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94 中立都市での出会い

 山の(ふもと)に下りたところで、サーベラスを情報収集のために別行動させると話した。ちょっとは揉めることも覚悟してたんだけど、意外なことに特に何もなく受け入れられた。


 セレンなんかは「あなたの使い魔なんだから好きにすればいいじゃない」といった感じでかなりあっさりしていた。ベルだけはパーティーの戦力低下を気にしていたけど、セレンが認めたことであまり強くは言ってこなかった。


 中立都市からずっと北に向かうと通称”北の帝国”と呼ばれている領地がある。そこから西側に進んだところに多くの悪魔たちがいる魔族領、そして魔王城がある。サーベラスには特にそこら辺を見てきてもらうつもりだ。


「お前なら問題ないだろうけど、何かあったらすぐに連絡してくれ」

「はい、シヴァ様もお気を付け下さい。それでは行ってまいります」


 そんな感じでサーベラスとは別れ、さらに丸一日かけてようやく中立都市に到着した。


「中立都市って……なんだか賑やかだね?」

「賑やかというか、カラフル過ぎてまとまりがないわね」


 アリスがどうにか良い感じにまとめようとしてるけど、率直な意見としては俺もセレンと同じだ。


 都市内外を繋ぐ門を通り、広場まで進んだところで足を止める。周りを見渡すと、色とりどりの髪をした人たちが沢山いた。大半は黒とか茶、金髪なんだけど……青、緑、ピンクなどなど、どれもこれも明らかに自然の髪色じゃない。


「なんか、すごい街ッスね……」

「そうだな……」


 竜騎士のエドガーとか、道中助けた人たちはこんな色してなかったから衝撃を受けた。


「なんだい君たち。この町は初めてかね?」

「え? ええ、まぁ」


 気の良さそうな中年男性が急に話しかけてきた。この町の住人……だよな? 野菜とかが手荷物からはみ出てるし、どこかで買い物してその帰りって感じか。


「ああやっぱり。私たちはもう見慣れたけど、初めて来る人は大抵面食らうんだよ。ソフィアが最近作った髪染めの染料が流行りだしてからはずいぶんと色とりどりになったもんだ。はっはっはっ」


 馬車に続いてまたソフィアの名前が出てきた。ていうかおじさんの髪も紫色してるから割と面食らってるんだけど、もしや気づいてない?


