ちを切り替えて朝からみんなと街を見て回ることにした。


 最初は服屋で女性陣の試着会が発生し、少ない語彙を振り絞って褒めるのに苦労した。その次は小物屋とアクセサリーショップを転々と見て回るのに付き合った。男の俺とライナーには少しばかり辛い戦いが続く……


 そんな俺らを気遣ってか、アリスが休憩を提案してくれた。元気を取り戻した俺とライナーで屋台の食べ比べに突入。王都や聖教会とも違う味付けを堪能し、地域によって屋台にも差が出るもんなんだなと妙に感心した。


 途中、一人で抜け出してアクセサリーショップまで戻る。アリスが試しにはめていた指輪を買ってサイズを確認するためだ。目的を果たしてからみんなのところに帰るとちょっとだけ怪しまれた。悪いことはしてないのになんだか少し申し訳ない気持ちになる。特にライナー、短い間とはいえ男一人にして悪かった。


 そんなこんなで気が付けばギルド長と会う約束の時間になっていた。




「ギルド長との面会を予約したシルヴァリオです」

「シルヴァリオ様ですね。少々お待ちください」


 事務的な手続きを済ませ、受付のお姉さんの案内に従ってギルド本部の中を進む。何度か通路を曲がった先、両扉で閉ざされた部屋の前で立ち止まる。


「それではギルド長をお連れ致しますので、こちらのお部屋でお待ちください」


 部屋の中に入ると大きな長机が部屋の中央に置かれていた。他には特に目を引く物は無い。ギルド長の部屋に連れて行かれるのかと思っていたけど違ったか。


「セレン様とアリス様はお座り下さい」


 そう言ってベルは二人の後ろで姿勢を正した。


「やっぱオイラ達も後ろに並んだ方がいいのかな?」

「一応表向きはセレンの護衛だからな」


 聖騎士の恰好をしているため、俺とライナーはセレンの護衛ということにしている。だから俺たちもベルと一緒に二人の後ろで控えていることにした。


 しばらくして扉がゆっくりと開いた。二人の男が部屋へと入ってくる。金髪の男が俺たちの反対側に腰かけ、褐色肌の赤髪が金髪の後ろに立って腕を組んだ。


 先に口を開いたのは座った男。ゆるくウェーブがかった前髪を手で払い、メガネを指先でクイッと持ち上げた。


「待たせてすまなかった。あと二人同席するはずだったんだが、どうやら間に合いそうもないので我々だけで先に始めようと思う。まず私から、ここでギルド長をしているノア・ヴァイオレットだ。商業ギルド部門の部長も兼任している」


 ちょっと疲れた感じがにじみ出る美男子。年は俺たちよりも上っぽい感じがする。二十半ばぐらいだろうか。


「それで後ろの男は」

「副ギルド長のアルバ・スカーレットだ。商業ギルド外部委託部門の部長もやってるが、まあ気軽に副長とでも呼んでくれ」


 ギルド長の言葉を引き継いで副長が名乗りを上げた。商業ギルド外部委託部門ってたしか冒険者ギルドの正式名だったよな。つまりあっちの人が冒険者ギルドのトップか。


 というか厳つい顔立ちでニッコリ笑顔のギャップはヤバイ。しかも筋肉モリモリだし、何より赤く染めたソフトモヒカンが目立つ。見た目からしてめちゃくちゃ強そうだ。いや見た目のインパクトに負けないぐらい普通に強いんだろうけど。若く見えるけど三十は超えてるんだろうな。


 ギルド長のノアと副長のアルバ、この二人どっちが強いのかちょっと気になる。


 ただ……俺が一番気になってるのはギルド長、強いて言えばその髪。ヴァイオレットってことはノーブルの身内だと思うんだけど金髪なんだ。思わず二回ほど見直したけどやっぱり金髪だ。


 二人の自己紹介が終わったので次は俺たちの番になった。簡単にそれぞれが自己紹介を済ませ、最後に俺がセレンの護衛として名乗り終えたところでギルド長が反応した。


「お前がシルヴァリオか」

「そうですけど何か?」

「昨日妹のソフィアから少し話を聞いた。船についてはしばらく秘密にしてくれ。それと……爺さんと父さんはソフィアとお揃いにしたくて染めてるが、俺はそんなことする気はない」


 ギルド長が小さくため息をつくと、副長が声を殺して笑った。これたぶん他にも俺と似た反応した人がいたんだろうな。どうして一人だけ染めてないのって感じで。だからわざわざ教えてくれたと。


「あー……そうだったんですね」


 とりあえず適当に相づちを打って流した。でもそうか、ギルド長はやっぱりソフィアの兄か。


 アリスが少しだけ振り返って、視線だけで「何の話?」と聞いてきた。まあ今の会話だけだと意味わからないだろうな。ノーブルとソフィアのことは昨日少し話したけど髪のことまで言ってなかったし。まあいま話すことじゃない。小さく「後でな」とだけ答えた。


 それにしてもノーブルが”賢者”、その息子も勇者と一緒に旅していた経験があって、ソフィアは発明家と呼ばれるほどの才女。それで最後はギルド長か。なんかすごい一家だな。


「んー……サーベラスってやつは来てないのか?」


 そう言いながらギルド長が机の上で紙をパラパラとめくってる。あれには俺たちのことが書かれてるのかな? 嘘をつく必要もないけど全てを話す必要もない。端的に事実だけを言う事にした。


「サーベラスでしたら北の方に向かわせています」

「北に?」

「はい。デルキ大陸の現状を知っておこうと思いまして情報収集をさせています」


 面倒だからそれ以上は聞いてくるなよと笑顔で拒絶。


「そうか。”傀儡の王”を倒したメンバーの一人というから一度顔を見ておきたかったんだが、まあいいだろう。それとこれは興味本位なんだが君たち二人は互いの剣を交換するほどの仲なのか?」


 ギルド長のよく分からない質問に俺は首を傾げた。そしてすぐに思い至る。俺はライナーから剣を譲ってもらった。これは元々ジャックの物だ。つまりアルカーノ騎士団が使っているもの。そしてアリスは聖騎士が使うものをもらってる。その背景を知らないギルド長からすれば「シルヴァリオは聖騎士の恰好なのにアルカーノの剣で、アリスはその逆。あいつら付き合ってんじゃね?」となってもおかしくない。


 いやでもギルド長の位置から俺の剣は見えるけど、アリスの剣は座ってるから見えないよな。つまりこれカマかけてるのか?


「実は――」

「いえ、剣は交換していないんですけど、でも仲は良いといいますか、実は付き合っ……あっ!?」


 俺が説明する前にアリスが自爆した。ただもう少し早く気づいて欲しかった。まあ別にいいんだけど、ギルド長の俺を見る目が生暖かいのがちょっとウザいぐらいだし。もしかして俺がギルド長の髪を見てた時、ギルド長はこんな気持ちだったのかな。


「すまんな。シルヴァリオの恰好が気になったから少しからかってみただけなんだが。そうか、二人は付き合ってるのか。あーそのなんだ、仲が良いのはいいことだぞ」


 そういう感想いらないからさっさと本題に入ってくれ。


 俺の思いが届いたかのか、ギルド長は両手を机の上で組んで、一度咳払いをしてから話し始めた。


「君たちに来てもらった理由は三つある。まず一つ目だが、聖教会への支援について色々と調整することがある。ある程度話は聞いているが、詳細は聖女候補の君から直接聞かせて欲しい。後程時間を作ってもらうことになるが構わないかな?」

「はい、問題ありません。ありがとうございます」


 セレンが、そしてベルが頭を下げた。それを見て俺とライナーも同じようにする。


「礼には及ばない。これは聖教会への”傀儡の王”討伐報酬もかねている。アリス、シルヴァリオ、ライナー、サーベラスの四名には個別に報酬金の振り込みを行っている。あとで受付で確認しておくように」