「ソフィアって馬車の改良したっていうあの?」

「そうだよ。馬車以外にも色々あってねぇ。何か発表するたびにみんな驚くんだ。でも今じゃ次は何が出てくるのか、みんなそれを楽しみにしてる」

「はあ……そうですか」

「まあ君たちもこの町を楽しんでくれ。はっはっはっ」


 そう言い残して去って行った。


「なんだったんだろう」

「さぁ?」


 ライナーと顔を見合わせて、互いに首をかしげた。ソフィアのことを話してるとき、すごく誇らしげだったし知り合いなのかな。


「まあいいか。とりあえず今日は休んで、ギルド長と会うのは明日ってことでいい?」

「私は賛成。旅続きでちょっと疲れてるし、今日はゆっくりしたいかな」


 そう言ったアリスを含めて全員が頷いた。


 ギルド長と面会するには事前に話を通しておいた方がいいだろうし、宿を見つけた後にでもギルド本部に行こうかな。ついでに賢者についても聞いてみよう。




 面会予約するだけなので俺一人でギルド本部までやってきた。街の中心部にあることはエドガーから聞いていたから特に迷うこともなかった。


「こんな風になってんのか。本部は建物分かれてないんだな」


 ギルド本部の中は冒険者ギルドと商業ギルドの二つが混在していた。


 右側は普段からお世話になっている冒険者ギルドだな。依頼を張り出すボード、簡単な料理やお酒を注文できる酒場、そして素材の買い取りや依頼の受け付けを行うカウンター。


 冒険者の数は二、三十人近く。そこそこ腕の立ちそうな人もいるけど、それでもランクBがせいぜいといった感じかな。


 左側が商業ギルド。露天形式で店を出して冒険者相手に武具やアイテムを売ってる人もいれば、商人同士で競りや商談をしていたりと様々だ。


 一人だけ俺と同い年ぐらいの女性がいて、紫色の髪でかなり目立ってた。奥の方で大人に混ざって楽しそうにしてる。


 最後に中央は総合受付みたいな感じなのかな。冒険者ギルドとも商業ギルドとも違う雰囲気のお姉さんが座って、愛想のよい笑顔を浮かべている。


「すみません。ギルド長との面会を予約したいのですが、こちらであってますか?」

「はい、こちらで承っております。お名前とご用件を伺ってもよろしいでしょうか」


 アリスたちを含めた全員の名前と、ギルド長から直接話をしたいという要望に応じてやってきたことを伝えた。明日の昼過ぎであれば問題ないらしい。


 用事を済ませたところでこっちの方はどんな依頼があるのか気になった。


「討伐系が他と比べて少ないのは飛竜隊と噂の天使隊がいるからだろうな」


 依頼ボードを眺めていると、採掘場の魔物討伐なんてものもあった。依頼日から結構経ってるけどなんでだろう? あーちょっと遠いからか。あと受注条件がランクA以上で……他にも細かい条件あるな。これは誰もやらなそう。


 素材採取系はあまり他と変わらない感じか。魔石はどこ行っても需要があるな。そういえばエドガーが使ってた魔石ってどこから集めてるんだろう。特殊個体から集めてるなら相当な数狩ってることになるけど、特殊個体ってそんなにいないはずだしなぁ。


「あっ……賢者について聞くの忘れてた」




 もう一度受付のお姉さんのところに行って賢者について聞いたら、本人に会ってみたらどうかと勧められた。なんでもお酒を手土産に持って行けば、会って話をするぐらいならしてくれるそうだ。ただし弟子入りは諦めろと。今まで多くの冒険者が玉砕してきたらしい。まあ俺は弟子入りする気はないからそこは問題ない。ついでに賢者の名前も教えてもらった。ノーブル・ヴァイオレットというらしい。


 賢者の家に向かう前にお姉さんお勧めのお酒が売ってる店にも行った。ただそこが意外と遠かったせいで、思ったよりも時間がかかってしまった。日が暮れる前には宿に戻りたいんだけど、賢者との話し合いがどう転ぶか分からないからな。


「ここで本当にあってんのか……?」


 メモ用紙に書かれた簡単な地図を頼りに賢者の家までやってきた。目の前には大きな屋敷。外から見える庭にはよく分からないオブジェの数々、金属でできた……あれはなんだろうな? 謎の物体が散乱していた。


 賢者が住む家ってぐらいだから、もっとこじんまりとした木造の家で、ひっそりと隠れ住むイメージをしていたからかなり意表を突かれた。


 立ち尽くしていると、カツッ、カツッと規則的な音が後ろから近づいてきた。振り返って確認すると、女の人が足を止めてきょとんとした表情を浮かべていた。


 あの時は距離があって、あまり顔立ちとかまでは見れてなかったけど、たぶん商業ギルドの方にいた人だ。紫色の髪が印象に残ってる。


「お兄さん、うちの前でどうしたの?」

「賢者……えーっとノーブル・ヴァイオレットさんに会いに来ました。もしかしてノーブルさんのご家族でしょうか?」


 近くで見ると小動物っぽい顔立ちで可愛いな。ただ、髪型と格好がちょっと残念というか。髪は頭の後ろで邪魔にならない程度に雑にまとめてるだけだし、何より質の良さそうな服は油汚れと染料でところどころ汚れてる。


 向こうも俺のことが気になるのか、好奇心の強そうな瞳でじろじろと上から下まで観察された。聖騎士の格好ってそんな珍しいのかな。


「うーん変な人では……なさそうだし、まあいっか。私はソフィアっていいます。ソフィア・ヴァイオレット。ノーブルは私のおじいちゃんですよ」


 そう言ってソフィアがニコッと笑った。


「もしかして発明家のソフィア?」


 これには口をとがらせて不服そうな顔をした。どうしてだろう。


「周りの人はそう呼んだりしますけど、私としては発明家のつもりはないんですよね」

「発明家じゃないなら一体きみは――」

「私はロマンを追いかけてるんです!」


 両手を胸の前でグッと握り締めて、目をキラキラさせてる。ちょっとヤバイ子に絡まれたんじゃないかな俺。


「ロ、ロマン……?」

「はいそうです! お兄さんは空に浮かぶ島の伝説を知ってますか?」

「えーっと、ごめん。知らないかな」

「遙か昔、山よりも、雲よりも高い空の上にあるとされている、天使たちの楽園と呼ばれていた島があったそうなんです。すごいですよね。行ってみたいと思いませんか!?」

「多少はあるかな?」


 興味ないですとは言えない雰囲気に、愛想笑いを浮かべながら当たり障りのない感じで答えていく。アリスとセレンが馬車の件でこの子と話をしたそうにしてたし、ここで俺が良い印象を与えておいた方が後々いいだろうという打算もあった。


「そうなんです、そうなんですよ。でもそんな空の上にある島なんて私たち凡人には到底届かない世界。あぁ、憧れの空島。でも行く術がない。それなら……」


 ずいぶんと長くタメるなこの子。むしろ俺の反応を待ってるんじゃないかって気がしてきた。


「それなら?」

「作るしかないじゃないですか、空飛ぶ船を!」

「空飛ぶ……船?」

「ええ!」


 それから話を止めるタイミングを完全に逃し、ソフィアの長い語りが始まった。空島と空飛ぶ船について熱く語られたけど半分以上理解できなかった。とりあえず熱意だけは伝わった。だからそろそろこの話終わりにしない?


「なんだか騒がしいと思ったら、ソフィア帰って来てたのか。それにそっちは……ああ君はお昼ごろ見かけた子だね。どうしたの?」


 このピンチを救ってくれるなら誰でもいい。縋るように声の方を確認すると街中で出会ったおじさんだった。


「あ、お父さん。えーっとなんだっけ? そうだ、おじいちゃんに会いたいんだって」

「そうなのか? それなのになんでお前が話し込んでるんだまったく。君も悪かったね。ソフィアは一度スイッチ入ると止まらなくて。迷惑だったら無理やり話を止めていいんだよ」

「もうお父さん! この人はちゃんと楽しそうに話聞いてくれてたもん」


 ごめん、割と困ってた。愛想よく話を聞くのも考え物だなとちょっと反省。ソフィアの父親が家の中から出てきたことでようやく解放された。


「それで父さんに会いに来たってことは冒険……いや、騎士の方か。珍しいこともあるもんだ。ソフィア」

「はい?」

「父さんの部屋まで連れて行ってあげなさい。私はお茶の準備をするから」

「はーい。それじゃあ付いて来てね。えーっと……お名前は?」


 話し込んでいたのにまだ名前も聞いてなかったのかといった感じで、ソフィアのお父さんが眉をひそめた。そうだよな、俺まだ名乗ってなかったんだよな。


 その後、名前を名乗ってソフィアのお父さんとも軽く挨拶を交わし、ソフィアの案内で屋敷の地下に入った。薄暗い通路の先には一枚の扉。どうやらここが賢者ノーブル・ヴァイオレットの住処らしい。


「おじいちゃん、お客さんだよ。入るよー」

「……客? まあいい、入れ」


 ソフィアの明るい声と、賢者の渋い声が通路に響く。ソフィアが扉に手をかけて押すと、重厚そうな見た目に反して軽々開いた。


 部屋の中には照明らしきものが無く、天井近くに光の玉が浮いていた。どうやら魔法で明かりを付けてるらしい。地下とは思えないほど部屋の中は明るかった。


「足元注意してね」

「え?」


 天井に向いていた意識を下に向ける。足の踏み場が無いとまでは言わないけど、乱雑に物が散らばっていた。


「それで(わし)の客というが……弟子ならとらんぞ」


 揺り椅子に深く腰掛けたノーブルが鋭い眼差しでこっちを見た。セレンからは老人と聞いてたけど、筋肉もしっかりとついててかなり若く見える。(ひげ)も無いし、髪が紫に染められてて白髪じゃないってのも大きいだろうけど。


「いえ、弟子にという話ではありません。少しばかりお伺いしたい事がありまして。私の名前はシルヴァリオと申します。賢者と呼ばれるほど高名なノーブルさんの知恵を頼りに参りました。こちらはノーブルさんがお好きとお聞きした品です。どうぞお納めください」


 賢者がただの人だった場合の事も考えて、一応それっぽい理由を伝える。


「これは……儂の好きな銘柄だが、さてはギルドで聞いたな。いいだろう、その酒の分は話を聞いてやる。そこに座れ」


 ノーブルが指差した先は背もたれもない小さな椅子。言われるままに座り、ノーブルと机越しに顔を合わせた。


 さて、目の前の老人がただの人かそれとも前魔王ヴィセルなのか、どっちだろうな。

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