 討伐時はまだセレンの護衛じゃないから報酬が別扱いなのかな。


 それにしても中立都市に教会がないから険悪な関係なのかと思ったけど、意外と良好な感じだ。こうなるとなんで中立都市に教会が無いのかますます分からなくなってきた。


「二つ目はアリス・ガーネット、シルヴァリオの両名をSランクに昇級させることだ。Sランクへの昇級はアルバとの面談が必要でな。本当はもう少しちゃんとするんだが、報告書を読む限り簡易的なものでいいだろう。アルバ、二人はどうだ?」

「実力的には問題ないでしょう。シルヴァリオ殿に関してはまだ覚醒していないと聞いていますが、ギルド長の祖父殿の前例もある。素行や人柄も気になるところは見受けられない」

「そうか。それならこれは完了だ」


 ギルド長が書類に何かを書き込んでいる。もしかしてこれでSランクになったのだろうか? 随分ざっくりしてるというか、あまりにも簡易的過ぎないか? 俺もアリスもほとんど喋ってないぞ。


 だけどまあこれで俺もSランクか。初めてギルドで依頼を受けてからなんだかんだで八年近くかかったのかと思うと感慨深くなる。


 ただなぁ……高ランクの冒険者に憧れる人は多いけど、実際のところ受けられる依頼の種類が増えるのと、ギルドの施設の利用料とかギルドで売ってる道具とかが安くなるぐらいで、正直個人的にはあまりメリットを感じられないんだよな。


「これで二人はSランクを含めた全ての依頼が受けれるようになる。ああそれとSランクになると国や貴族などから引き抜きがあるんだが……君たちはもう所属を決めてるからこれは問題ないか」


 アリスはアルカーノ王国、そして俺は見た目の上では聖教会アレクサハリンに所属してる。今更引き抜きで面倒なことは起きないだろう。


「はぁ……強力な人材はエイクシー大陸に偏るな。こっちの大陸でももっと戦力を増やしたいんだが」

「無い物ねだりをしても仕方ない。いないなら鍛えるだけだ」

「そういうのはアルバに任せる。俺はギルドを運営するので手一杯だ」


 エイクシー大陸には師匠とギルバード団長がいるからな。それにアンジェリカさんもいるから回復までばっちりだ。ギルド長が羨ましがるのもなんとなくわかる。


「それとSランクになる上でこれが一番重要なことなんだが、君たちには上級悪魔などに関する情報が解禁される」

「その解禁される情報というのはSランクに上がった人全員が知らされるものなんでしょうか?」

「そうだ。他にも各国の中心的人物には伝えているが、基本的に口外を禁止している。だから君たちも気を付けてくれ」

「わかりました」


 アリスの質問に対するギルド長の答えを聞いて一つ腑に落ちた。以前ギルバード団長からジャックの昔話を聞いた時、団長という立場に就いてるのに上級悪魔――グレイルについてあまり詳しくなさそうだったのはこれが原因か。俺に情報を漏らさないようにしていたってことね。


 というか個人的にはSランクに上がったことの最大のメリットはこれだな。そうと知っていればもっと早くランク上げてたのに。


「それで解禁する情報なんだが」

「あのー……その話ってSランクになってないオイラたちも聞いていいものなんでしょうか?」

「セレン様と私に関しては冒険者登録すらしていません」


 ライナーが遠慮がちにギルド長の話に割り込んで、それにベルが続いた。


 規則の上では俺とアリスの二人だけが話を聞く権利を持ってる。だけどそんなことはもちろんギルド長も分かってるはずだ。わざわざ俺たちを呼び出したぐらいなんだし、三人にも話を聞かせると思うんだけど。


「ライナーは剣聖を継ぐ者だと聞いている。Sランクに上がるのも時間の問題だ。そしてセレンとベルの二人に関しては今後聖教会アレクサハリンで重要な立場に就く者という認識でいる。三人とも例外的に許可しよう」


 三人を評価しているからこその例外か。俺とアリスの二人だけ別室で話を聞かされるって可能性もあっただろうから、この対応はありがたい。


「ありがとうございます」


 ギルド長の出した特例に、セレンが三人を代表して感謝を伝えた。


「さて、それでは上級悪魔について我々が知っていることを話そう」

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